罪深き凡夫らの回旋

まる

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第二章

N8

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 その日私は町に出ていた。
 前回のようにユーニスを撒き、注文したものを引き取り、オープンカフェで茶を飲んでいる。
 やがて現れたユーニスに「奥様あ」と情けない声を掛けられた。
「座る?」
 私は前の席を手で示した。
「はあ……。いえでも」
「もし、奥様と同席する訳には、とかそういうのを考えているなら、気にしなくていいよ。ここは屋敷じゃないし、そもそも私は……いや、まあ、気にしないで、どうぞ」
 雑に勧めると、ユーニスが「うーん」と唸った後に「では」と着席した。
 前回のやり取りからも思ったが、あまりお堅い性格ではないのだろう。その方が助かる。
「何飲む?」
「いえ、私は」
 断ろうとするユーニスを無視して私はウエイターを呼び、とりあえず自分と同じものを注文した。
 ユーニスがまた「うーん」と唸った。
「ユーニスは」
「え、はい」
「何で今の仕事をしているの?」
「何で、と仰られましても……。……成り行き?」
「そう。私と一緒だね」
 適当に頷くと、ユーニスが首を傾げた。
「奥様も、ですか」
「うん。私もランディの妻なのは成り行きだね」
「そうなんですか?」
 またユーニスが首を傾げる。仕草が可愛い。
 彼女がどこまで知っているのかは、こちらとしても与り知らぬことだ。
「じゃあユーニスは、お金の為にしているという訳でもない?」
「……お金は、あるに越したことはありませんが」
「それはそうだね」
 私は、可能であればユーニスを取り込みたかった。
 自由に動ける手足……いや、手足と言えるほどの信頼は無理でも、とにかくある程度情報収集に長け、自由に動ける知り合いが欲しい。
 正直現状で、彼女以外には候補すらいない。
 しかしランディに報告されると困ることを調べて欲しい訳で……。
 今度は私が「うーん」と唸る。
「奥様?」
「え。ああ……」
 そこで茶が運ばれてきた。
 ユーニスが困った顔をして、「済みません」と言う。
「気にしないで。私が勝手に頼んだだけだから。飲める?」
「はい。ありがとうございます」
 遠慮がちにカップを摘み、口に運ぶユーニスを眺めつつ考える。
 えげつなく彼女の弱みなど掴めればいいが、そんな弱みを探れるのなら、そもそも本来の調べたいことも自分で出来るスキルの持ち主だろう。
 私はこの国が嫌いで、知り合いも殆どいない。王子様にも指摘されたが、私は策士的な巧みさはあまり持ち合わせていない。残念なことだ。
「私は、単なる一つの駒です」
 耳に入って来た唐突なユーニスの言葉に、私は慌てて聞き返した。
「ん? なに?」
「いえ……私は、ただの駒の一つだと、申しました」
「まあ……誰しも、何かの駒ではある気はするけど」
「多分、奥様が思うよりもっとどうでもいい感じの、分かり易い使い捨ての駒です」
「……そうなの?」
 そうではあるのかもしれない。彼女は伯爵家の裏を支える何かの、末端に近い存在なのかもしれない。
「奥様は、私が本当に撒かれたと思います?」
 不意にユーニスが悪戯っぽく笑った。
 ドキッとした。確かに私は一般人より身体能力に長けているし隠密行動も出来るが、それでも兵士の範囲だ。
「何をお買い求めになったかは存じてます」
「……ユーニス」
 知らず、呼び掛ける私の声は低くなっていた。
「私は奥様の警護と、そうですね……はっきり申し上げて、見張り、も兼ねております。日常的に、です」
 ユーニスはにこにこ笑っている。
 日常的に、ということは……もしかして、私の大体のことを知っていると暗に言っているのだろうか。
「私も、この国の生まれではありません」
 彼女は「も」と言った。
 私は緊張を高めた。
「でも、特段何も報告は致しておりませんよ」
「へえ……何故?」
「……それは」
 ユーニスが少し俯いた。
 私はじっと彼女を見つめた。脅迫でもされるのだろうか。意図は何なのか。
 顔を上げた彼女の目が、微かに潤んでいた。
「……奥様」
「……何」
「……私は、パルヒラの出身です」
「そうなの」
 そんなことを言われてもどう反応したものだか。
 パルヒラは東の方にある国で、多神教の国家だ。部族によって信奉する神も違うらしい。
「……その、ホユリュという部族です」
「……そう」
 だからどう反応していいのか分からない。パルヒラに行ったことはあるが、部族までは良く知らない。
「ご存じないとは思いますが」
「うん、悪いけど詳しくない」
「……奥様」
「……何」
「場所を移しませんか?」
 その誘いに、私は脅迫される覚悟を決めた。





 宿に入り、並んでベッドに腰掛けて話が再開された。
「……ホユリュは、創造神の妻であるプターンスー女神を奉じています」
「はあ」
 ここに至って宗教の話とはどういうことだろうと思いつつ、相槌を打つ。
 ユーニスは俯き気味に、訥々と言葉を続ける。
「……プターンスー女神は、両性具有です」
「え。へえ。そう……」
 嫌な予感がした。
「ですからっ……」
 ユーニスが顔を上げた。何やら目がキラキラしている。
「私は奥様がそうだと知った時、これは運命だと」
「運命って」
 反応に困った。
 この体がばれていたことも困るが、反応にはもっと困った。
 ユーニスが勢い込んで言う。
「奥様にお仕えしたいのです」
 あ、そっちか。と私は少しほっとした。
「……そう。……だったらランディに言ってみてもいいけど……今はあまり目立つことはしたくないから、随分後にはなるかと思うけど……」
「良かった。ありがとうございます。断られたら、奥様がされたお買い物の内容をネタに脅迫しようかと」
 ユーニスがキラキラした目で凄いことを言ってきた。
「えっ」
 信奉の対象を髣髴とさせるから仕えたい、ということだと思うのだが、脅迫していいのだろうか。
「……ちょっとあなたが何を言っているのか良く分からないけど、まあいいや……」
「はい。奥様のご都合が宜しくなるまで、陰からお支えします」
 今言っていることはしおらしいが、何だか少し面倒そうな性格をしている気はした。
 しかしこれで、私が欲する「手足と言えるほどの信頼は無理でも、とにかくある程度情報収集に長け、自由に動ける知り合い」は見つけたことになるな……と思った。
 よし、と私は頷き、ついでだから親交を深める為にも寝ておこうかと思った。ユーニスは可愛い。健康的な小麦色の美少女は好みでもある。
「ところで、ユーニスは処女?」
 もし処女なら悪いからやめておこう、と考えていた。
「えっ」
 ユーニスが頬を染め、それから目を逸らして首を振った。
「……済みません……違います……」
「済まないことないけど。むしろそっちの方が手を出しやすくて助かる……いや、ユーニスが嫌じゃなければ」
「て、手を出して頂けるなら嬉しいです」
「そうなの?」
「はい。あの……でも……ホユリュは、プターンスー女神に倣い、不自然でない限り性別を曖昧にする文化がありまして……曖昧にできることがステータスであるような、そういった要素のある……」
 ユーニスがむにゃむにゃと呟いている内容から察するに、恐らく。
「あ。ユーニスってもしかして男なの??」
「……済みません。そうです」
 ユーニスが俯いて肩を落とした。
「済まないことないけど」
 あれか。どこかで聞いた「男の娘」とやらいうやつ。と私は納得した。
「……奥様は、男なら旦那様ですとか……アレクサンダー殿下のようなタイプがお好きなのだと思うので……私のように、曖昧を通り越してほぼ女に見えるタイプは……」
 ユーニスがむにゃむにゃしている。
 確かに、男だと思うなら申し訳ないが別段好みではない。しかし女の子なら好きな容姿なので、普通に勃つ。というか、まあ……突き詰めれば私はおおよそ誰でもいける。
「いや別に、どっちでも」
 私は肩を竦めた。
「抱かせてくれるなら、ちんぽの有無はどうでもいいよ」
「いいですか」
 上目遣いに見られた。顔は本当に女の子のようだ。
「あと、あの……抱かれるのは、その、慣れてます。抱くのも、何回かは……」
「私不感症っぽいから抱いても楽しくないと思うよ」
「あの、奥様が楽しい方で」
「じゃあ抱かれて下さい」
「は、はい」
 ユーニスがギクシャクと頷き、「では脱ぎましょうか」と問い掛けてきたので「うん」と言っておいた。
 そしてするすると衣服を脱いで露わにされた体は、確かに少年のものだった。胸は無く、全身はしなやかで薄い筋肉がついている。
「なるほどねえ」
 と私が頷いていると、ユーニスはベッドに上がり、こちらに尻を向けて四つん這いになった。そしておもむろに自分で舐めた指を肛門に差し込む。
 晒されている穴は確かにそれなりにこなれた風合いをしていたが、王子様に匹敵するものではなく、我ながらどれだけあの人を手荒く使い込んだものだかと考えてしまった。
「お、奥様」
「……うん?」
「入れて、下さい、どうぞ」
 はぁはぁと息を乱しつつユーニスがそう誘ってきた。
 別にマグロでもいいのに、と思いつつ取りあえず、入れてと言われたのでペニスを取り出して入れた。
「あうっ、あぁぁ……」
 ずるずると腹の中を奥まで犯され、ユーニスの腰と声が小刻みに震える。
「サイズ確認してからの方が良かったんじゃない?」
 穴の伸縮はそれなりで、破けそうではないにしろかなり押し拡げられている。
「お、おっきい……っ……あ、こんな、奥までぇ……っ」
「うん。まだ全部入ってないよ」
「ひ、っ……お、なか、おかしくなっちゃ……」
 ユーニスが上擦った声を出す。
 ずっ、と奥まで突き刺すと、「ひぎっ」と泣き声を上げ、射精したようだった。
 抽挿すると、嗚咽した。
「あぁっ、あっ、んっ、まだっ……らめっ、あっ、あんっ」
 声も高いので、本当に女の子を抱いてるみたいな気になった。あと、ちょっと嬌声がわざとらしい。
 私は苦笑しつつ、差し込んだままよっこらしょとユーニスを抱え上げた。座位にする。
「ぁひんっ……!」
 軽い串刺しの目に遭い、ユーニスが悲鳴を上げた。
「お、くさま、これっ……らめぇっ、深いようっ……」
「動いて」
「ゃあっ……いじわる、またいっちゃう……っ」
 こういうタイプ最近抱いてなかったから新鮮だわー、と思いつつ、下からぐんっと突き上げる。
「ぁああんッ」
 嬌声を耳に、意外と平均ちょっと上くらいはあるペニスを掴む。扱きながらその直腸内を掻き回す。
「やっ、あっ、おちんちんいじりながら、おなかのなかっ、おっきいので、ぐじゅぐじゅしないでぇっ……」
「……いつもこういう感じ?」
「えっ……いっつもって……? あっ、あんっ」
「……まあいいや」
 手を速めると、「あぁいくぅっ」と泣いて射精した。
 こちらがじっとしていると、ユーニスは自分から腰を揺らし始めた。
「あっ……は、んっ……おなか、変っ……こんな奥っ……あぁんっ……変っ……あっ……きもちい……あ」
 半勃ちのものからとめどなく先走りを漏らしながら、呟くように喘ぎ続けている。
 再度抱えてベッドに伏せさせ、ペニスを引き抜くと泣かれた。
「やあっ……やめないで……! もっとしてぇ……っ、おなかの奥、もっと変にして……ッ」
 膝を突いて尻を突き出す。
「おくさまの、おちんちんで、ぼくを壊れるまで犯して下さい……っ」
 ユーニスの痴態を眺めながら、普段の一人称は「ぼく」なのか? と私は場違いに冷静に考えていた。
 取りあえずは要請された通り、腰を掴んで差し出されている肉穴に再度ペニスを挿入する。
「ひゃうっ……ありがとうございましゅ……っ」
 呂律が怪しくなっている。
「あぁおくさま……っ、ぁぐっ、あっ、きもちい……っ、……あっ、おなかの中っ、奥までぐちゃぐちゃにされて、またいっちゃ……っ、あっ、あっ」
「楽しそうだね」
 ついそんなことを呟くと、「たのしいれすぅ……っ」とまた呂律の乱れた言葉を返された。
「ぼく、おくさまの、便器になりたい……っ」
 そう言われても少し困る。
 恐らくユーニスはマゾヒストで、私にサディスト的なものを求めている気がする。
 SMのSはサービスのS、と聞いたことがある気がするが、私はそうサービス精神旺盛でもないし、Mの人が何を求めているかを察知するのも難しいし面倒くさい。
「……それはねえ……他当たった方がいいんじゃない?」
 びく、とユーニスが体を揺らした。
「あっ……ごめ、なさ……っ、も……っ、めんどうな、こと言いませ……」
 泣きながら腰を振りつつそう言う。
「面倒ではないけど」
 いや、少し面倒か? と首を傾げつつ、私はやっと射精した。
「あっ、んっ……」
 ユーニスが上擦った声を漏らしながら、私の精液を腹の奥で受け止めた。
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