【完結】希望 ~差し伸べられたのは貴方の魂の光でした

Hinaki

文字の大きさ
上 下
46 / 130
第四章  新たな出会いと別れ

7  恐怖

しおりを挟む


 土山さんが退職し寂しく感じる間もないくらい毎日が怒涛の様に過ぎていく。
 そんな中私と武井さんは顔を合わせる度、まるで合言葉の様にある言葉を紡いでいた。

『『』』

 まるでお子様かっ――――と突っ込み満載ではあるけれどもである。

 お互いに抜け駆けでここを退職するのは厳禁だよ……と、常にお互いへ言い聞かせていたのだ。

 そうは言っても武井さんは何時正式にセンター長へなるのだろうか。
 MEとしての実績が認められての出戻りヘッドハンティングの筈だったのに……。


 ひと月二月と時は過ぎ行くけれども一向に彼が正式に就任すると言う噂もなければ、彼自身からその様な話の一つとしてなかったのである。
 まあ元々とっぽい感じのお兄ちゃんキャラで下ネタぶっこんでくる様な人物ではあるけれども、だからと言って決して口が軽い訳ではない。

 抑々そもそも私達へ話をしてくれるのはきっと問題のないレベルのモノばかりだったのだろうと思う。

 そう、私が肌で感じる程の異常さを武井さん自身が気付かない訳もなくと言うか、十年前既にここで働いていたのだからそこの所は十分過ぎる程に知っていただろう。

 知った上での出戻り。

 でも彼曰く十年経ってもっと状況は酷くなったとある日ぽつりと呟いていたのを今も覚えている。

 出戻りさんまでもが怖気ずくくらいに酷くなっているって一体どんなのだよ!!


 はあぁぁぁ、本当に声を大にして叫んでやりたい。
 武井さんがセンター長になる様子はなく未だここの責任者は看護部長が兼任と言う体を取っているけれどもである。

 実質上の権力者はドンである

 そしてもし彼女が准看護師でなく正看護師ならば別に独裁体制を取ったとしても――――として済んでしまうのが今の社会なのだろう。

 だがリアルの藤沢さんは間違いなく正看護師ではなく准看護師だし、そこは法律上医師、歯科医師正看護師の指示の許で准看護師は動かなければいけないのである。


 そんな彼女を毎日見て、接しているとこれまでの私の価値観までもが可笑しくなりそうで怖かった。
 そうこの状況に決して慣れてはいけない。

 これは本当にあり得ない事!!

 この日本では許されない異常な世界なのだとっ、私は心の中で自分を戒める。
 この状況に慣れた瞬間私のこれまでの准看護師としての何もかもが終わってしまう感じがして怖い――――。


 お願いだから誰かこの異常事態を正して欲しい。
 特別な事は言わない。
 世間一般的なお願いなのである。

 誰か、この病院の真実を知って!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

春にとける、透明な白。

葵依幸
ライト文芸
彼女のことを綴る上で欠かせない言葉は「彼女は作家であった」ということだ。  僕が彼女を知ったその日から、そして、僕が彼女の「読者」になったその日から。  彼女は最後まで僕にとっての作家であり続けた。作家として言葉を残し続けた。  いまはもう、その声を耳にすることは出来ないけれど。もしかすると、跡形もなく、僕らの存在は消えてしまうのかもしれないけれど。作家であり続けた彼女の言葉はこの世界に残り続ける。残ってほしいと思う。だから、僕は彼女の物語をここに綴る事にした。  我儘で、自由で、傲慢で。  それでいて卑屈で、不自由で、謙虚だった長い黒髪が似合う、彼女の事を。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

詩集「支離滅裂」

相良武有
現代文学
 青春、それはどんなに奔放自由であっても、底辺には一抹の憂愁が沈殿している。強烈な自我に基づく自己存在感への渇望が沸々と在る。ここに集められた詩の数々は精神的奇形期の支離滅裂な心の吐露である。

いとなみ

春秋花壇
現代文学
旬と彩を織り成した 恋愛・婚約破棄・日常生活 短編集 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

泣き虫エリー

梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。 初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。 戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。 そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。 強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。 「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

日々徒然日記

克全
エッセイ・ノンフィクション
 自分の小説を、自力で10冊プリントオンデマンド本と電子書籍にしました。現在日本アマゾンとアメリカアマゾンを中心に販売していますが、その経過と日々感じた事を書いて行こうと思います。

処理中です...