捨てようとした命の価値

水谷アス

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自分の存在価値

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「太郎君は…
自分に価値が無いと思って
自殺したって言っていたけど

ネコウサギは
”何もない”相手には
”何もしない”の。

あなたの前に並べられた
リンゴの数だけ…
あなたにくっついて
眠っていた
ネコウサギの数だけ…

彼らからしたらあなたは
『価値がある』存在だった。

…それだけは、覚えておいて」

自分の価値も居場所も無い。
そう思っておれは
あの崖から身を投げたけど

そんなことはなかった。

ネコウサギ…モゲマルは
おれにそれを
教えてくれたんだ。

「人間の価値って…
自分で決めることでは
ないと思ってる。

実は、
あなたの価値を決めるのは
あなたの周りにいる他者。

そして、
あなたが決める価値は
あなたの隣にいる他者。

”あなたが居てくれて嬉しい”

太郎君がそう思える人がいたら
その人にはそれだけで
価値が生まれる。

そして、そう思ってくれる人が
太郎君に一人でもいたら
人間の世界でもあなたの価値は
”なし”じゃない。

太郎君には、向こうに戻ったら
自分の価値を証明できる
存在を見つけてほしいな。

ネコウサギを見ていたら
わかるでしょう?
全ての能力を
持っていなくていい。

相手が足りないものを
たった一つ。

それでいい。

それを持っているだけで
太郎君は誰かにとって
『価値のある存在』に
なれるはずだよ」



自分で自分の価値は
決められない。

勝手に価値が無いと決めつけて
死のうとしたおれだけど

あっちの世界では
本当に自分に価値は
無かったのか。

それを確かめるために
おれは、元の場所に帰る。
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