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王女、家出する。

13.

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「……あんだアレ?」

「まぁ服装を見るに、この国の王宮魔術師デスかねぇ」

 汗だくで体調不良になりながら、急に現れてそのままカトレアを連れ去ったクシュナの後ろ姿を眺めながら、ヒエンはその赤い瞳を吊り上げる。

「アタシらをめっちゃどスルーするだけに飽き足らず、あのひ弱ヤロウ、アタシらを睨みつけていきやがったぞ!」

「まぁ目つきは悪かったデスが、体調が良くなかったのと、不審がられただけだと思いマスよ?現に不審者デスし。むしろこちらに構わないでくれて有難いところではないデスか?」

 いら立つヒエンをなだめつつ、リオウは相変わらずの笑顔を崩さない。

「だいたいあの女なんだったんだ?おとなしく連れていかれて、結局何がしたかったんだよ」

「……まぁ、あちらの都合は結局よくわかりませんでしたが、ヒエンさん、あなたの腹の虫が収まらないのなら、成功するかは知れませんが一泡吹かしてみてもよいデスよ?」

「……はぁ?どうしたんだよ、リオウ。珍しい。ヤケに好戦的じゃん」

 変なモノでも食ったのか?と訝しげにするヒエンに、リオウは細い目の奥から遠ざかるカトレアとクシュナの後ろ姿を笑みを浮かべたままに見つめる。

「別に特別な理由なんてありませんヨ。まぁ、言うなればあの娘に少し興味が湧いたのと、頂けるという持ち物を持ち帰れば、さんが喜ぶのではと思っただけデス」

「……アニキ、喜ぶか?」

 急に聞く耳を持つように、ヒエンは態度を変えてリオウの言葉に反応する。そんなヒエンをニッコリと笑顔で見下ろしたリオウは、静かに笑みを深める。

「ふぅん?……ま、アニキが喜ぶんなら、あの女に協力してやってもいいぜ。あの目つきの悪い色白男にも借りがあるしな」

「些細な借りで気の毒デスねぇ。そしてヒエンさんに目つきを言われるとは、彼、今日はきっと厄日デスね」

「何か言ったか細目」

「いえいえ何も」

 あぁんっ⁉︎と凶悪に顔を歪めるヒエンに、降参とでも言わんばかりに両手を身体の前でヒラヒラさせて、リオウは軽く笑う。

「ま、冗談はこのくらいにして、用意をはじめマショウか」

「おぅ、任せな。何すりゃいいんだ?」

 俄然やる気に満ち溢れるヒエンを眺めながら、リオウはその姿を生暖かく見守った後に、手筈を話しはじめた。

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