14 / 122
第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
9 捕獲 Sideエヴァ
しおりを挟むとても良く知った、常日頃冷静沈着で多少の事等決して微動だにしない彼女の驚いている声は本当に珍しい。
本来ならばここは脱兎の如く逃げるべき。
しかし今の私は余りにの事に腕をむんずと掴まれるまで逃げる事を忘れていたわ。
当然私は返事をする事も出来ないでいた。
そして背後より腕を掴まれたまま私は振り向く事さえも出来ない。
何故って?
ほら物凄くどす黒い怒りのオーラが背後より溢れ出しているのを感じ取ってしまったのだもの。
「――――申し上げておりませんでしたでしょうかエヴァ様」
「…………」
「くれぐれもお一人で外出はなさらないで下さいとと!! 私はこの六年と約半年もの間毎日毎日出掛ける前に貴女様へ繰り返しお伝えしたと思っておりましたのですけれど」
「…………」
「あのご様子でしたら今日が初めての外出ではないのでしょう」
「…………」
「私は何よりもエヴァ様大事と思ってお傍でお仕えさせて頂きました。ですがエヴァ様にとってこのアナベルの言葉は吹けば飛ぶ様な紙切れよりも軽いので御座いますね」
「――――違っっ!!」
私はそれまでの沈黙を破り思わず否定しようと私の前で仁王立ちしているアナベルを見上げた。
だけどそんな私を彼女はその綺麗な水色の双眸をこれでもかというくらい細め、形の良い唇は弧を描き常にはない妖艶な笑みを湛えている。
まるで悪魔の微笑だと私は瞬時に思ってしまった。
今までにない恐怖を感じ取った私は全身が総毛立つと同時にぷるりと震えてしまう。
これまで約十年、アナベルと一緒に過ごしてきたけれどこ、こんなに悪の大王様の如く怒っている彼女を私は知らない。
いえ切実に知りたくもなかったわ。
話は少し元に戻るわね。
私が今日おバカにもいえ、能天気に街の中をウォッチングをしていた場所は何とアナベルの勤める食堂近くだったらしい。
知らないって本当に怖い。
様々に賑わうお店や人々を見るのを楽しんでいたのだから当然と言えば当然だし自然の流れと言えばそうなのだけれど、兎に角流されるままにアナベルの勤める食堂の前も普通に歩いていたわ。
楽しくてワクワクしながら歩いている私を丁度食堂のランチタイムが終了し、その看板を片づけようとしていたアナベルの前を素通りした瞬間だった。
私はアナベルに全く気づいてなくても、全なんな事に彼女はしっかり私へ気付いてしまった!!
離宮で大人しく過ごしている筈の主人がよ。
齷齪働く自分の目の前に何の警戒もなく、能天気にへらへら~っと出歩いていたのですもの。
我ながら実に情けないと思う。
アナベルに声を掛けられるまで彼女に一切気付きもしなかった自分にね!!
当然声を掛けられ見つかってしまった私はアナベルに即確保された。
それから彼女の勤務時間が終わるまで食堂の片隅で待ての状態だったわ。
でも食堂の女将さんは話に聞いていた通りの感じのいい女性で私の事はアナベルの妹だと思ったらしく、仕事が終わるまで賄いを振る舞ってくれたの。
言うまでもなく賄いはとても美味しかったわ。
ルガートへ来てからというものお肉なんて殆ど食べてなかった。
贅沢は敵視……ではなく、計画の為に必要最低限の慎まし禍かな生活を送っていたものね。
だから久しぶりに肉汁たっぷりなビーフシチューが掛けられたふわふわなオムライスを堪能出来て私のお口と胃の中は幸せに包まれてしまったの。
でもそんな私に時々アナベルの刺す様な冷たい視線のお蔭で何故か心は完全に幸せになれなかったわ。
ちゃんと理解はしていてよ。
今回の行動の全ては私に非がある事も、またアナベルの心情もね。
そうして彼女の仕事が終わると私は引き摺られる様に離宮へ連れて帰られ、今現在進行形でダイニングにある椅子の一つへ腰を掛けお説教を受けている。
「わ、私はアナベルの事は単なる侍女とか話し相手でなく姉妹の様に大切な存在……よ。だ、断じて紙切れみたいだなんておっ、思っていないわ」
そうこれは嘘ではない。
私にとってアナベルは本当に大切な存在なのだもの。
でもアナベルさん、その少し……いえそのかなり怖いです。
「……ふぅもう宜しゅう御座います。此度の件は私自身詰めが甘かったのも一因なのでしょう。エヴァ様が好奇心旺盛で何でもやりたがるご気性なのは昔より十分理解しておりましたからね。以前より街へ働きたいと仰っていた頃より何時かはこの日が来るかもしれないと予想もしていたのです。なのに敢えて何の手立ても講じなかったのは私の不徳と致す所でもありますわね」
アナベルは深く嘆息した。
そしてほんの少しだけ彼女は優しく微笑んでいたの。
「ごめんなさいアナベル。本当に心配を掛けてしまったわよね」
「いいのですよエヴァ様。寧ろ今までよくもった方だと思います。多少心配はありますがエヴァ様も15歳になられたのです。以前と比べればこの国の治安も落ち着いていますし、お昼時なら少しだけの外出も気分転換かと思う事にしましょう。ですがエヴァ様、今後外出される時には是非ともこれを掛けて下さいませ」
え?
何それ……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
248
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる