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第一部
58 恋人たち
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帰り道の足取りはまるで雲のようにふわふわ浮いている。
あのまま身体を求められ、自然の中で激しく抱き合った。
まるでエデンの園にでもいるみたいに世界には直樹と自分しかいないような錯覚すら起こしてしまった。激しい行為の後、しばらく抱きしめ合ってまた水に入り身体を洗ってもらった。――プロポーズ?
なんだか信じられない気持ちで、ぼんやりして歩いていると直樹が、「危ないよ」と、言って肩を抱いた。――ああ。
直樹の手が緋紗に触れると身体の芯が疼いてくる。
腰に手を回してしがみつくと今更ながらに腰回りや臀部もしっかりしていて、硬く逞しいことに気づく。――男の人の身体ってこんななんだ。
改めてドキドキしていると家に着いた。
ぼんやりしている緋紗を直樹は浴場に連れていき一緒にシャワーを浴びた。
少し焼けたのかビキニの跡がついている。
緋紗はさっきから無口でそわそわしているが、直樹も言いたいことを言ったので一緒になって黙っていた。
着替えて少し落ち着いたので直樹は適当にパスタをゆでた。
「緋紗。お昼食べよう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そう。よかった。疲れてるなら少し横になる?」
「あ、いえ。平気です」
「ぼんやりしてるね」
「すみません」
「ううん。考えてる?」
「いえ。あのすごく嬉しくてなんだか現実感がなくて」
直樹は少しホッとした。
「本当は嫌なんじゃないかと思ったよ」
緋紗は首をブンブン振った。
「そんなことないです。ただ、私にも言いたいことがあって」
「なに?」
緋紗は少し呼吸をして直樹を見て言った。
「好きです」
そしてうつむく。――ああ。先そっちだった。
「ごめん。気が付かなくて。順番が全部逆だったね。僕も緋紗が好きだ。ずっと一緒に居たい」
「ほんとに?――私、直樹さんが私のことを好きじゃなくても抱いてくれるならそれでいいと思ってました」
直樹は緋紗がいじらしくなって抱きしめた。
「好きだ。一生抱きたい」
緋紗も直樹を強く抱き返した。
二人でスーパーに買い物に行き、夕飯を緋紗が作った。
「へえー、美味しいね。緋紗、料理できるんだ」
「えっ。料理できなくてもよかったんですか?」
「うーん。考えなかったな」
「私、一応器作ってますから料理にも関心があるんですよ?」
「そうだったね。ごめんごめん」
直樹は笑った。――良かった。美味しくできた。
あまり派手な料理はできなかったが冒険はせずにいつもの和食を作った。
なんだか新婚気分で緋紗はウキウキする。
「甘くなくて美味しいよ」
「私も甘いのが苦手で砂糖は使わないです」
食べ物の好みも似ててよかったと緋紗は思う。
誰かが『食べ物とセックスが合えばうまくいく』と言っていた。
ただ肉じゃがの肉が違うようだ。
緋紗は牛肉で作るのだがこっちでは豚肉を使って作るらしい。
二人で、「地域が違ーう」と、好きな漫画のセリフを真似て笑った。
寝室でまたマティーニを作って飲んだ。
「明後日、帰る日だね」
「早いですね。あっという間」
「小夜子さんが夜来いって言ってたな」
「少し早めに行って散歩してもいいですか?」
「うん。いいよ」
直樹は後ろから緋紗を抱えて座って飲んでいた。
なんとなく緋紗が懐いた猫のように直樹のそばにいる。
あれだけ身体が繋がっていても、どこか一線を引いていたような緋紗が『好き』だという言葉一つでその垣根を飛び越えてきたような気がする。――これが恋人ってことか。
直樹は今まで一人で自由に過ごしてきた充実感とまた違った満足感があると思った。
緋紗がそばにいることがとても自然で、ずっとこうしてきたかのような気持ちにすらなる。
飲みながらなんとなく緋紗の身体を弄ると、彼女も飲みながら身体を摺り寄せてくる。
頬を撫でると緋紗は直樹の指先にキスをし、その指を軽く噛んで吸い付いたりなめたりした。――やっぱりネコ科だな。
昼間のヒョウ柄の水着を思い出してくすりと笑うと、「なんですか?」 と、緋紗が聞いてきた。
「いや。なんでも」
咳払いをしてごまかしたが緋紗は怪訝そうに見る。
「明日も泳ぎに行こうか」
「もうあんなことしないで下さいよ」
「うん。本当に反省してるから。もうしません」
「ほんとに怖かったんですからね」
緋紗は口を尖らせた。
「好きだよ」
耳元でささやく。
「――私もです」
直樹はグラスを置いて本格的に緋紗を愛撫始めた。
何度も何度も口づけをした。
抱き合いながら緋紗が『好き』と『気持ちいい』を何度か口にする。
ずっと言いたかったのだろうか。
言葉は二人にとって記号でしかなかったが、改めてそう言われると直樹も緋紗をいつもより抱きしめる力が強くなる。――緋紗に燃やされてしまってもいい。
いつもとほとんど変わらない行為なのに深く相手に入り込む気がする。
恋人として初めて過ごす夜だからかもしれない。
愛し合った後二人は緋紗の焼いたグラスのように抱き合って眠った。
あのまま身体を求められ、自然の中で激しく抱き合った。
まるでエデンの園にでもいるみたいに世界には直樹と自分しかいないような錯覚すら起こしてしまった。激しい行為の後、しばらく抱きしめ合ってまた水に入り身体を洗ってもらった。――プロポーズ?
なんだか信じられない気持ちで、ぼんやりして歩いていると直樹が、「危ないよ」と、言って肩を抱いた。――ああ。
直樹の手が緋紗に触れると身体の芯が疼いてくる。
腰に手を回してしがみつくと今更ながらに腰回りや臀部もしっかりしていて、硬く逞しいことに気づく。――男の人の身体ってこんななんだ。
改めてドキドキしていると家に着いた。
ぼんやりしている緋紗を直樹は浴場に連れていき一緒にシャワーを浴びた。
少し焼けたのかビキニの跡がついている。
緋紗はさっきから無口でそわそわしているが、直樹も言いたいことを言ったので一緒になって黙っていた。
着替えて少し落ち着いたので直樹は適当にパスタをゆでた。
「緋紗。お昼食べよう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そう。よかった。疲れてるなら少し横になる?」
「あ、いえ。平気です」
「ぼんやりしてるね」
「すみません」
「ううん。考えてる?」
「いえ。あのすごく嬉しくてなんだか現実感がなくて」
直樹は少しホッとした。
「本当は嫌なんじゃないかと思ったよ」
緋紗は首をブンブン振った。
「そんなことないです。ただ、私にも言いたいことがあって」
「なに?」
緋紗は少し呼吸をして直樹を見て言った。
「好きです」
そしてうつむく。――ああ。先そっちだった。
「ごめん。気が付かなくて。順番が全部逆だったね。僕も緋紗が好きだ。ずっと一緒に居たい」
「ほんとに?――私、直樹さんが私のことを好きじゃなくても抱いてくれるならそれでいいと思ってました」
直樹は緋紗がいじらしくなって抱きしめた。
「好きだ。一生抱きたい」
緋紗も直樹を強く抱き返した。
二人でスーパーに買い物に行き、夕飯を緋紗が作った。
「へえー、美味しいね。緋紗、料理できるんだ」
「えっ。料理できなくてもよかったんですか?」
「うーん。考えなかったな」
「私、一応器作ってますから料理にも関心があるんですよ?」
「そうだったね。ごめんごめん」
直樹は笑った。――良かった。美味しくできた。
あまり派手な料理はできなかったが冒険はせずにいつもの和食を作った。
なんだか新婚気分で緋紗はウキウキする。
「甘くなくて美味しいよ」
「私も甘いのが苦手で砂糖は使わないです」
食べ物の好みも似ててよかったと緋紗は思う。
誰かが『食べ物とセックスが合えばうまくいく』と言っていた。
ただ肉じゃがの肉が違うようだ。
緋紗は牛肉で作るのだがこっちでは豚肉を使って作るらしい。
二人で、「地域が違ーう」と、好きな漫画のセリフを真似て笑った。
寝室でまたマティーニを作って飲んだ。
「明後日、帰る日だね」
「早いですね。あっという間」
「小夜子さんが夜来いって言ってたな」
「少し早めに行って散歩してもいいですか?」
「うん。いいよ」
直樹は後ろから緋紗を抱えて座って飲んでいた。
なんとなく緋紗が懐いた猫のように直樹のそばにいる。
あれだけ身体が繋がっていても、どこか一線を引いていたような緋紗が『好き』だという言葉一つでその垣根を飛び越えてきたような気がする。――これが恋人ってことか。
直樹は今まで一人で自由に過ごしてきた充実感とまた違った満足感があると思った。
緋紗がそばにいることがとても自然で、ずっとこうしてきたかのような気持ちにすらなる。
飲みながらなんとなく緋紗の身体を弄ると、彼女も飲みながら身体を摺り寄せてくる。
頬を撫でると緋紗は直樹の指先にキスをし、その指を軽く噛んで吸い付いたりなめたりした。――やっぱりネコ科だな。
昼間のヒョウ柄の水着を思い出してくすりと笑うと、「なんですか?」 と、緋紗が聞いてきた。
「いや。なんでも」
咳払いをしてごまかしたが緋紗は怪訝そうに見る。
「明日も泳ぎに行こうか」
「もうあんなことしないで下さいよ」
「うん。本当に反省してるから。もうしません」
「ほんとに怖かったんですからね」
緋紗は口を尖らせた。
「好きだよ」
耳元でささやく。
「――私もです」
直樹はグラスを置いて本格的に緋紗を愛撫始めた。
何度も何度も口づけをした。
抱き合いながら緋紗が『好き』と『気持ちいい』を何度か口にする。
ずっと言いたかったのだろうか。
言葉は二人にとって記号でしかなかったが、改めてそう言われると直樹も緋紗をいつもより抱きしめる力が強くなる。――緋紗に燃やされてしまってもいい。
いつもとほとんど変わらない行為なのに深く相手に入り込む気がする。
恋人として初めて過ごす夜だからかもしれない。
愛し合った後二人は緋紗の焼いたグラスのように抱き合って眠った。
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