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第1部 勤労令嬢、愛を知る - 第1章 勤労令嬢と侯爵様
第13話 ある騎士の手記
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シェリンガム暦1842年5月16日
戦場から首都に戻って、1ヶ月が経とうとしている。
仕事は驚くほど減らない。
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6月2日
旧ハックマン領から、侯爵閣下が新たに領主となったことへの祝いの品が届いた。
穀物や果物など、多種多様な農産物が届いたわけだが、侯爵閣下は渋い顔だった。
昨年は国中が凶作に見舞われたはずだが、ハックマン領はその限りではなかったことが判明したからだ。
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6月10日
急遽、侯爵閣下が領地へ戻られることになった。
旧ハックマン領について調べるように、国王陛下から内々の命令があったらしい。
もちろん、私も同行する。
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6月28日
旧ハックマン領の中でも東の方で、凶作の難を逃れた地域があることがわかった。かたまっているわけではなく、ポツポツと飛び地のように。気象条件が良かったというわけではないらしい。
謎はどんどん深まっていく。
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7月7日
侯爵閣下の命で、旧ハックマン領の東端に位置する村に来た。
誰かに口止めされているのか、誰もが事情を話したがらない。しかし、どうやら『獣避け』と『肥料』に秘密があるということはわかった。
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7月12日
ようやく秘密が判明した。
ここからさらに東の村から分けてもらった『獣避けの香』と『肥料』が、それだ。
いずれも魔法が使われていることがわかった。こんな魔法は、国内の魔導書や魔法教本にも載っていない。
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7月17日
手紙で報告を送ったところ、侯爵閣下が旧ハックマン領までやって来た。
直接お調べになるとのこと。
例の香と肥料の出どころと言われた村へ行ってみたが、ここの住人はさらに口が固く、何も聞き出すことができなかった。
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7月21日
ようやく村人の一人が話をしてくれた。
昨年の春、『ジェイ』と名乗る少女が来て、こう言ったらしい。
「今年は凶作になります。この香と肥料を、できるだけ広めてください。ただし、私のことは秘密にしてください」と。
確かに凶作の予兆はあったため、村人たちは半信半疑ながら少女の言う通りにした。結果、少女を信じた村だけが凶作の難を逃れることになった、と。
『ジェイ』もしくは、その背後にいる人物は貴族だ。農作のために魔法を使ったことを隠すため、自分のことは秘密にしてほしいと言ったのだろう。
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7月22日
昨日、話をしてくれた村人が侯爵閣下を訪ねて来た。
『ジェイ』を助けてやってほしい、というのだ。
その謎の少女は、オニール男爵家の令嬢だが、家に閉じ込められて下働きをさせられている。たった8歳の子供だと言う。
この村人は、たまたま日雇いでオニール男爵家に雇われたことがあり、そこで『ジェイ』を見かけたと。
「自分達を助けてくれた少女が、あまりにも不憫な目にあっているので助けてやってほしい」と涙ながらに訴えていた。
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7月24日
まず、私だけで事実を確認しに行くことになった。
結果は、最悪だった。
8歳の少女、しかも血のつながった娘を、まるで下働きのように扱っていた。しかも虐待まで……。
しかも、お嬢様の魔法は特別だ、我々の魔法とは違う。
……侯爵閣下が以前話していた『新しい時代の魔法』だと、すぐに分かった。
侯爵閣下に報告したところ、一も二もなく迎えに行くとおっしゃった。
すでに身体的な虐待があるので時間はかけられない。十分な『資金』を準備するように、と。
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7月25日
お嬢様を迎えに行った。
侯爵閣下に抱かれて眠ってしまったお嬢様を連れて、そのままマクリーン領の屋敷へ向かった。馬を替えながら、一気に駆け抜けた。もしも男爵が追って来たとして、追いつかれるようなことがあってはならない。……そんなことには、ならなかったわけだが。
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7月26日
午後に目覚めたお嬢様は、侯爵閣下と初めてのティータイムを過ごされた。結果は、散々だ。
侯爵閣下は、もともと口下手なので心配はしていたが……。お嬢様はお嬢様で、長年の虐待経験から子供らしさが抜け落ちてしまっている。いっそ卑屈だ。
このお二人には、時間が必要なのだ。
とはいえ、侯爵閣下は首都に戻らねばならない。仕事が山積みだから。
侯爵閣下は「明日から、この屋敷の主人はジリアンだ」とおっしゃった。
使用人も騎士も、反対する者は一人もいなかった。むしろ、この言葉を歓迎した。
お嬢様は多くの民を凶作から救った。誰に命じられたわけでもなく、自分の意志で。自身が虐待されるという辛い状況の中にあったのにもかかわらず、だ。見つかれば、オニール男爵に叱られると知っていただろうに……。
優しくて勇敢な主人を、皆が歓迎した。
そして、侯爵閣下は私を『お嬢様の騎士』に任命してくださったのだ。
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8月6日
お嬢様は相変わらずだ。
何をしたいかと聞いても答えられない。折に触れて「働かせてほしい」と訴える。
お嬢様から『子供らしさ』を奪ったオニール男爵が憎い。
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8月28日
深夜、お嬢様が屋敷を出た。
クェンティンの冒険に影響されたのだろうとは思う。ここ数日、隠れて路銀を稼いだり茶器やら毛布やらを準備したりしていたので、目を離さないように気をつけてはいた。
ただし、侯爵閣下の命令通り、お嬢様のやりたいようにしていただく。
私はただ、見守る。そしていざという時には、この身を盾にしてお嬢様をお守りするのだ。
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8月30日
お嬢様が、同じ年頃の少年とお知り合いになった。
『アレン』と名乗っているが、あの方は……。これ以上は、ここに綴ることはできない。
ただし、侯爵閣下にはありのままを報告した。『流れに任せろ』とのことだった。
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9月1日
ついに、お嬢様が野宿を強いられることになった。助け舟をとも思ったが、意外にも冷静に野宿の準備をされた。選んだ場所も悪くない。ぐっと堪えて見守ることにした。
ところが、アレン少年がお嬢様の肩を抱いたことには辛抱ができなくなった。
お嬢様が眠ったところを見計らって話しかけたが、彼には他意はないようだった。ただ、このことはしっかりと侯爵閣下に報告した。
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9月15日
お嬢様の表情が、どんどん明るくなっていく。
大人ではどうしようも出来なかったお嬢様の心が、少しずつ解けていくのがわかる。
悔しいが、彼のおかげだ。
……いや。侯爵閣下のお手紙の成果だ。そうに違いない。
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9月28日
お嬢様が、ついに首都に到着された。怪我もなく無事に。
そして、侯爵閣下のことを『お父様』と呼んでくださった。
本当は止めるべきだと心のどこかで思っていた。無理やり自分を苦境に陥れているようで、辛かった。
けれど、この旅はお嬢様にとって……侯爵閣下とお嬢様、お二人にとって必要な旅だったのだと、今になってわかる。
立派だった。本当に自分の足で歩き切った。勇気を出して、自分の心の内をさらけ出した。クェンティンと同じように……いや、彼よりも、すごいことを成し遂げたのだ。
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シェリンガム暦1851年8月31日
明日、お嬢様は王立魔法学院に入学される。
17歳になったお嬢様が、とうとう人前に出ることになるのだ。
侯爵閣下の養女になられて9年。多くを学び、さらに賢くなられた。そして、本当に美しく成長された。男どもが放っておかないだろう。
それに、マクリーン侯爵家の後継者として、今後は政治的にも難しい位置に立たされることになる。
私がお支えしなければ。これまで以上に。
勇敢で辛抱強く、知恵もある。なによりも、優しさにあふれている。
私の小さなお嬢様。
これからもずっと、私がお守りします。
第1章 完 To be continued...
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第1章(子ども時代編)これにて完結です!
次話から、17歳に成長したジリアンの物語が始まります。
アレン少年との進展は、果たして……?
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