鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百拾弐話 久しぶりのお茶は美味かったのですが何か!

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「ようこそレヴィアタン街へ。お待ちしてましたよ、驍廣さん♪」

街門の前でレヴィアタン街ギルド総支配人ポリティスとは一旦別れ、真安に連れられて街の中を歩きついた先は、周りの家々よりも少し大きな所謂『お屋敷』と呼んで差支えない様な純和風の建物だった。
真安に促されるままに中に入り俺達を出迎えてくれたのは、精竜の役終息後にニーズヘッグ街で別れたフクス・マレーファだった。
彼はポリティスの計らいで先触れに走った海竜人族の偉丈夫の知らせを聞き用意したのか、玄関先の設けられた上りあがりかまちの前の土間には湯気の上がる手桶と手ぬぐいが置かれていた。
久しぶりに会うフクスの顔にはいつもの不敵な笑みではなく、険の取れた優しげな笑みが浮かんでいた。そんなフクスの笑顔に俺や紫慧といったリンドドブルム街でのフクスしか知らない者は少し面喰ったような表情を浮かべて、何と返していいのか分からず戸惑っていると、

「賦楠君!また斜に構えた態度を取っていたんだね!!駄目だよ、そんなんだからあまり良い印象を持ってもらえないんだからね。ごめんなさい、賦楠君って人見知りだから初対面だといつもつっけんどんな態度を取っちゃうんです。でも本当は寂しがり屋な甘えん坊さんだから仲良くして上げて下さいね。
そんな事よりも長旅でお疲れでしょ、どうぞこちらに座って足を出して下さい。」

フクスの影からもう一つ手桶を持って姿を現した小柄で可愛い系の妖狸人族の少女(?)が頭を下げた。彼女はそのままフクスの足元に置かれていた手桶の横に持っていた手桶を置くとその場に跪いた。
そんな彼女にフクスは頬を赤くしながら、

「環!『寂しがりの甘えん坊』ってなんだよ、君が馴れ馴れし過ぎるんだよ!!」

反論を口にしつつも、『タマキ』と呼んだ妖狸人族の少女と向かい合うような位置に跪く。

「さぁ、驍廣さんこちらの上り框に腰を掛けて素足になって下さい。羅漢獣王国の家屋に上がる時には履き物を脱いでもらってるんです。その際にお湯に足を浸けて貰っているんですよ。
『郷に入れば郷に従え』とも言いますし、御面倒でしょうがどうぞこちらに!」

俺達はフクスに促されるままに、男はフクスの傍らに、女は妖狸人族の少女《環》の近くの上り框に腰を下ろしてそれぞれ履き物を脱ぐと、フクスと環は順番に俺達の足を手桶のお湯に浸した後、揉み解すようにしながら手ぬぐいで水気を取って行った(足濯ぎ)。
リンドブルム街からレヴィアタン街までは四日ほどの短い旅程だったとはいえ、その間は風呂は勿論無く魔獣の襲撃に備えて旅装(鎧)を纏ったままの就寝だったため、フクスと環による足濯ぎは思いのほか気持ち良く、思わずため息を漏らす者が続出した。その後、真安を先頭に商館の奥に通されると、そこは畳が敷かれ部屋の区切りには襖が、外との仕切りには障子が用いられ、障子を開けると外には玉砂利が敷き詰められた所謂『枯山水』の庭園を眺める事の出来る純和風の一室だった。
俺は畳から立ち上る藺草の香りに鼻孔を擽られ、思わず深呼吸をしてその臭いを思いっきり吸い込むと、そんな俺をアルディリアやアプロは不思議そうな目で見つめ、紫慧と真安たち妖獣人族の者達は嬉しそうに笑みを浮かべた。
そんな周りの反応に、俺は少し頬が熱くなる(多分赤くなってる)のを感じ、恥ずかしさを隠すように頭に被っていた布の上からモソモソと掻きながら、

「この部屋に入ったらなんだか懐かしい匂いが立ち上ってたんで思わず深呼吸をしちまった。」

と口にすると、その言葉にフクスと環の二人は嬉しそうに顔を見合わせて、

「それは良かった。真安様から驍廣さんがレヴィアタン街にお越しになると聞いて急いで畳替えをした甲斐がありました♪」

「賦楠君から、津田様が好んでお召しになられている服やお食事などが羅漢獣王国風の物が多いと聞いていましたので、商館の者総出で準備をさせていただいたのですが、新しい畳の匂いをそんなにも喜んでもらえるとは嬉しい限りです。レヴィアタン街滞在中はご不便をおかけせぬよう努めますので、何かありましたら遠慮なく声をおかけください。」

そう言うと二人は綺麗な所作で一礼をし、襖の向こう側へと姿を消した。

「さあさあ、皆様その様に立っておられず腰を下ろしてください。直ぐに飲み物なども用意されますのでらくにしてくだされ。」

襖の奥に姿を消したフクスと環の姿と言葉に気を取られていた俺達に真安から声が掛けられ、それを気に俺達は思い思いの場所に腰を下ろすと、合わせたかのように再び環が人数分の湯呑とおぼしき器に入った飲み物とお茶請けを持って姿を現し、それぞれが座る前に置いて行った。

「さっさ、皆様のお口に合うか分かりませんが、我が国の茶と菓子を用意させていただきました。先ずが喉を潤して下さいませ。」

真安から促されるままに、湯呑を口元に近づけると懐かしい香りが・・・思わず湯呑に口を浸け一口口に含むと、甘みと旨味そして苦味が混然一体と舌の上で踊るお茶の味が広がり思わず、『美味い!!』と呟いていた。そんな俺に真安は嬉しそうに笑みを深める。

「今飲んでいただいた茶は、カンヘルなどでは『羅漢茶』と呼ばれておりますが私達は単に『茶』または『翠茶すいちゃ』と呼んで親しんでおります。そんな翠茶を驍廣さんに美味いと言っていただけるとは、何とも嬉しい物ですなぁ♪そのお茶を美味いと思っていただけるのなら共にお出しした菓子もお口に合うかと思います。その菓子はカンヘルから伝来した甘藷かんしょ(サツマイモ)を蒸かし、裏ごしして口当たりを滑らかにした物を固めた『甘藷羊羹かんしょようかん』と言う菓子です。きっと翠茶にも合うと思いますよ是非お召し上がりを。」

という真安の言葉に誘われるままに甘藷羊羹を一口に含んだ後に続けて翠茶を啜り、菓子の甘みとお茶の苦みのハーモニーを楽しんだ。


「やい! いい加減に商館の主を呼ばねぇか!!」

「お待ちください。商館の主である波奴様は只今リンドブルム街・・・」

「四の五の言っていねぇで、呼べてんだよ! こちとら何人かの供を引き連れて商館に入って行くのをこの目で確認してんだよ。
っけ! 手前じゃ埒が明かねぇ。おい!」

「「「へい!」」」

まったりとお茶と菓子を楽しんでいると、急に商館の表玄関から何やら騒がしい声が聞こえて来たかと思ったら、ドカドカと荒々しい足音が襖の向こうまで来たと思ったら襖が蹴り倒され、

「おい! 手前ぇが波奴真安ってこの商館を取り仕切ってる奴か?!」

銅鑼声で誰何する屈強そうな男達数人が姿を現した。






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