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119 国の違い

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 華夏国の国賓として盛大なもてなしを受けた後、星羅と蒼樹は宮殿から少し離れた屋敷へと宿泊のために案内される。屋敷は王宮と違い規模は小さいが、石造り建築の粋を集めたかのような華麗で美しいものだ。最高品質の黒い大理石は、星羅が映るほどよく磨かれている。ひんやりとした空気は、西国の暑い気候を忘れてしまいそうだ。

「明日は本当に楽しみだわ」
「よかったな」

 この屋敷に、朱家が揃うのだ。市民の身分になった朱京湖は、兄の京樹が住まう王宮には出入りできない。例え、京樹の母ということで目をつぶられても、父の朱彰浩は絶対に王宮に入ることは許されない。
 身分至上主義の西国では、どんなに才があっても市民階級は政治に関与することはできないのだ。

「母は、華夏国と違ってこの国の身分制度がとても嫌だと言っていたわ」
「どこで生まれるかで一生が決まってしまうのは、厳しいものがあるな」
「兄は華夏国で育ったから、身分制度に反発があるでしょうね」
「京樹殿、いや、ラカディラージャ様は王なのだから、変革させられないのか」

 星羅も、蒼樹同様に思うが、実際無理のようだ。子どものころに、蒼樹と同じように、星羅も母の京湖に聞いたことがある。良い王様が、華夏国の高祖のように身分をなくせば良いのではないかと。当時の京湖と同じように、ため息交じりで星羅も答える。

「西国では、その階級に生まれることに因果応報があって変えてはいけない、階級をなくすことは自然の法則を無視することになるのですって」
「なるほど。そう言われてしまってはどうしようもないな」
「せめて、低い身分の者でも幸せに暮らせるといいのだけれど」
「そうだな……」

 話に聞いていた身分制度の熾烈さは、星羅と蒼樹が目の当たりにすることはできなかった。西国の恥部ともいえるこの身分制度は、王族や戦士階級にとってはなくてはならないものである反面、他国の者に見せられるものではなかった。
不可触民の住まいは国の一番劣悪な場所で、仕事も人が最も嫌がるだろう汚れ仕事しかなかった。どんなに才能があり、高潔な精神を持とうが一生不可触民の身分から変えられることはなく、自己を実現する機会などない。汚物にまみれ、腐ったものを食べ、自分より上の身分の者に唾される日々を送るのだ。

 京湖に暗殺された、先代の王バダサンプは、不可触民であったことが発覚したのち、その名前をすべての記録から抹消された。数代先の時代には、バダサンプという王がいたことなど全く知られないだろう。

 星羅も蒼樹も、もしもバダサンプが私利私欲に走らず、志や徳が高ければ、泥の中から生まれた英雄として西国を換えることが出来たかもしれないと残念に思った。

「今の華夏国があるのは高祖のおかげね」
「ああ、宦官がいないだけでも随分違う」
「でも晶鈴の母上が言ってた。この王朝もいつかなくなるって」
「例え完成度が高くとも、いつかは古くなり新しいものがやってくるのかもしれぬな」
「蒼樹もなんだか達観してるのね」
「さあ、どうかな」

 二人は飽きることなく意見の交換をしあう。話せば話すほど、星羅は自分の思考が洗練されていくと感じていた。


 朱家の集まりの前に屋敷の侍女たちが着替えをもってやってきた。大きな箱を二つ持ってきて「王様からです」と恭しく差し出す。

「あら、着替えならあるのに。気を使ってくれてるのかしら」

 星羅が遠慮すると「こちらは暑いので西国の衣装をお召しになるのが良いかと」とリーダーらしい侍女は告げる。

「着てみたらどうだ。西国の衣装など普段着ることがないだろう」

 蒼樹はこういう差し出されるものには遠慮をする必要がないと、礼を言い受け取った。

「じゃあ、着替えたらもう会食ね」
「そうだな。ではまた後で」

 二人は着替えるために、それぞれ侍女を伴い別室に入っていった。
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