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三日月の下で素顔を見せる美女と野獣

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 煌びやかな王宮の夜会では、着飾った貴族たちが華となって、男女が手を取りあう。
 ここは、優良な伴侶を見つけるための戦場である。

 私は、侯爵家の令嬢で、容姿は美しく、独身女性の中で飛びぬけて優良な伴侶として、男性たちの視線を浴びている。

 しかし、私に近づく男たちからは、いやらしい獣の匂いを感じる。見た目はイケメンの獣たちだ。

 もちろん私は、おくびにも出さない。


 一人例外がいる。ブタ公爵だ。見た目はブタなのに、獣の匂いがしない。
 彼は、戦場でブタに姿が変り、この国へ帰って来た王弟殿下である。


 迷信で、三日月の暗い明かりの下、人は素顔に戻り、本性が明かされると言われている。

 貴族は誰も信じていない。だって、夜は煌びやかな室内で、華と化しているから。


 今夜の夜会は、仮面の着用が義務付けられた。

 仮面を着用した夜会は、女の方から、男に告白することが許される。女にとって、特別な夜である。

 今夜は、いつにも増して熱気が高まり、着飾った華が舞っている。
 蝶のような仮面を着けているが、よく見れば、誰なのかは判る。


「バルコニーで涼みませんか」

 男が私を誘ってきた。
 仮面で顔を隠しているが、伯爵令息である。

 バルコニーで、二人きりになりたいということは、求婚してくるのだろう。

 誰もいないバルコニーは、一つだけ空いていた。今夜は、多くのカップルが生まれることだろう。

 夜のバルコニーは、涼しくて気持ちが良かったが、三日月の暗い明りの下、たとえ男女が何をしても、周りからは見えない場所である。

「ここなら、仮面をとっても大丈夫」
 お互いに仮面を外した。

 伯爵令息の素顔は、いやらしい獣であった。


「ブタ!」
 仮面を外した私の顔を見て、令息は驚き、室内に逃げ帰った。

 そう、私の仮面を外した顔は、ブタであった。


「夜会は大騒ぎだぞ。侯爵家の令嬢はブタだったとな」
 バルコニーに来たのは、ブタ公爵だった。

「私は、戦場に行った貴方を心配し、涙が枯れ、ブタになりました」

「人に愛想が尽きた俺に、お前に求婚する資格はない」

 私は、彼の胸に飛び込み、ブタとブタの顔が近づく。


「イタズラは、やめろ」
 彼は、私の顔からブタの仮面を外した。

「今夜は、女の方から、告白できる日なのですよ」
 ブタに、私のくちびるが触れました。

 三日月の暗い明かりの下、美男が、私を抱きしめてくれました。


━━ Fin ━━
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