感染

saijya

文字の大きさ
上 下
166 / 419

第8話

しおりを挟む
                 ※※※ ※※※

「祐介、これも頼む」

 真一は八幡西警察署の拾得物預かり部屋に入り、ちぎられた手首が握っていた拳銃を投げた。それを危なげに受け取った祐介は、死者がいたロッカーに入っていた鞄に詰め込んでいく。暴力団が使用していただけあり、派手で大きな物が多く、鞄の数は四つになっていた。
 真一はハンカチをマスク代わりにしてはいるが、やはり一段と濃い匂いは防ぎきれるものではない。同じく、祐介も匂いにあてられて顔色が優れないでいる。それでも、気を保っていられるのは、真一の存在が大きかった。腹に拳銃を一挺だけさしたまま、周囲を見回した真一が立ち上がる。

「さっきので最後みたいだぜ」

    祐介は頷いてから鞄に手を掛け、持ち上げようとして顔をしかめた。

「祐介は、こっちの二つを頼む。その二つは俺が持つぜ」

 祐介に渡されたのは弾丸の入った鞄だ。相当な数はあるが、こちらの方がまだ軽いだろう。
    申し訳なさを感じつつ、祐介が鞄を改めて持ち上げようとした時、小さな足音がした。
    ぱっ、と顔をあげた祐介へ真一は怪訝そうに言う。

「どうした?」

 しっ、と唇に人差し指を当てた祐介は、更に耳を澄ます。
    死者のように重い足取りではなく、軽快なステップに近く、跳ねるような足取りだった。
 まだ、生き残りがいるのだろうか。だとすれば、こんな惨状が広がる中で、スキップで移動するなど気が触れているとしか思えない。
    その足音は、真一の耳にも届き始め、顔付きに剣が表れた。拳銃を抜いて、弾丸が間違いなく装填されているマガジンを確かめてから、銃口を警察署の玄関へ向ける。
    ごくり、と生唾を飲み込んだ二人が聞いていた足音は、ついに大破していた玄関を抜け、二人は互いに顔を見合わせる結果となった。散らばったガラスを踏み砕く音はあるものの姿が見えないのだ。  
    二人の額に大粒の汗が吹き出し、堪えきれずに真一が細い声で言った。

「なあ......俺達は透明人間でも見てるのか?」

 だが、その真一の声にスイッチが入ったかのように、足音の速度が上がり、二人はようやく透明人間の正体を知ることが出来た。軽い足取りで歩行し、囁くような声量を聞き取る耳、子供の背丈よりも低い受付台に隠れる体躯、人間ではないのは明らかだろう。
 横長に続く受付の切れ間から顔を覗かせたのは一匹の犬だった。緊張の糸が切れた真一は胸を撫で下ろしつつ拳銃を下げると一息吐き出した。受付台の出入り口から見えている犬の舌が、体温の調整をする呼吸に合わせ上下する様がかわいらしく思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

催眠アプリを手に入れたエロガキの末路

夜光虫
ホラー
タイトルそのまんまです 微エロ注意

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

処理中です...