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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百四拾壱話 拵え師として頑張りますがニャにか! その壱
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「おはようございますニャ! 今日もよろしくお願いしますニャぁ♪」
フィーンさんの案内で真安さんと一緒に訪れたレヴィアタン街にある拵え師の工房で、僕は親父様から訪ねるようにと言われていた大師匠・奔安見光月さんが御袋様の親父様、僕からすると御爺々様に当たる事が分かり、御爺々様だけでなく工房に居た拵え師の諸先輩方からも大歓迎を受け、恥ずかしいやら嬉しいやら大変だったのニャ。
御爺々様は大はしゃぎで、
「今日はもう仕事をやっておる場合ではないニャ。折角アプロが訪ねて来てくれたんニャ、工房総出で歓迎の宴にゃ♪」
「御大! そう言う事ならルンナータさんの店まで一っ走りして話をしてきやす。ちょっと待ってておくなせぇ!」
御爺々様の歓迎の宴発言に、職人さんの一人が今に工房の扉をくぐり走り出そうとしたため、僕は慌てて声を上げたニャ。
「待ってくださいニャ! 今日工房を訪れたのはお願いがあっての事ですニャ!!」
その声に、それまでお祭り騒ぎと化していた工房内がピタリと静まり、全員の視線が僕に集中しているのを感じた。僕は向けられた視線の圧力に、思わず生唾をゴクリと飲み込み。それまで満面の笑顔を浮べていた御爺々様の方へ一歩踏み出し、
「今日、こちらの工房を訪ねたのは、リンドブルム街に工房を開くカルル・ケットシーから大師匠を訪ねるようにと言われた事もありますが、僕自身拵え師としての腕を磨きたいくご指導を仰ぎたいと思っての事なのですニャ。
まだまだ若輩者ではありますが、一人の拵え師としてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたしますニャ!」
そう大声で告げると、暫しの静寂がその場を支配した。
僕は頭を下げたまま、返事を待ったもののあまりの静寂に言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながらも耐えていると、
「カルルの奴め、味な真似をするのニャ。分かったニャ、儂の工房で働く者達は皆カルルに勝るとも劣らない腕を持つ職人が何人もいるニャ。その者達の下でしっかりと腕を磨くと良いのニャ!
だが、それは明日からにして、今日は歓迎の宴をするニャ!!」
そう告げる御爺々様の言葉に合わせて再び工房内は喧騒が戻り、僕は御爺々様に連れられ歓迎の宴に連行され工房の人達に揉みくちゃにされながら大歓迎を受ける事にニャった。
そして、その翌日から工房で御爺々様の指導の下、拵え師として腕を磨く日々が過ぎて行ったのニャ。
初めに御爺々様が僕に告げた言葉は本当の事で、工房には親父様と肩を並べる腕を持った職人が数人いて、工房に持ち込まれる依頼に対応し様々な武具の拵えを手掛けていたニャ。
レヴィアタン街は商業の街として栄えて来ているため、羅漢獣王国からもニーズヘッグ街や響鎚の郷からも武具が運び込まれていたニャ。
各地から持ち込まれたそれらの武具を手に入れようと、様々な者達がレヴィアタン街を訪れていたニャ。
多くは商人で、レヴィアタン街に入った武具を入手し、別の街や国へ運んで行って運搬の手数料と利益を加えて販売していたのニャが、その商人は運んだ先で少しでも購入してもらえるように、販売先の街や国の者達の好みに合った武具の拵えに変更しようと多くの武具が御爺々様の工房に持ち込まれていたのニャ。
リンドブルム街の工房では、親父様がこの『人』が鍛えた武具ならと鍛冶師から直接依頼を受けて使用者一人一人に合わせた拵えを手掛けていたのニャが、武具を必要とする者の全てが鍛冶師に直接依頼し自分に合わせて武具を鍛えて貰い、拵えを仕立てられる訳ではないのニャ。
その多くが、商人がレヴィアタン街やニーズヘッグ街から運んできた武具を購入し、そのまま使用していたニャ。
そんな者達の為にレヴィアタン街の商人はそれぞれの街や国の者達の好みに合った武具の拵えを、レヴィアタン街に工房を開く御爺々様に発注していたのニャ。
各街や国にはそれぞれ好みの拵えという物があり、例えばリンドブルム街やニーズヘッグ街では木製の柄が好まれる事が多く、レヴィアタン街では同じように木製ながらも柄の表面には装飾を施す事が多かったニャ。
これは、リンドブルム街やニーズヘッグ街は草原や山間部などで使う事が多いのに対し、レヴィアタン街では海上や湊などの水に濡れる場所での使用が多く、少しでも滑り難いように柄の表面に凹凸をつける為に装飾が施されているからニャ。
一方、天樹国に運ばれる武具の多くは、革製の柄に植物や動物などの意匠が凝らされ事が多く、こちらは実用的な目的と言うよりも、純粋に見栄えを意識した物を好むようだったニャ。
また、羅漢獣王国では木製の柄の上に鮫皮や鞣革を張りその上に紐を巻き付けるといった手の込んだ拵えを好む傾向が強かったニャ。
そんな風に、商人の依頼通りにそれぞれの街や国に合った拵えを施し拵え師としての腕を磨きながら数日過ぎたある日、僕は何時もの時間に御爺々様の工房の扉を開け朝の挨拶をして、何時もの様に仕事の準備をしようと割り当てられた仕事場に向かったのニャが、何故かこの日は工房の仲間たちからの返事が無かったのニャ。
不思議に思い、人が集まる工房の一角を覗いてみると、御爺々様以下工房の皆が眉間に皺を寄せ難しい顔をしていたのニャ。
「おはようございますニャ。朝から難しい顔をしてどうかしたのですかニャ?」
僕が声を掛けると難しい顔をしている工房の皆が一斉に声を掛けた僕の方に顔を向け、僕の姿を見るなり微かに苦笑を浮かべて、それまで工房内に広がっていた硬い空気が少し和らいだような気がしたニャ。
実際、御爺々様は苦笑交じりの微笑みを浮かべて、手を振って僕を招き寄せた。
「アプロ。実はちょっと困った依頼が舞い込んできたのニャ。」
「困った依頼ですかニャ?それは一体・・・」
尋ね返す僕に、御爺々様ではなく古株の職人が応えてくれたニャ。
「それが、何故か人魚族が使うトライデントの拵えをと言う依頼が持ち込まれたんですが、人魚族のトライデントなんてこれまで扱った事がなくてどうしたものかと・・・。」
そう言って掲げて見せてくれた物は、長さが六尺(180㎝)ほどの長柄の武具で、先端に返しの付いた槍の穂先が三つ並び立つ、魚を捕まえる時などに使う銛を大きく凶悪にしたような代物だったのニャ。
ただ、これまで工房に持ち込まれていたような鍛えたばかりの新品の武具と言う訳では無く、穂先は所々に刃毀れが有り長柄にも使い込まれて来た武具らしい凹みなどが見受けられたニャ。それを見た僕が何気なく、
「これは随分と使い込まれてきた武具ですニャ~。拵えを整える云々の前に、武具の修繕が必要ですニャ!依頼主にその事を伝えて、先に街の鍛冶師の元で修繕を済ませてからもう一度工房に持って来てくれるように伝えたら良いと思いますニャ。」
そう告げたら、皆の眉間の皺がますます深くなってしまったのニャ。
「アプロ。お前さんの見立ては正しいと俺達は思う。持ち込まれた当初から俺たちも同じ意見だったからな。
ただなぁ、依頼主が持ち込んだトライデントは新品の物だと言い張っていてなぁ・・・」
「え~ぇ、何なんなのニャその人は?そんなの難癖をつけているだけニャ、そんな依頼はお断りすればいいのニャ!」
トライデントの拵えを依頼して来たと言う者の言い分があまりにも非常識だと思い、依頼自体を断ればいいと言ったのニャが、その僕の発言に工房の皆は一層困った顔を浮かべ、
「・・断れるものなら俺たちも断りたいんだが、なかなかそう行かなくてなぁ。それで皆困っていた所だったんだ。実は・・」
説明をしてくれていた古株の職人が、続けて何かを口にしようとした途端、御爺々様が大きな声を上げ言葉を遮ったのニャ。
「そこまでニャ! これ以上はレヴィアタン街に腕を磨きに来ているだけのアプロに聞かせる話では無いニャ。
後の事はワシに任せて皆はそれぞれの仕事に掛かるニャ!!」
その一声で集まっていた工房の皆は一斉に各々の作業場所へと散って行った。そんな職人たちを見送った御爺々様は再び険しい表情を浮かべていたが、やおら立ち上がると「ちょっと出て来るのニャ!」とノッシノッシと工房の外へと出て行ってしまったのニャ。
そんな御爺々様を、僕はこっそり後をつける事にしたニャ、だって『腕を磨きにきただけ』だからって詳しい事を話してくれないのは悔しく思ったから・・・少し子供っぽい考えかもしれないけれどでもこの時の僕はそうしないとあとで後悔する事になるぞと、虫の知らせが届いていたのかもしれないニャ。
フィーンさんの案内で真安さんと一緒に訪れたレヴィアタン街にある拵え師の工房で、僕は親父様から訪ねるようにと言われていた大師匠・奔安見光月さんが御袋様の親父様、僕からすると御爺々様に当たる事が分かり、御爺々様だけでなく工房に居た拵え師の諸先輩方からも大歓迎を受け、恥ずかしいやら嬉しいやら大変だったのニャ。
御爺々様は大はしゃぎで、
「今日はもう仕事をやっておる場合ではないニャ。折角アプロが訪ねて来てくれたんニャ、工房総出で歓迎の宴にゃ♪」
「御大! そう言う事ならルンナータさんの店まで一っ走りして話をしてきやす。ちょっと待ってておくなせぇ!」
御爺々様の歓迎の宴発言に、職人さんの一人が今に工房の扉をくぐり走り出そうとしたため、僕は慌てて声を上げたニャ。
「待ってくださいニャ! 今日工房を訪れたのはお願いがあっての事ですニャ!!」
その声に、それまでお祭り騒ぎと化していた工房内がピタリと静まり、全員の視線が僕に集中しているのを感じた。僕は向けられた視線の圧力に、思わず生唾をゴクリと飲み込み。それまで満面の笑顔を浮べていた御爺々様の方へ一歩踏み出し、
「今日、こちらの工房を訪ねたのは、リンドブルム街に工房を開くカルル・ケットシーから大師匠を訪ねるようにと言われた事もありますが、僕自身拵え師としての腕を磨きたいくご指導を仰ぎたいと思っての事なのですニャ。
まだまだ若輩者ではありますが、一人の拵え師としてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたしますニャ!」
そう大声で告げると、暫しの静寂がその場を支配した。
僕は頭を下げたまま、返事を待ったもののあまりの静寂に言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながらも耐えていると、
「カルルの奴め、味な真似をするのニャ。分かったニャ、儂の工房で働く者達は皆カルルに勝るとも劣らない腕を持つ職人が何人もいるニャ。その者達の下でしっかりと腕を磨くと良いのニャ!
だが、それは明日からにして、今日は歓迎の宴をするニャ!!」
そう告げる御爺々様の言葉に合わせて再び工房内は喧騒が戻り、僕は御爺々様に連れられ歓迎の宴に連行され工房の人達に揉みくちゃにされながら大歓迎を受ける事にニャった。
そして、その翌日から工房で御爺々様の指導の下、拵え師として腕を磨く日々が過ぎて行ったのニャ。
初めに御爺々様が僕に告げた言葉は本当の事で、工房には親父様と肩を並べる腕を持った職人が数人いて、工房に持ち込まれる依頼に対応し様々な武具の拵えを手掛けていたニャ。
レヴィアタン街は商業の街として栄えて来ているため、羅漢獣王国からもニーズヘッグ街や響鎚の郷からも武具が運び込まれていたニャ。
各地から持ち込まれたそれらの武具を手に入れようと、様々な者達がレヴィアタン街を訪れていたニャ。
多くは商人で、レヴィアタン街に入った武具を入手し、別の街や国へ運んで行って運搬の手数料と利益を加えて販売していたのニャが、その商人は運んだ先で少しでも購入してもらえるように、販売先の街や国の者達の好みに合った武具の拵えに変更しようと多くの武具が御爺々様の工房に持ち込まれていたのニャ。
リンドブルム街の工房では、親父様がこの『人』が鍛えた武具ならと鍛冶師から直接依頼を受けて使用者一人一人に合わせた拵えを手掛けていたのニャが、武具を必要とする者の全てが鍛冶師に直接依頼し自分に合わせて武具を鍛えて貰い、拵えを仕立てられる訳ではないのニャ。
その多くが、商人がレヴィアタン街やニーズヘッグ街から運んできた武具を購入し、そのまま使用していたニャ。
そんな者達の為にレヴィアタン街の商人はそれぞれの街や国の者達の好みに合った武具の拵えを、レヴィアタン街に工房を開く御爺々様に発注していたのニャ。
各街や国にはそれぞれ好みの拵えという物があり、例えばリンドブルム街やニーズヘッグ街では木製の柄が好まれる事が多く、レヴィアタン街では同じように木製ながらも柄の表面には装飾を施す事が多かったニャ。
これは、リンドブルム街やニーズヘッグ街は草原や山間部などで使う事が多いのに対し、レヴィアタン街では海上や湊などの水に濡れる場所での使用が多く、少しでも滑り難いように柄の表面に凹凸をつける為に装飾が施されているからニャ。
一方、天樹国に運ばれる武具の多くは、革製の柄に植物や動物などの意匠が凝らされ事が多く、こちらは実用的な目的と言うよりも、純粋に見栄えを意識した物を好むようだったニャ。
また、羅漢獣王国では木製の柄の上に鮫皮や鞣革を張りその上に紐を巻き付けるといった手の込んだ拵えを好む傾向が強かったニャ。
そんな風に、商人の依頼通りにそれぞれの街や国に合った拵えを施し拵え師としての腕を磨きながら数日過ぎたある日、僕は何時もの時間に御爺々様の工房の扉を開け朝の挨拶をして、何時もの様に仕事の準備をしようと割り当てられた仕事場に向かったのニャが、何故かこの日は工房の仲間たちからの返事が無かったのニャ。
不思議に思い、人が集まる工房の一角を覗いてみると、御爺々様以下工房の皆が眉間に皺を寄せ難しい顔をしていたのニャ。
「おはようございますニャ。朝から難しい顔をしてどうかしたのですかニャ?」
僕が声を掛けると難しい顔をしている工房の皆が一斉に声を掛けた僕の方に顔を向け、僕の姿を見るなり微かに苦笑を浮かべて、それまで工房内に広がっていた硬い空気が少し和らいだような気がしたニャ。
実際、御爺々様は苦笑交じりの微笑みを浮かべて、手を振って僕を招き寄せた。
「アプロ。実はちょっと困った依頼が舞い込んできたのニャ。」
「困った依頼ですかニャ?それは一体・・・」
尋ね返す僕に、御爺々様ではなく古株の職人が応えてくれたニャ。
「それが、何故か人魚族が使うトライデントの拵えをと言う依頼が持ち込まれたんですが、人魚族のトライデントなんてこれまで扱った事がなくてどうしたものかと・・・。」
そう言って掲げて見せてくれた物は、長さが六尺(180㎝)ほどの長柄の武具で、先端に返しの付いた槍の穂先が三つ並び立つ、魚を捕まえる時などに使う銛を大きく凶悪にしたような代物だったのニャ。
ただ、これまで工房に持ち込まれていたような鍛えたばかりの新品の武具と言う訳では無く、穂先は所々に刃毀れが有り長柄にも使い込まれて来た武具らしい凹みなどが見受けられたニャ。それを見た僕が何気なく、
「これは随分と使い込まれてきた武具ですニャ~。拵えを整える云々の前に、武具の修繕が必要ですニャ!依頼主にその事を伝えて、先に街の鍛冶師の元で修繕を済ませてからもう一度工房に持って来てくれるように伝えたら良いと思いますニャ。」
そう告げたら、皆の眉間の皺がますます深くなってしまったのニャ。
「アプロ。お前さんの見立ては正しいと俺達は思う。持ち込まれた当初から俺たちも同じ意見だったからな。
ただなぁ、依頼主が持ち込んだトライデントは新品の物だと言い張っていてなぁ・・・」
「え~ぇ、何なんなのニャその人は?そんなの難癖をつけているだけニャ、そんな依頼はお断りすればいいのニャ!」
トライデントの拵えを依頼して来たと言う者の言い分があまりにも非常識だと思い、依頼自体を断ればいいと言ったのニャが、その僕の発言に工房の皆は一層困った顔を浮かべ、
「・・断れるものなら俺たちも断りたいんだが、なかなかそう行かなくてなぁ。それで皆困っていた所だったんだ。実は・・」
説明をしてくれていた古株の職人が、続けて何かを口にしようとした途端、御爺々様が大きな声を上げ言葉を遮ったのニャ。
「そこまでニャ! これ以上はレヴィアタン街に腕を磨きに来ているだけのアプロに聞かせる話では無いニャ。
後の事はワシに任せて皆はそれぞれの仕事に掛かるニャ!!」
その一声で集まっていた工房の皆は一斉に各々の作業場所へと散って行った。そんな職人たちを見送った御爺々様は再び険しい表情を浮かべていたが、やおら立ち上がると「ちょっと出て来るのニャ!」とノッシノッシと工房の外へと出て行ってしまったのニャ。
そんな御爺々様を、僕はこっそり後をつける事にしたニャ、だって『腕を磨きにきただけ』だからって詳しい事を話してくれないのは悔しく思ったから・・・少し子供っぽい考えかもしれないけれどでもこの時の僕はそうしないとあとで後悔する事になるぞと、虫の知らせが届いていたのかもしれないニャ。
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