感染

宇宙人

文字の大きさ
123 / 419

第5話

しおりを挟む
 東がいなければ、モール内にいる人間をまとめる自信がなかった。
    東がいるからこそ、目立った変化はなく、逆に安部がいるから、東にさした影響も出ていない。
    一ピースだけでも外れれば、精巧なジグソーパズルを傾けるように容易くバランスが崩れてしまう。安部は、目的の為にも、居城を守義務がある。

「東さんは、あの自衛官を良く理解しているようですね」

 東が、安部を射殺すような眼で見上げる。
    限界まで吊り上げられた目尻は、ピクピクと短い痙攣を繰り返していた。
 安部は、東について一点だけ気付いたことがあった。この殺人鬼は、他者からの理解というものに異常に執着している。だが、安部を理解すると口にしていながら、自ら目の前にいる他者を理解しようとはしていないように思える。 
 東の人間的欠落は、そこにあるのではないかと安部は考えた。友達や恋人を作るには、まずは他者に興味を示すことから始まり、やがては互いに理解しあってから関係が築かれる。それは、学校や社会、周囲のコミュニケーション、親からの愛情、様々な形をとりながら、学んでいくものだ。しかし、逆を言えば、そのどれかが欠ければ、それは歪んだままになってしまう。
    思考と行動の行き違い、理解と興味の隔離、理解の押し付け、それらに曖昧な境界線が引かれているのだろう。
    早い話し、人の心に触れるなら、心臓を鷲掴みにでもしてやれば良いと思っている。育ちの差なのか、環境のせいだったのか。
 他者に自らを理解させたい。そこに、肝心の他者が入る余地がなかった。自分の思い通りにならず、駄々をこねる子供と同じだ。
 テレビで最初に小倉北警察署に連行されてきた東を画面越しに見た時、東は厚手の袋を頭に被らされていた。その上での皮肉なピースサインが印象に残っている。
    あれも、他者に東という人間を見せつける為の無意識なアピールだったのではないだろうか。
    どこにでもあるコミュニケーションの問題の究極が東という男だ。
 だからこそ、安部は、他者を見ようとしない東の神経を逆撫でするようなことを言ったのだ。

「あ?今、なんつった?」

 東は、ゆっくりと立ちあがり、安部の正面に移動し眉を狭めた。小さい体躯に似つかわない眼光に、安部は気圧されるも、しっかりと東と目を合わせて息を吸い込んだ。

「東さん、あなたの隣にいるのは、誰ですか?」

「……何言ってんだよ、あんた」

 顔一杯に疑問符を貼り付けた東は、大儀そうに首を振る。安部が言っている意味を計りかねているようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...