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第5話
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右足からの流血が変色し始めている。違う、血ではなく、それは膿だった。父親の時と全く同じ症状が表れており、裕介は苦々しく唇を閉めた。
「エグいことになってるだろ……?」
しまった、と表情を固めたまま、恐る恐る裕介は顔をあげた。言い繕うように喉を鳴らす。
「あ、いえ……まだ大丈夫ですよ」
「裕介、お気本当、優しいよな……気をを使う必要ないぜ……もう分かってるからよ……」
嘆息をつきつつ、真一は裕介の手を肩から外す。
「だから、浩太と達也には傷の悪化を黙っててくれ……達也は感情で先走っちまうことがあるし……浩太は浩太で冷静を保とうとして、ポカをやらかす時があるしな……俺の頼みなんてのは、ただそれだけだぜ……裕介、最後の頼み……訊いてくれるか?」
含まれた意味を汲み取り、裕介は首を縦に動かした。
真一は、最後の最後まで、人として生きようとしている。どれだけの覚悟を注いだのか、裕介には計り知れないところで真一は腹を決めている。
「分かりました、約束は守ります。けどね、真一さん……ひとつ言わせて下さい」
怪訝に振り返った真一の顔を見て、裕介は右袖で溢れだした涙を拭って言った。
「真一さんは、お気楽な奴なんかじゃないですよ」
「そんなことないぜ?俺は……」
「どんなときも、自分より他人を心配する甘ちゃんとも見えるけどよ……普通は出来ないぜ?そんな男をお気楽野郎なんて誰にも言えない。いや、俺が言わせない」
疑問を遮る形で続けられた裕介の言葉に、真一は恥ずかしそうに鼻を掻いた。そして、同時に響いていたプロペラのモーター音が止まった。
※※※ ※※※
「やめて!もう、やめてよ!」
頭を抱えた亜里沙の悲痛な声に、甲高い笑い声が被る。
ぐったりとした達也の胸倉を引き寄せ、膝をついた状態で強引に立たせた東は、軽く達也の頬を叩き、小さな呻き声を出させ耳元で言う。
「おい、まだ逝っちまうなよ?テメエだけは、なるだけ苦しませてえからよお」
続け様、東は項垂れる達也の髪を左手で引きあげ目尻を落とす。狂気を孕んだ歪な笑顔だ。そのまま振り向けば、亜里沙 が短い悲鳴をあげた。
「なーーにを怖がってんだ?もっと楽しめよ!テメエは、こいつを殺してぇんだろうが!楽しまなきゃ損しちまうぞ?ひゃはははは!」
奥歯が亜里沙の意識とは関係なく音をたてる。 力なく垂れた達也の両腕を見て、もしも、自分が達也を刺していなければ、こんなことにはならなかったのだろうかなど、泉のように涌き出てくる無駄な疑問が亜里沙から判断力を奪っていく。ただ、一つだけ分かることは、達也の死期が近付いてきている、そんな一点だけだ。
「エグいことになってるだろ……?」
しまった、と表情を固めたまま、恐る恐る裕介は顔をあげた。言い繕うように喉を鳴らす。
「あ、いえ……まだ大丈夫ですよ」
「裕介、お気本当、優しいよな……気をを使う必要ないぜ……もう分かってるからよ……」
嘆息をつきつつ、真一は裕介の手を肩から外す。
「だから、浩太と達也には傷の悪化を黙っててくれ……達也は感情で先走っちまうことがあるし……浩太は浩太で冷静を保とうとして、ポカをやらかす時があるしな……俺の頼みなんてのは、ただそれだけだぜ……裕介、最後の頼み……訊いてくれるか?」
含まれた意味を汲み取り、裕介は首を縦に動かした。
真一は、最後の最後まで、人として生きようとしている。どれだけの覚悟を注いだのか、裕介には計り知れないところで真一は腹を決めている。
「分かりました、約束は守ります。けどね、真一さん……ひとつ言わせて下さい」
怪訝に振り返った真一の顔を見て、裕介は右袖で溢れだした涙を拭って言った。
「真一さんは、お気楽な奴なんかじゃないですよ」
「そんなことないぜ?俺は……」
「どんなときも、自分より他人を心配する甘ちゃんとも見えるけどよ……普通は出来ないぜ?そんな男をお気楽野郎なんて誰にも言えない。いや、俺が言わせない」
疑問を遮る形で続けられた裕介の言葉に、真一は恥ずかしそうに鼻を掻いた。そして、同時に響いていたプロペラのモーター音が止まった。
※※※ ※※※
「やめて!もう、やめてよ!」
頭を抱えた亜里沙の悲痛な声に、甲高い笑い声が被る。
ぐったりとした達也の胸倉を引き寄せ、膝をついた状態で強引に立たせた東は、軽く達也の頬を叩き、小さな呻き声を出させ耳元で言う。
「おい、まだ逝っちまうなよ?テメエだけは、なるだけ苦しませてえからよお」
続け様、東は項垂れる達也の髪を左手で引きあげ目尻を落とす。狂気を孕んだ歪な笑顔だ。そのまま振り向けば、亜里沙 が短い悲鳴をあげた。
「なーーにを怖がってんだ?もっと楽しめよ!テメエは、こいつを殺してぇんだろうが!楽しまなきゃ損しちまうぞ?ひゃはははは!」
奥歯が亜里沙の意識とは関係なく音をたてる。 力なく垂れた達也の両腕を見て、もしも、自分が達也を刺していなければ、こんなことにはならなかったのだろうかなど、泉のように涌き出てくる無駄な疑問が亜里沙から判断力を奪っていく。ただ、一つだけ分かることは、達也の死期が近付いてきている、そんな一点だけだ。
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