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お母様は忙しい ~10万文字の小説を、1000文字にしなさいと言われました~ けど忙しいのは私です

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「あぁ、忙しいわ、心の栄養ドリンクが欲しい」

 お母様が、一人で焦っています。原因は、結婚を申し込む手紙を、受け取ったからです。

 父を亡くしてから、一人で侯爵家を守り、娘の私を19歳まで育てあげてくれたことに、感謝しています。

 でも、お母様は、おっちょこちょいなので、私が、しっかりと、サポートしている今日この頃です。


「フラン、この恋愛小説を読んでちょうだい。これで、心が落ち着くはずだわ」

 お母様の愛読書を手渡されました。これで、気分を盛り上げるつもりのようです。

「トキメキ☆おばちゃん……」

 貴族会のご夫人に流行っている恋愛小説でした。


「はい、では…………


「僕は、彼女との婚約を破棄する!」

 栗毛のイケメン王子が宣言しました。煌びやかなパーティー会場よりも、さらに煌びやかな王子です。

 赤い燕尾服には金糸による刺繍が施され、背中には大きく龍虎が刺繍されています。ズボンは真っ白で、しわ一つありません。黒のロングブーツは、荒々しい紐でキチっと結ばれ、よく磨き上げられています。

「偶然に素顔を見てしまったんだ。こんな年増だとは思っていなかった」

 イケメン王子は19歳、王立魔法学園を首席で卒業したばかりです。若さゆえの過ちだったのか、未亡人と恋仲になっていました。

「では、私がもらおう」

 黒髪でイケオジの王弟殿下が名乗りを上げました。由緒ある銀のグラスよりも、さらに、いぶし銀の香りを醸しだしている王弟殿下です。

 黒い燕尾服には金糸による刺繍が施され、背中には大きくブタが刺繍されています。「え? ブタ? 失礼」ブタは、王弟殿下の家紋です。


 …………


「あぁ、10万文字は長いわ! 時間が無いので、1000文字に縮めて読んで」

 お母様が、無茶をいいました。いつものことです。


「はい、では…………


「王弟殿下、その者は、このヒロインを虐めた女です」

 イケメン王子の横には、髪までピンク色の令嬢が、寄り添っています。

「そんな話は、ウソだと調べがついている」
 イケオジ王弟殿下の目が細く、そして光りました。


 …………


「あぁ、長いわ! 地の文もいらないから」


「はい、では…………


「お嬢さん、俺の妻にならないか」
「はい、王弟殿下」


 …………


「あぁ、ハッピーエンド! いいわ、力がみなぎってきた~」

 お母様の金髪から、金色のオーラが漏れ出ています。

「ところで、お母様、今日お会いする結婚相手は、どなたですか?」

「あぁ、王弟殿下のクロガネ様よ、強敵だわ!」

「え? では、私も同行します」


    ◇


「という小説を書きました」

 ホテルの寝室で、ドレッサーチェアに腰をかけ、寝間着姿の私が、話しました。

「お義母さんは、怒らなかった?」

 キングサイズのベッド、真っ白なシーツの上で、黒髪の王弟殿下が、寝間着姿でくつろいでいます。

「教えていません。私への結婚の申し込みを、自分のことだと勘違いするお母様には、良い薬です」

 私は、ワザと、少しふくれた顔を作ります。


「結婚式をやっと終えて、フランは疲れただろう。新婚旅行で、初めての夜を迎えるのだから、早く休もう」

 私の旦那様が、手招きしています。

「クロガネ様、私たちは、流行の白い結婚では無いのですか?」

 ワザと、少し意地悪そうな顔をして、ドキドキの気持ちを隠します。


「37歳の初婚の男性が、19歳の令嬢を妻にしたんだ。そんな、恋愛小説みたいなことはない」

 ベッドに腰を掛けた私に、クロガネ様が、甘く語りかけてきました。

「それでは……」

 私が言い終わる前に、彼は私を引き寄せ、抱きしめました。


「決まっている、赤い結婚だ……」



 ━━ Fin ━━
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