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王女、家出する。
12.
しおりを挟む「ふむ。……まぁ、いいデスよ。乗りましょうか、その話」
「はっ⁉︎」
「……!」
リオウの言葉に過敏に反応したのは案の定ヒエンで、今にもリオウに掴みかからんばかりに殺気立っている。
ヒエンを華麗にスルーして、カトレアを見つめていたリオウは再びニッコリと人の良い笑みを浮かべて口を開いた。
「ただし、なぜ壁の外へ出たいのか教えて頂けマスか?」
「…………会いたい人がいる」
「それは誰デスか?」
「…………聞いてどうなるの?」
「別にどうもしませんヨ?手を貸す以上、アナタがおっかない人だったら困るデショう?」
「……盗賊におっかない人呼ばわりされるのも新鮮ね」
「お前どういうつもりだよ、こんな女の言いなりかよ」
「言いなりでもないデスが、余計な労力を使うよりもよくないデスか?それに、中途半端なとこに入って危険を犯して盗るよりも、多分アレを貰った方が価値がありそうデスし」
「はぁっ⁉︎ホントかよっ⁉︎」
2人の押し問答を聞きながら、カトレアは早鐘のように打つ鼓動を制御するのに必死だった。焦っていたり、緊張しているように見えないように、必死で自身を奮い立たせる。
そして頭では外へ出られた後のことに、考えを巡らせていた。
現状の身の安全は、町の中での大量の兵士と言う条件下で成り立つものであり、一度外へ出てしまえば守られるものは何もない。
外へ出るや否や、手を出されても不思議ではないし、曲がりなりにも一国の王女ーーしかも現時点で仮の王位継承権をもつカトレアが、盗賊に捕まることは避けなければならない。
ーー外に出たら、ひとまずアクセサリーをぶち撒けて速攻で逃げる……!
ごくりと喉を鳴らしながら、カトレアは作戦と言うにはあまりにおざなりな計画を考えつつ、ギャーギャーと騒ぐ2人……正確には1人とリオウを見守る。
そんな息を詰めて集中しているカトレアの背後に、静かに忍び寄る影ーー。
「あんたこんなとこで何してるんですか!」
「えっ⁉︎」
ガッとカトレアの細い腕を掴み上げたクシュナが、汗だくで蒼い瞳を吊り上げていた。
「ク、クシュナ……っ⁉︎どうしてここにっ⁉︎」
「あんたが出てきた出口から……っ!……人目を避けるルート……っ……なんてっ……っ……だいたい……こんな……っ……もん…………っ」
「…………だ、大丈夫……?」
最初の勢いは徐々に尻消えていき、最終的には乱れた呼吸で二の句が告げずに荒い息を繰り返すクシュナに、その場の視線が集まる。
「……ぅっ……っ……き、気持ち……悪……っ……」
「ちょっ……ホントに大丈夫……?体力ないくせにそんな走るから……っ」
「……誰の……っ……せいだと思ってるん……ですか……っ!」
ゼーゼーと肩で息をしながら滝のように汗を流し、顔色も悪いながらも明らかにイライラとして睨みつけてくるクシュナに、カトレアは後退る。
男性にしては生白く細いクシュナの手は、そんなカトレアの身じろぎすらも許さないと言わんばかりにキツく握りしめていた。
「ご、ごめんってば……」
稀に見るクシュナの怒髪天ぶりに、さすがに誤魔化せる雰囲気が微塵もなく、カトレアは視線を泳がす。
「……帰りますよ」
「え?あ、ちょっと……っ⁉︎」
低く呟いたクシュナにそのままぐいぐいと腕を引かれ、カトレアは口を挟めぬままに連行されていく。
肩越しに2人組を振り返るカトレアはすがるように、けれど行動に移す確信も持てない迷いで、複雑な表情を見せるしかなかった。
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