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第4話
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「遺恨がないとは言えないけど......でも、それは二人にじゃない。二人が話してくれた隊長になんだ。まあ、俺はそんなふうには考えられなかったけどさ......彰一が教えてくれたんだ」
浩太と真一が同時に彰一へ首を回し、当の本人は気恥ずかしそうにそっぽを向く。その様子に真一が、随分とぎりが悪そうだと笑う。
浩太が阿里沙に目線だけで語りかけると、一呼吸分、間をおいて言った。
「あたしも同じ気持ちだよ。なにより、助けてくれた人を恨むなんて事はしない。あの時は、いろいろあって言えなかったけど......助けてくれてありがとう」
阿里沙の感謝に続き、加奈子も丸い頭を垂れた。言葉は出せなくても、ありがとう、という気持ちを伝える方法はいくらでもある。
二人には、確かに伝わった。目頭が熱を持ち始めるのを感じ、真一が四人に背中を見せると、途端に笑い声が室内を包んだ。事件が発生してから、初めての明るい雰囲気だ。部屋の中央に置かれた刃物が無粋なものに思えた。
だが、響いてしまった笑い声は、別の者まで引き付けてしまう。長居は出来ない。表情を引き締めた浩太が一同を見回し、全員が頷く。
「じゃあ、今後の動きを説明する。意見があれば、すぐに手を挙げてくれ」
※※※ ※※※
「......東さん、何故、小金井さんに自衛官を任せたのですか?」
中間市内にあるショッパーズモールの二階エントランスから、使徒の動きを監察していた安部が、隣に座り煙草を吹かす東に問いかけた。
ガラス張りの壁に背中を預けた状態で座っている東が盛大に煙を吐き出し、立ち上った紫煙に安部は顔をしかめつつ続ける。
「東さんは、彼を信用してはいないと思っていたのですが」
「信用なんざしてねえよ。ただ、良いもんが手に入ったからな」
火が点いたままの煙草を握り潰した東を見下ろ安部が疑問を投げる。
「しかし、自衛官が持っている情報を聞き出すには、やはり、東さんが直接......」
「あいつは話さねえよ。多分、歯を全部、引き抜かれようともな」
指で弾いた吸殻は、綺麗な弧を描きながら、無機質な通路に音もなく落ちた。日常からかけ離れた世界では、そんな他愛ない一連すら瞼に焼き付く。
外を徘徊していた一人の使徒が二人に気付いたのか、垂れ下がった蜘蛛の糸でも掴むように両手を挙げた。
「世界に鉄槌を落とす為だけに現れた奴等のように、ただ突き進むだけの猪野郎なら、話しは別だがな......ああいう奴に時間を割くのは無駄なことだ」
安部は頭を傾げた。答えになっていないからだ。
東の明らかな苛立ちが目立ち始めたのは、自衛官とのやりとりからだ。あの時、東が何を感じたのか知らないが、この男をここまで乱すということがどれだけ難しいかを、安部は短い付き合いながら理解している。
東は、普段の振舞いからは想像出来ないほどに、相手の思考や行動を先読みし、冷静を保ち、突発的な事態が起きようとも隙を見抜き行動に移す。
小倉で出会ったトラックもそうだ。使徒の群れに出会したトラックが、新砂津橋を通ることを直ぐ様に予測し、進路を変更した。結果、苦渋を舐めさせられたものの、安部一人だったら、あのトラックには追い付かなかっただろう。
自衛官から銃を突きつけられた時も、東が狂ったような素振りを見せたのは、最後だけだった。
数多の経験からくる監察眼と、躊躇いなど微塵も匂わせない冷徹さ、そして、冷静さ。これらが東の強力な武器だ。その内の一つを奪われている。それは、安部にとっても都合が悪い。
浩太と真一が同時に彰一へ首を回し、当の本人は気恥ずかしそうにそっぽを向く。その様子に真一が、随分とぎりが悪そうだと笑う。
浩太が阿里沙に目線だけで語りかけると、一呼吸分、間をおいて言った。
「あたしも同じ気持ちだよ。なにより、助けてくれた人を恨むなんて事はしない。あの時は、いろいろあって言えなかったけど......助けてくれてありがとう」
阿里沙の感謝に続き、加奈子も丸い頭を垂れた。言葉は出せなくても、ありがとう、という気持ちを伝える方法はいくらでもある。
二人には、確かに伝わった。目頭が熱を持ち始めるのを感じ、真一が四人に背中を見せると、途端に笑い声が室内を包んだ。事件が発生してから、初めての明るい雰囲気だ。部屋の中央に置かれた刃物が無粋なものに思えた。
だが、響いてしまった笑い声は、別の者まで引き付けてしまう。長居は出来ない。表情を引き締めた浩太が一同を見回し、全員が頷く。
「じゃあ、今後の動きを説明する。意見があれば、すぐに手を挙げてくれ」
※※※ ※※※
「......東さん、何故、小金井さんに自衛官を任せたのですか?」
中間市内にあるショッパーズモールの二階エントランスから、使徒の動きを監察していた安部が、隣に座り煙草を吹かす東に問いかけた。
ガラス張りの壁に背中を預けた状態で座っている東が盛大に煙を吐き出し、立ち上った紫煙に安部は顔をしかめつつ続ける。
「東さんは、彼を信用してはいないと思っていたのですが」
「信用なんざしてねえよ。ただ、良いもんが手に入ったからな」
火が点いたままの煙草を握り潰した東を見下ろ安部が疑問を投げる。
「しかし、自衛官が持っている情報を聞き出すには、やはり、東さんが直接......」
「あいつは話さねえよ。多分、歯を全部、引き抜かれようともな」
指で弾いた吸殻は、綺麗な弧を描きながら、無機質な通路に音もなく落ちた。日常からかけ離れた世界では、そんな他愛ない一連すら瞼に焼き付く。
外を徘徊していた一人の使徒が二人に気付いたのか、垂れ下がった蜘蛛の糸でも掴むように両手を挙げた。
「世界に鉄槌を落とす為だけに現れた奴等のように、ただ突き進むだけの猪野郎なら、話しは別だがな......ああいう奴に時間を割くのは無駄なことだ」
安部は頭を傾げた。答えになっていないからだ。
東の明らかな苛立ちが目立ち始めたのは、自衛官とのやりとりからだ。あの時、東が何を感じたのか知らないが、この男をここまで乱すということがどれだけ難しいかを、安部は短い付き合いながら理解している。
東は、普段の振舞いからは想像出来ないほどに、相手の思考や行動を先読みし、冷静を保ち、突発的な事態が起きようとも隙を見抜き行動に移す。
小倉で出会ったトラックもそうだ。使徒の群れに出会したトラックが、新砂津橋を通ることを直ぐ様に予測し、進路を変更した。結果、苦渋を舐めさせられたものの、安部一人だったら、あのトラックには追い付かなかっただろう。
自衛官から銃を突きつけられた時も、東が狂ったような素振りを見せたのは、最後だけだった。
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