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第四章 新たな出会いと別れ
8 気づけば……
しおりを挟む「今日私は七人も穿刺したよ」
「うん……」
「それで桃園さんは?」
「あー私は三人……かな」
「ふーん、私は頑張ったよ。どぉ偉いでしょ!!」
……まるで何かうん、これは最近よく出現する様になったお馬鹿なヒロイン若しくは主人公を虐めては得意満面となるか、はたまた自分が物凄~く特別な存在だと思い込む脳内残念過ぎる妹キャラ――――の話ではない。
普通に現実……約八年と少し前にやり取りをしたであろう立派なリアルでの一幕だ。
そう場所はN病院の透析センターの手洗い場。
朝の穿刺を終え手洗いをしている所での会話だったりする。
桃園――――と呼ばれている通り会話の中には当然私も含まれている。
しかしはっきり言って私にしてみれば嬉しくない内容である。
そしてそんな私へ得意げに、めっちゃ上から目線で話しかけてくるのは……鷲見山 小百合。
土山さんが退職するまではこんな感じではなく普通に会話をしていたし、よく一緒に仕事もこなしていた。
赴任当初もだが少し前まで上から目線で話すキャラでもなければ……まあ少しだけかな。
二人姉弟の長女だと言っていた通り鷲見山さんはしっかりした所もあるのだが、看護師の中では比較的年齢は若い方である。
それ故なのかは知らないけれどもだ。
まるで小さな子が自分と言う存在を注目して欲しい、また見て欲しいと言わんばかりに何時も私がねとか、何かにつけて私は偉いし可愛い等とよく自己を強調して話す所は時折あったにせよである。
だからと言って土山さんがいる頃はここまで高圧的であからさまに上から目線で話すキャラではなかった筈――――だった。
なのに彼女が退職してからだと思う。
気づけば少しずつ、何かにつけて何故か私へ高圧的に接してくるのである。
またその原因は未だにわからない。
私は常勤で彼女は派遣。
しかしその何れも誰が決めたのでもなく自分達がそれぞれに選んで決めた事。
寧ろ今から常勤になりたいと言えばこの人手不足の病院なのだ。
きっと諸手を挙げて採用してくれるのに違いない。
だからしてこの理由は違うだろうと私は思う。
では他に何か?
それが全く思い至らない。
土山さんが辞めてからの私は最初は別に何も感じなかったし気付きもしなかった。
抑々ここへは遊びに来ている訳ではない。
まあ普通に仕事で忙殺された毎日を過ごしているのである。
その仕事の合間に挨拶や話し掛けられればそれなりに返答をしていただろう。
でもそれだけ。
仕事が忙し過ぎるのと私自身の性格が余りにのんびりとしていたと言うか、ただ単にマイペースだったのかもしれない。
勿論患者さんとのコミュニケーションはそれなりに取れてもいた。
穿刺に失敗すればきちんと謝罪し、また失敗してはいけないからと穿刺を違う人へ変わって貰う事を説明しても――――。
『いいからもう一回刺してみて』
と優しいお言葉を頂いた時はめっちゃ胸が熱くなる半面、
『もうお前が刺すな!!』
と中には厳しいお言葉も頂戴する時もある。
だがそれも全て私の穿刺の技術の至らなさが原因なのだから私は文句何て言わないし、言う資格もないのだと捉えていた。
またどんなに怒られたとしてもである。
きっと他の何かで挽回出来るかもしれないとも思ったし、穿刺だけが透析看護ではない。
そうくよくよ悩むよりも前を向いて笑顔で歩いていこうと言うスタイルでこれまでの人生を歩んできたのである。
のんびりマイペースな性格だから気付くのが少し遅かったのかもしれない。
徐々に看護師の中で私が孤立をしている現実を知る事に……。
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