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王女、共闘する。

45.

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「なんや……気づけば大乱闘になっとるな……」

「さっきまで争いもなくひと所にいたのが嘘のような騒ぎデスね……」

「魔物は魔物同士争わないものだったけど、核のせいで何かが変わったってことでいいのかな……?」

 阿鼻叫喚の地獄絵図状態の広間を影から眺めて、カトレアたちはヒソヒソと現状の考察をしていた。

 最初に核を取り込んで、周囲の魔物に攻撃を仕掛けた百足と蟻の魔物はすでに存在しない。

 百足の魔物はトカゲの魔物に勝利してその体躯を貪り喰っていたが、トカゲの放出したつぶてに興奮した周囲の魔物に群れで襲われ、今やその姿はもう見えなくなっていた。

 対する蟻の魔物は、自らが襲ったネズミの魔物に返り討ちにあい、あっさりとその体躯を喰らわれたが、今度はそのネズミが更に周囲の魔物に襲いかかり、広間は混乱の極地となっている。

 ひと所で始まった騒ぎは、今や終わりが見えないほどに広がり、狂ったように周囲へ襲いかかる魔物と、それに興奮して荒れ狂う魔物とで入り乱れていた。

「でも何で急に?だいたい、最初は誰も核に見向きもしなかったのに……」

「薄気味悪ぅぅ……。コレだから魔物はさぁぁ……。共食いなんてするからこんなことになるんだよぉぉぉ……」

「と、共食い?」

 パルが心底イヤな顔をしてクネクネとしているのを見上げて、カトレアは繰り返す。

「共食いが禁忌なのはぁ、禁忌故の理由がちゃんとあるってことぉ。さっきの見たでしょぉ?我を忘れて狂乱しちゃってさぁ…………ぁぁあぁ、気持ち悪いもの見たぁ……」

 ヒィィィィと顔をクシャクシャにしてシワを寄せるパルは、ベェっと舌を出す。

「……我々人間もデスが、という行為は結果的には支障を来たすように作られていると言いマス。まさしく神の御業みわざデスが、魔物も同様なのかも知れマセん。……昆虫型のようにより本能的に動く種が、単純に魔素に惹かれて核を取り込み、一種のバーサク状態……興奮状態に陥った結果、敵味方問わず攻撃し、その興奮状態が伝播しているのデハ?」

「……理由はどうあれ、人間の意図で制御できそうなものでもなければ、人間に有利に働くものでもないって感じの結論ね……」

「……とは言えや。当初の計画とはちょっとばかし違うが…………こんだけ混乱しよるならいけるんちゃうか?」

「魔物に狙い打ちにはされなさそうだけど、混乱に巻き込まれる可能性は大いにあるから気をつけないと……」

「えぇ…………コレに突入するのぉぉ…………?」

「……ホントにお2人は息ぴったりデスね…………」

 経路を相談し出すカトレアとグレンに、パルとリオウは言っても無駄とは思いつつ、口から出る言葉を止められなかった。
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