鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百四拾五話 拵え師として頑張りますがニャにか! その五

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「・・・とんでもない御仁じゃったニャ。ファレナ様やモーヴィ殿が是非にもと武具の製作を依頼される訳が儂にも分かった気がするニャ。さて、鍛冶仕事を見学させてもらっておって結局徹夜になってしまったニャ。どうするニャ?工房に向かうにはまだ早いから一旦休むかニャ。」

僕と一緒に驍廣さん達が乗る船が波間に消えてゆくのを見送った御爺々様は、そう声を掛けてきたのニャが、その顔は少し興奮したように紅潮していてとても休むようには見えなかったニャ。
と言っても僕自身も驍廣さんの仕事ぶりと手の内にズッシリとした存在感を放っている鍛え直されたトライデントを前にして、とても一休みしてと言う気分にはなれなかったニャ。
そんな僕の心情を読み取ったのか、御爺々様はニヤリと笑いながら僕の頭を手荒く撫でて

「ふっ! 一端の職人顔になりおって・・まぁ良いニャ、だが今の恰好のまま工房に入ったら他の者に『何事か?』と目くじらを立てられクドクドと話をせねばならなくなるじゃろうから、朝風呂に行って身綺麗にしてから工房に向かうとするかニャ♪」

そう言って、商館に戻ってトライデントを預けると二人で朝風呂に入り、しっかりと朝食を済ませてから気合を入れ直して工房へと向かったニャ。
 工房には既に数人の職人たちが来て、各々与えられた仕事場で準備を進めていたのニャが、昨日母屋へ消えて行った時とは別人の様に気合の入った顔つきで工房に入って来た御爺々様と、鍛え直されたトライデントを持っている僕の姿に驚いているようだったニャ。
 そんな職人仲間を尻目に、僕と御爺々様はトライデントの拵えを整える為の算段を始めたニャ。
 まず最初に考えなければならなかった事は、このトライデントに施す拵え・・・をどういった物にするかということニャ。
鍛え直してもらっている最中、驍廣さんが水分を取るために手を休めたちょっとした間に、教えてくれたのニャが、トライデントを使う人魚族は、生活の場が僕たちと同じ陸上だけでなく海中にまで広がっていて、海原にポツンと浮かぶ人魚族の島を外敵から護る為に、トライデントを手に海中海上を主戦場としているらしいのニャ。
そのため、武具の拵えは海水に濡れても支障の無い物にする必要があるとの事だったニャ。
そして、トライデントの運用方法が他の長柄武具に比べて刺突に特化している事も教えてくれたニャ。海中での戦闘を行うため、武具を用いる際には陸上と比べて海中では海水(水)が運用の妨げになる為に、『薙ぐ』や『払う』などはほとんど用いず、トライデントに受ける海水の抵抗が最も小さい『刺突』を用いなければ満足に戦う事が出来ないらしいのニャ。
その為、人魚族の島で使われているトライデントの拵えには装飾的な物は極力控えられていたと教えてくれたのニャ。
僕はその話を聞いて驍廣さんに、『なんでそんな事まで知っているのか?』と尋ねたニャ。すると驍廣さんはちょっと苦笑しながら話してくれたニャ。
 海賊との戦いで船から海に落ちててしまった驍廣さんが、波間を漂い流れ着いた先は人魚族の島だったそうなのニャ。
その島で鍛冶師を名乗った所、島の鍛冶場に連れていかれてトライデントを鍛える事になったそうニャ。それで、なかなか見る事の無い人魚族独自の武具『トライデント』について知っていたのかと納得したのニャが、その事を苦笑ながらも楽しそうに語る驍廣さんに、アルディリアさんは眉間に皺を寄せ、紫慧さんは頬を膨らめて驍廣さんを睨み付けていたニャ、そんな二人の気持ちは僕には良く理解出来たニャ。
船から海へと落ちてしまった驍廣さんの生存を信じ、お二人はモーヴィさんと共に必死に驍廣さんを捜し回っていた筈なのニャ。ところが捜していた当の本人は、流れ着いた島で嬉々として鍛冶仕事をしていたと聞かされたら、安否を案じ海原を彷徨い続けていたあの苦労は何だったのか!?と憤慨する気持ちも尤もだと思うニャ。
でも、海に落ち流された先でも鍛冶仕事をしていた驍廣さんを、僕は『驍廣さんらしいな♪』とも安堵と尊敬の想いが湧いて来てたのニャ。
どんな場所、境遇であっても鍛冶師としてあり続ける驍廣さんに・・・。
そして、共に話を聞いていた御爺々様も、僕と同じ気持ちだったんだと思うニャ。何故なら、休憩を取りながらも仕事について嬉々として語る驍廣さんをとても嬉しそうに見ていたんニャから。


 鍛え直されたトライデントを工房に運び込むと早速驍廣さんの助言に従い、トライデントに施す拵えの材料集めから始めたのニャ。
トライデントは海中で扱うことが多いと言う指摘から海水に濡れても武具を持つ手が滑る事の無い様に保持できる物が必要だったニャ。
人魚族の島ではアシカなどの海獣類の革が使われていたようなのニャが、ティブロン商会で御爺々様を怒鳴りつけた人魚族の口振りを考えると、ただの海獣の鞣革を使って拵えを施しても『相応しくない』などの難癖を付けてきそうだったニャ。
そこで、僕と御爺々様はレヴィアタン街ギルド総支配人のポリティスさんにお願いして特別な獣の皮を調達してもらえないか相談する事にしたのニャ。

「・・・そうんな事が、それは難儀な事でしたなぁ。近頃のティブロン商会の横暴は目に余るものがある。もう少し衛兵団が取締りを行ってくれればよいのですが・・・。
しかし、今回の件は少々度が過ぎると言うもの、打ち直さなければならない様な武具に拵えを依頼しておいて、街の鍛冶師達に大量の武具を発注することで仕事の妨害を図るとは。しかも、その依頼を出したのが衛兵団とあっては、ティブロン商会と衛兵団の関係が容易に想像できるというもの。
一商会に対して衛兵団がここまで関係を密にしている状態は看過できるものではありませんな。御領主ファレナ様にご報告しなければ。」

御爺々様から今回の出来事を聞いたポリティス様は、苛立ちを隠すことなくこれまでレヴィアタン街でティブロン商会が起こした出来事を思い出しつつ憤慨していたニャ。
勿論、僕たちの要請にもギルドとして出来得る限りの協力を約束してくれて、翌日には何処から調達したのか分からないのニャが、大鮫蛇シーサーペントの皮が工房に届けられたのニャ。
 大鮫蛇シーサーペントは海原を住処とする巨大海生生物で、魔獣ではないものの時には船を襲うほど凶暴な性格をしているそうニャ。
船を襲うという事は、かなり大きな体だと思うのニャが、その体を覆う皮は強固な楯鱗(鮫皮)に覆われていて、背側面は非常に硬くて巨大な突起状の鱗のためレヴィアタン街の鎮守船隊の海兵が持つ楯に使われている様ニャ。
工房に届いた皮は大鮫蛇の腹側の皮で、表面の突起も小さく拵えにも十分使える物だったニャ。
この時は知らなかったのニャが、大鮫蛇の腹皮はレヴィアタン街や羅漢獣王国などの海に面した地域では、大変に珍重され高貴な方々の武具や防具に使われる素材だそうニャ。
今回、工房に届けられた楯鱗もご領主ファレナ様やモーヴィさんの武具の拵えに使われる物の一部を譲ってくれたのだと後で聞いて驚いたニャ。
 裏を返せば、それだけ御爺々様がレヴィアタン街にとって大事な職人だとギルドが認識していることになるのニャ。
御爺々様は大鮫蛇の楯鱗の価値を理解していて、工房に楯鱗を届けてくれたギルド職員に何度も頭を下げて感謝の言葉を口にしていたのニャが、ギルド職員はそんな御爺々様に逆に申し訳なさそうな表情を浮かべて

「そ、そんな。『御大』にそのように頭を下げられては身の置き場に困ってしまいます。総支配人からも、『此度の事はレヴィアタン街ギルドとして、目が行き届いておらず難儀をお掛けし申し訳ない』そうお伝えする様にと言付かっているのですから。」

そう言って恐縮しきりとなり工房を後にしたのニャ。
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