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王女、交流する。
20.
しおりを挟む目の前を覆う光が薄れた瞬間に、浮遊感が突如としてなくなり重力に従ってカトレアは下へと落ちた。――そこは、森の中でも一際大きく育った大木の枝分かれした幹の上だった。
「――今度は森……」
3人が幹の中腹に立っていても多少の余裕がある大木は、空を覆うように枝葉を伸ばして青々としている。下を覗けば5メートルほどはありそうな高さではあったが、カトレアの運動神経と剣があれば降りられないことはなさそうであった。
カトレアたちが立つ枝分かれした幹の一角には、先ほどと同様に布に描かれた魔方陣が釘で縫いとめられている。
――多分だけど、この魔方陣を目印に移動してる感じ……よね。
背後で、再びリオウが呪文を唱え始めるのが聞こえる。どうやら再び飛ぶつもりのようだった。
ふぅ。と息を吐き、カトレアは静かに宝石を入れた袋に手をかける。
「おい、変な動きするなよ」
目ざとくヒエンが睨みを利かせてくるので、カトレアはヘラリと笑う。
「何もしないわよ。ただ、さっきも風が強かったし、万一宝石を落としたりしたらお互い不幸じゃない。ちょっと確認しようと思っただけ」
「……なんでもいいから動くな」
「……わかったわよ」
じとっとこちらを睨み付けるヒエンの視線を浴びながら、カトレアは宝石の袋を持ったままに両手を降参のポーズに軽く挙げ――……その袋を逆さまにして宝石をばら撒いた。
「は……!?おい……っ!えっ!?おい!待て!」
散らばる宝石に思わず目を奪われるヒエンを尻目に、カトレアは素早く大木から飛び降りる。上からはヒエンの声が追ってくるが、気にしている余裕はなかった。
事前にシミュレーションしていた横枝にぶら下がりながら、腰に帯剣していた剣を抜いて大木の幹に突き刺し、勢いを殺しつつ地面に降り立つことに成功する。
大木の根元に転がり落ちている宝石を尻目に、カトレアはそのままの勢いで森の中へ走り込む。
「おい!てめぇ待てこら――っ!!」
「宝石ばら撒いちゃって本当にごめんね!!協力してくれて本当にありがとう!!」
「謝罪と礼が欲しいんじゃね――っ!!」
怒り狂っているヒエンの姿が浮かぶが、千載一遇のチャンスを棒に振るわけにもいかないので、カトレアは走りながら大声で叫ぶ。
そのまま後ろは振り返らずに、ひとまず行けるところまで行こうとカトレアは森の中を走り続けた。
「カトレアぁ。無茶しすぎだよぉ」
「パルは最後の切り札なんだから、合図するまで絶対に出てこないでねっ」
「もうヒヤヒヤすることしかなくてぇ、ホント心臓がいくつあっても足りないよぉ」
ぶつぶつと服の下から聞こえてくるパルの非難の声も意に介さず、カトレアは速度を緩めない。
思ったよりも人が良さそうな2人組ではあるものの盗賊であることに違いはないため、いつまでも主導権を握られている訳にはいかなかった。
「ヒエンさんの感じだと黙って追いかけてくるなんてできなそうだけど、撒いたのかしら……」
最後に聞いたヒエンの怒声から追いかけてくる気配がないなと感じつつも、ヒエンの運動神経を目の当たりにしているカトレアとしては気は抜けない。
ハァハァと荒い息を吐きつつ、カトレアは念には念を入れて足を緩めることはなかった。
「……ねぇ、カトレアぁ……気を付けてぇ。なんか嫌な気配がするぅ」
「……嫌な気配……?」
服の下から話しかけてくるパルにカトレアが言葉を返した次の瞬間、突如進行方向をふさぐように黒い影が茂みから勢いよく飛び出てきた――……。
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