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王女、交流する。

21.

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 突如飛び出して来た影に行手を塞がれ、カトレアは急ぎその場に立ち止まる。

 剣を構えながらその正体を確認すると、それは黒い靄を凝縮したように輪郭を揺らす黒い野犬のようだった。

 紅くギラつく目と、白光りする牙が唸りを上げながらカトレアを見据えている。

「……これって……魔法?」

「この気配は魔物だねぇ」

「魔物って何?あの2人のどっちかの仕業ってこと?」

「単純に魔物に出くわしたっていうのが正しいと思うよぉ」

「何でこんな時にっ⁉︎」

 今にも襲いかかって来そうな靄状の黒い犬型の魔物に対して、パルと話しながらカトレアはジリジリと距離を取る。

 鼻面にシワを寄せて牙を剥き出し、喉を鳴らす魔物はジャリっと地面を踏み鳴らし、今にも飛びかかってきそうな雰囲気だった。

「パルは出てこないでね。多分大丈夫だから……」

「た、多分なのぉ……?」

 不安そうなパルの声をよそに、カトレアは魔物から視線を外さない。

 カトレアの左足がじゃりっとわずかな音を立てるのと同時に、魔物は唸り声を挙げながら大きな口を開いて飛びかかってくる。

 ピクリと小さく反応しながら、カトレアは素早い動きで向かってくる魔物の動きをしっかりと見極め、持ち前の剣術で華麗に迎え討った。

「ギャウゥッ」

「……声は見た目通り、やっぱり犬っぽいのね」

「そんなこと言ってる場合ぃ?」

 剣に切り付けられて痛みに呻く魔物から警戒を怠らないままに、カトレアが場違いなことを呟くと、パルに咎められる。

「ふむ、これくらいなら私でも何とかなりそうよ」

「その無駄に冷静なとこぉ、悪くないけど周りは心配だからさぁ……」

 何とかしてぇ……。と、尻すぼみになるパルの声に、カトレアは視線を動かさずに口を開く。

「……どうしたの、パル」

「…………これはぁ、カトレア直ぐに逃げなきゃぁ。囲まれてるよぉ」

「……やっぱり?そんな気がしてた。気配がすごいもんね」

 ふっと笑うカトレアの言葉を合図にするように、周囲の草むらから葉音を立てながら同じ形状の魔物が前後から加えて3体現れる。

 いずれの魔物も、明確にカトレアに狙いを定めているのがありありと伺えた。

 カトレアのこめかみを、汗が滑り落ちる。

「ど、どうするのぉ?」

 パルの声に焦りが滲むも、カトレアはふぅぅと息を細く吐き出す。

「どうするもこうするも、やるしかないじゃない?」

「えぇぇぇぇぇぇ……っ」

 パルの悲痛な声が、鬱蒼と茂る森の中に消えた。

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