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王女、共闘する。

44.

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「……おい、食いよったで……」

「あ、見て下サイ。黄色いの核もーー……」

 紫の核に引き続いて、黄色の核に近づいた大きな蟻のような魔物も、しばし確かめるように様子を見た後、ばくんと核を丸呑みにした。

「……食べちゃった……」

「食べおったな……」

「食べましたケド……しかし、あんな状態デハ、餌にはなりませんネ……」

「……駄目か……」

 エサとして引き付けられれば、その混乱に乗じて広間を突っ切る成功率が上がるという目論みだったが、この結果では成功とはお世辞にも言えない。

「……他の手を考えないと……」

「えぇ加減あの2人も心配や……っ!もうこうなったら一か八かで俺が引きつけてーー……っ」

「思考停止で馬鹿なことを言わないで下サイ。死ぬつもりデスか⁉︎」

「ちょっと2人とも落ち着いて!」

 焦りからイライラが募るグレンを宥めにかかる2人を眺めつつ、パルは静かに核を取り込んだ2匹の魔物の様子を眺めていた。

「…………カカトレアぁ……。何て言うかぁ、何かへんだよぉ……?」

「……変?」

 パルに言われ、カトレアが広間を確認するも、2匹の魔物は核を取り込んだ後も変わりなくうぞうぞと広間を歩き回っているだけで、特段の変化は見受けられない。

「何が変なの?」

 騒ぐグレンとリオウを他所に、広間を食い入るように見つめるパルを見上げてカトレアが尋ねると、パルはその栗色の毛をじわじわと逆立たせる。

「うまく言えないんだけどぉ、何か空気がザワザワしてきてるよぉ?」

「……ざわざわ?」

 そう言われてもう一度広間を見るも、やはりパルの言わんとしていることはカトレアにはいまいちわからなかった。

 動物的感なのか、種族的な感知能力の差であるのか、パルの言わんとしていることはカトレアにはわからない。

「それってどう言うーー……」

 カトレアがパルを見つめて呟いた瞬間、魔物の鳴き声がけたたましく坑道に響く。

 反射的に広間を振り返った先にカトレアが目にしたのは、核を飲み込んだ百足の魔物がトカゲのような魔物に巻き付いて噛み付いた姿だった。

「さっきまで互いに無関心に見えたのに……。核を取り込んだから?」

「なんや騒がしいな、どないしたんや」

「……もう一方の魔物も周囲を襲い出しましたネ……」

 けたたましい叫びをあげて、にわかに広間が騒がしくなる。

 百足の魔物が巻き付いたトカゲの首元に噛みつき、蟻の魔物はネズミの尻尾に食らいつく。

 トカゲの魔物は巻きつかれたまま動けないようで、手足と尻尾をバタつかせながら叫び声をあげ、断続的に口から氷のつぶてを吐き出す。

 周囲の魔物たちは飛来する礫に当てられ騒ぎ立つなかで、巻き付かれたトカゲの魔物は百足に対抗する手段がないようだった。

 蟻の魔物に襲われたネズミの魔物は、千切られた尻尾を口に咥える蟻の魔物へと向きを変えて臨戦体勢に入る。

 突如として騒ぎ立つ広間の状況に、カトレアたちは息を飲んで成り行きを見守ったーー……。
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