捨てようとした命の価値

水谷アス

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人間が島にやってきた

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「あなたが「モゲマル」と
呼んでいるこの子たちは

『ネコウサギ』っていう
ウサギの仲間なの。

ここに山ほどあるリンゴと
寝ているあなたにくっついている
この子たちを見たら…
あなたはこの子たちに
「認められた」
ってことがわかるのよ」

…認められた?
一体どういう事だろう。

「ネコウサギ最大の特徴は
個体によって出来る事が
大きく違う事にある。

ネコのように
木登りが得意な子もいれば
ウサギのように
穴掘りが得意な子もいる。

あとは、木登りも穴掘りも
全然出来ない代わりに
沢山子どもを産める子とか。

出来ることは、色々よ。

そして、このネコウサギは
お互いで出来る事を
出来ない仲間に与える習性を
持っているの。

木登りが得意な子は
木の上の木の実を取って来れる。
でも巣を自分で作る事は出来ない。

だから穴を掘れる子が
穴を掘って巣を作り
木登りが得意な子に巣を渡す。

穴を掘れる子は
木の実を取ってこれないから

巣をもらった子が
穴掘りが得意な子に木の実を渡す。

…ここまで話したら
今のあなたの状況が
何となくわかった?」


おれが家を作ったとき
モゲマルがその中に入ってきて
子どもを産んじゃったから
おれはそこに住む事を
諦めて新しい家を作った。

それが、モゲマルにとって
「巣を作ってもらえた」
って思われた…ってことだろうか。



「ケモノは基本火を怖がるなんて
いうけれど、この子たちは火を
怖がらない。

むしろ暗闇がすごく苦手で
夜は活動せず小さくなっているの。

最初に火を起こして
夜の闇を照らした時点で…

仮に家を作らなかったとしても
あなたはきっと島の神様みたいな
存在だったでしょうね」

モゲマルは、おれにたくさんの
リンゴを持って来た。

まるでそこに地蔵があるみたいに、
お供え物みたいに。
山ほどおれの前にリンゴが並んだ。

食べきれずに残していたとしても
モゲマルは毎日リンゴを持って来た。

きっとお礼をする手段が
そいつにはリンゴしかなかったんだ。

でも、リンゴを取れないやつは…?

「あなたが寝ているところに
ネコウサギが集まっていた。

くっついていた子たちは多分
木の実を取れない子。

せめて自分たちが一緒に眠って
寒さから守ってあげようって
そう思ったんじゃない?

あなたはすごく寝苦しそうだったけど
ネコウサギにとってみれば
自分からあなたに出来る事が
それしか無くて必死だったんだと思う。

神様みたいな存在に出来る事が
見つからなかったから」



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