鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百四拾六話 拵え師として頑張りますがニャにか! その六

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「さて、それでは折角ポリティス殿が用意してくれた大鮫蛇シーサーペントの楯鱗(鮫皮)を拵えに使える様鞣すとするかニャ。アプロはこれまで楯鱗を鞣した事があるかニャ?
無いニャらアプロが工房の主となる時に備えてよっく見ておくのニャ。」

大鮫蛇の皮を持って来てくれたギルド職員が返った後、御爺々様は僕にそう言って皮を鞣し始めたのニャ。
リンドブルム街では親父様おやじさまが用意した素材を使って拵えに仕立てて来ていたから、他の職人が加工した材料を調達していたとばかり思っていたのニャが、素材の加工の方法を知っておけば、どうしても使いたいと思った材料が無くても、ギルドに素材を調達してもらって自分で加工すれば、自分の使いたい材料で自由に拵えが施せるんだと、御爺々様の手伝いをしながら学びながら気付くことが出来たニャ。
と言っても、大鮫蛇の楯鱗を鞣し作業は想像以上にとても大変な作業だったニャ。
 
 大鮫蛇の楯鱗に限らず、他の獣の皮を鞣す場合にも重要になるのは、皮に含まれる脂を取り除き、扱い易くその後の作業に支障が出ない様に柔らかい革にする事が求められるのニャが、これがとんでもなく大変な事だったのニャ。
何故なら、皮がしなやかで柔らかいのは皮の中に脂分が含まれているからで、皮から脂分を取り除くと必然的に皮は硬化してしまう物の様なのニャ。
しかし、脂分が残っていればその脂分が腐って悪臭を放ち使い物にはならないため、是が非でも皮から脂分は排除しなければならなかったのニャ。
しかも、獣の皮なら樹木に出来た虫瘤から煮出した単寧タンニンに浸け込み揉み解すことで脱脂が出来る様なのニャが、大鮫蛇の様な楯鱗(鮫皮)の場合には単寧に浸け込むだけでは脱脂が出来ず、塩水と酢も使い繰り返し浸け込み洗いをしないと皮に含まれた脂を取り除けなかったのニャ。
浸け込み、洗い、乾燥させ、また浸け込み、洗いを繰り返すこと1周間。ようやく、大鮫蛇の楯鱗を柔らかく拵えに使える物に仕上げる事が出来たのニャ。
その間、何回もティブロン商会からの遣いが『まだ出来ないのか?』と催促をしに工房へと来ていたが、その都度工房で働く職人たちが応対に出て僕や御爺々様の手を煩わせない様にと守ってくれていたのニャ。
 勿論、楯鱗の鞣し作業だけで1周間を過ごしていた訳ではニャく、その間にチーク材を使って三又の穂先の型に彫り抜き、外側に漆を塗り重ねて鞘を作ったニャ。
チーク材は材質も硬く、油分を多く含んでいて水にも強い特徴を持ち造船の用材にも使われる木材ニャ、海中で使われる事が想定されるトライデントにわざわざ鞘?と思ったのニャが、御爺々様が、使う時には必要ないかもしれないが、使用しないで家の中で保管をする時に剥き出しの穂先など危険この上ないと僕に用意する様に言ったのニャ。確かに言われれみれば、保管時に穂先が剥き出しになっている武具なんて危なくて仕方がないニャ。職人は使い手の事を考え、ただ漫然と拵えを施していてはいけないのだと改めて思ったのニャ。

 楯鱗を鞣して柔らかく仕立てた僕と御爺々様は早速トライデントの長柄に楯鱗を張る事にしたのニャ。
先ず、楯鱗を細い帯状に切り、長柄全体に糊となるニカワを塗り細長い帯状に切った楯鱗を長柄に巻き付けるようにして張って行き、長柄の末端と穂先近くに鉄の輪を填め込んで柄尻と柄下になる様に整えながら両端から楯鱗が剥がれ出さないように留めたニャ。
また、同じように長柄を六等分する間隔で鉄の輪を填めて固定したのニャ。
結果、トライデントの長柄は楯鱗に覆われる事になり、楯鱗の細かい突起は海水で濡れていても長柄が滑る事を防ぎ、尚且つ水中で長柄自体に掛かる水の抵抗を軽減する事が出来るといった水中戦において使用者を優位にする拵えになったのニャ。

 もっとも、拵えを仕上げた時には、楯鱗による水中での優位性までは分からなかったニャ。後になって僕と御爺々様が施した拵えのトライデントを海中で使った事でその事が明らかとなり、海を戦いの場とする者達は挙って楯鱗(鮫皮)を用いた拵えを求める様になって行ったのニャが、トライデントの拵えを仕上げた時の僕と御爺々様は厄介な依頼がこれで終わったと喜んだのニャ。
 でも、本当の厄介事は仕上げたトライデントをティブロン商会に納品してからだったのニャ・・・。

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