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116 知己
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華夏国に落着きが見られ始めたと同時に、軍師省では危急存亡の際のマニュアルなどを作成始める。王の曹隆明も、隣国との交流し友好を深めるため、軍師たちを外交に赴かせることにする。また国際化に向けて、他国の言葉を学ぶ学校も増やし、より多彩で多種多様な職も生まれ始める。国全体が貧しくはなったが、個々の役割はより意識的になり、才を生かす機会に大いに恵まれるようになった。
星羅は蒼樹と結婚してから、軍師省でも家でも一緒だった。四六時中一緒に居ても、お互いにやることが多いせいか干渉しあうことは少ない。蒼樹は結婚してからも変化がなく、星羅も変わる必要に迫られなかった。最初から家族だったような、もしくは長年連れ添った夫婦のような不思議な関係だった。しかし、そんな星羅にも思うところがあり、ついつい憎まれ口をたたく柳紅美のところへ会いに行く。
「会うたびにお腹が大きい気がするね」
「まあ、そうかも」
紅美は4人目の子を妊娠していた。本当は3人目になるはずだったが、前回は双子を妊娠していた。
「あなたのところは兆候ないの?」
「あ、うん……」
「忙しすぎるんじゃない?」
「だといいけど……」
「まーた暗いわね。あなたってば、国や民のことには前向きなのに、自分のことになると途端にダメね」
遠慮のない紅美は、女学生のころに得られなかった、もはや知己である。紅美のほうも学問も意識も他の女学生よりとびぬけていたので、対等に付き合えるのは星羅ぐらいだった。
「その、なかなか授からなくて」
「欲しいの? 子ども」
「わからない。でも出来ないとなんだか心配で」
「もしかして、自分に原因があるとでも思ってないわよね」
「え、どうだろう」
「原因があるなら蒼にいでしょうよ。あなたはもう産んでるんだし」
「う、ん……」
「気にしなくていいわよ。仲良すぎると子どもはいらないらしいじゃない。子どもが夫婦を繋ぎ止める役割をすることもあるみたいだし。あ、うちは仲いいわよ? 子どもいなくたって夫婦仲いいんだから」
「ふふふっ。知ってる」
紅美と許仲典の仲の良さは、将軍たちの間でも有名だったが、実際は恐妻家として有名になっていた。
「ともかく蒼にいだって、子がほしけりゃ多忙な軍師を妻になんて迎えないわよ」
「そうね。ただ、わたしは、わたしの母もそうだけど親子の縁というものが薄いのかなと思うの」
星羅の祖母に当たる、胡晶鈴の母も、彼女を産んで早くに亡くなったと、医局長の陸慶明から聞いたことがあった。息子の徳樹も、産んだとはいえ、自分の手元からは大いに離れている。
「また難しいこと考えてるのね。親子の縁って血縁のこと? あなたは西国の方だったけど愛情いっぱいに育ててもらったんでしょう?」
「ええ」
今でも育ての母、朱京湖が懐かしい。胡晶鈴には、存在を知るべく一目でも会いたい気持ちが強かったが、京湖には甘えたくなる。
「子育てしたいなら、うちから一人くらい養子に出すけど?」
「養子に?」
「ええ、愛情があって大事に育つならどこでもいいじゃないの」
「はあ」
相変わらず、考え方にぶれがない紅美は、ある意味尊敬の対象だ。きっと口先だけではなく、本当に望めば、養子の件を承諾するだろう。
「だけど、どうかなあ。蒼にいは自分の子どもなんかはそんなに興味ないと思うわ。あなたと一緒にいるだけで満足そうだし。郭家も跡取りなんて発想ないしね」
代々軍師家系である郭家は、誰か一人に、長男などに跡取りとして期待を寄せることはしない。華夏国の高祖の代から仕えているので、軍師を絶やすことなく子供を多く残そうとするがそれだけだった。子や孫に軍師の才がなく、郭家から軍師が輩出されなければ、それでもう終わりなのだと割り切りがある。蒼樹以外にも郭家には同じ年代の子息子女が大勢いる。もしも郭家に子がなければ、親類である紅美のように子だくさんの者が郭家に養子に出すこともあるだろう。
「歴史がある家柄はやはりすごいのね」
「まあ、二人で軍師なら子育てする余裕ないと思うわよ。むしろ出来たら連れてらっしゃい。育ててあげるから」
「ありがとう。頼もしいね」
「あー、おなか減った!」
ますます貫禄が付いて行く紅美に、星羅は安心感を得る。帰り際、紅美に礼を告げると、彼女は少し照れ臭そうにぶっきら棒な態度をとる。一度、許仲典を他の兵士がからかっているのを聞いたことがある。紅美を知っている兵士たちは、はっきりきついことを言う紅美を怖い嫁だという。許仲典は、そんな評判をものともせず、可愛い嫁だと臆面もなく話すのだ。
「いい夫婦ね」
自分と蒼樹とはまた違う、紅美と許仲典のカップルはとても安心できる愛すべき夫婦だと思い星羅は胸が温かくなった。
星羅は蒼樹と結婚してから、軍師省でも家でも一緒だった。四六時中一緒に居ても、お互いにやることが多いせいか干渉しあうことは少ない。蒼樹は結婚してからも変化がなく、星羅も変わる必要に迫られなかった。最初から家族だったような、もしくは長年連れ添った夫婦のような不思議な関係だった。しかし、そんな星羅にも思うところがあり、ついつい憎まれ口をたたく柳紅美のところへ会いに行く。
「会うたびにお腹が大きい気がするね」
「まあ、そうかも」
紅美は4人目の子を妊娠していた。本当は3人目になるはずだったが、前回は双子を妊娠していた。
「あなたのところは兆候ないの?」
「あ、うん……」
「忙しすぎるんじゃない?」
「だといいけど……」
「まーた暗いわね。あなたってば、国や民のことには前向きなのに、自分のことになると途端にダメね」
遠慮のない紅美は、女学生のころに得られなかった、もはや知己である。紅美のほうも学問も意識も他の女学生よりとびぬけていたので、対等に付き合えるのは星羅ぐらいだった。
「その、なかなか授からなくて」
「欲しいの? 子ども」
「わからない。でも出来ないとなんだか心配で」
「もしかして、自分に原因があるとでも思ってないわよね」
「え、どうだろう」
「原因があるなら蒼にいでしょうよ。あなたはもう産んでるんだし」
「う、ん……」
「気にしなくていいわよ。仲良すぎると子どもはいらないらしいじゃない。子どもが夫婦を繋ぎ止める役割をすることもあるみたいだし。あ、うちは仲いいわよ? 子どもいなくたって夫婦仲いいんだから」
「ふふふっ。知ってる」
紅美と許仲典の仲の良さは、将軍たちの間でも有名だったが、実際は恐妻家として有名になっていた。
「ともかく蒼にいだって、子がほしけりゃ多忙な軍師を妻になんて迎えないわよ」
「そうね。ただ、わたしは、わたしの母もそうだけど親子の縁というものが薄いのかなと思うの」
星羅の祖母に当たる、胡晶鈴の母も、彼女を産んで早くに亡くなったと、医局長の陸慶明から聞いたことがあった。息子の徳樹も、産んだとはいえ、自分の手元からは大いに離れている。
「また難しいこと考えてるのね。親子の縁って血縁のこと? あなたは西国の方だったけど愛情いっぱいに育ててもらったんでしょう?」
「ええ」
今でも育ての母、朱京湖が懐かしい。胡晶鈴には、存在を知るべく一目でも会いたい気持ちが強かったが、京湖には甘えたくなる。
「子育てしたいなら、うちから一人くらい養子に出すけど?」
「養子に?」
「ええ、愛情があって大事に育つならどこでもいいじゃないの」
「はあ」
相変わらず、考え方にぶれがない紅美は、ある意味尊敬の対象だ。きっと口先だけではなく、本当に望めば、養子の件を承諾するだろう。
「だけど、どうかなあ。蒼にいは自分の子どもなんかはそんなに興味ないと思うわ。あなたと一緒にいるだけで満足そうだし。郭家も跡取りなんて発想ないしね」
代々軍師家系である郭家は、誰か一人に、長男などに跡取りとして期待を寄せることはしない。華夏国の高祖の代から仕えているので、軍師を絶やすことなく子供を多く残そうとするがそれだけだった。子や孫に軍師の才がなく、郭家から軍師が輩出されなければ、それでもう終わりなのだと割り切りがある。蒼樹以外にも郭家には同じ年代の子息子女が大勢いる。もしも郭家に子がなければ、親類である紅美のように子だくさんの者が郭家に養子に出すこともあるだろう。
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「ありがとう。頼もしいね」
「あー、おなか減った!」
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「いい夫婦ね」
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