悠久の大陸

彩森ゆいか

文字の大きさ
上 下
16 / 80

第16話 アダルト空間へ行こう

しおりを挟む
 コントローラーを握ってゲームの画面を眺めているのとは、まるで違う。あまりにもこの世界はリアルすぎた。倒したモンスターは霧のように消えてなくなるが、斬った感触もダメージを受ける痛みもすべて本物と変わらない。
「ほら」
 目の前でしゃがんでいるリュウトが、座り込んでいるナツキに視線を合わせてきた。ナツキの左手を取り、端末のパネルを開く。自分以外の人にも開けることに、ナツキは驚いた。パーティを組んでいるせいだろうか。
「これ」
 リュウトはアイテム一覧を見せてきた。新しく増えたアイテムは一番上に表示される。そこに見慣れないアイテムがあった。通行証のような形をしている。
「これがアダルト空間に行けるようになるためのアイテム。使わなくても持ってるだけで効果あるから。これでナツキはいつでも行きたい時に裏側へ行ける。表でゲームしたければ表で、裏でゲームしたければ裏で、今後好きな場所でゲームができるようになる。さっきの、ナツキにはちょっと強い敵でつらかったかもしれないけど、レベルもあがったし、お金も増えたし、これからはもう少し楽に戦えるようになると思うから」
 ナツキはじっとリュウトを見つめた。
「……リュウト」
「ん?」
「リュウトは平気なの……?」
「なにが?」
 潤んだ眼差しで見つめるナツキを、リュウトは少し眩しそうに見つめ返した。そんなことには気づいていないナツキが、さらに見つめ返す。
「戦うこと。俺、怖くなった。無我夢中でやったけど、震えが止まらないし、まだすごくドキドキしてる。吹っ飛ばされた時の痛みも感覚もまだ残ってる」
「大丈夫、じきに慣れるよ。レベルがあがって、スキルもあがって、魔法も覚えたら、どんどん戦いやすくなっていくから」
 リュウトが安心させるようにそっと微笑んだ。
「リアルな戦いが無理でやめてしまう人もいるにはいるけど、ゲーム続ける人のほうが多いし。ごめん、俺が無茶させたから。普通はこんな無茶なことしないから。俺が急かせてやらせちゃっただけだから。早く向こう側に連れて行きたくて」
 リュウトは自分の端末を探り、アイテムを取り出した。回復アイテムのポーションだった。渡されたナツキは、そっと口をつけて飲み干す。
 減っていたライフが回復し、痛みも消えた。細かい傷も消える。
 ナツキはほぅと息をつき、目元を拭った。
「アダルト空間に入るのが、こんなに大変だとは思ってなかった。自分の下心を呪いたい」
「はははっ」
 リュウトに笑われた。
「入るためには条件があるって言ったけど、一番重要なのは本人の力でクリアすることだったんだ。だからボスモンスターもナツキが倒さないと意味がない。その前のパズルもナツキがやることで、誰が通行証を求めているのか登録するという意味のものだった。入口で俺が出した紋章エンブレムのようなアイテムは、初心者ダンジョンを専用ダンジョンに変更するためのものだった。あれ紋章があれば、どのダンジョンでもアダルト空間行きのダンジョンへと変えることができる」
 このゲームにはあらゆる種類の紋章エンブレムがあり、通常のダンジョンでは行けないような、特殊なダンジョンに入れるようになる。どの紋章エンブレムでどんなダンジョンが出るのかは、実際に入ってみなければわからないが、一部の紋章エンブレムなら攻略サイトを見れば詳しく書いてある。まだ見つかっていない紋章エンブレムや、アップデートで新しく追加される紋章エンブレムもあるので、すべてを把握している人は運営会社以外にはいないだろう。
「じゃあ、アダルト空間への入口が毎日変わるっていうのは……?」
「他にも入口があるにはある。紋章エンブレムを持ってなくても入れる入口がね、どこかに隠されてる。その場所が毎日変わる。見つけるために探す旅もわりと困難だ。でもこのアイテムさえあれば、どのダンジョンでも入口にすることができる。入口に辿り着くまでの面倒な行動が、一気にショートカットできるんだ。ただ、これは誰にでも持てるアイテムじゃない。レベル百を越えて、あるクエストをクリアしないともらえない」
「なるほど……」
 ナツキはどっと疲れた。回復ポーションで元気になったはずなのだが、気持ちがすっかり疲れている。
 そんなナツキの腕をつかみ、リュウトが促してきた。
「向こうが出口だ。あの先にアダルト空間がある。一見、全年齢の世界とそんなに変わらないから、同じ世界に見えるけどね」
 疲れていたが、しぶしぶナツキは立ち上がった。いつまでも洞窟の中にはいたくない。リュウトに腕を引かれるまま歩き出す。
 洞窟の中に一点光る床があった。これに乗ると洞窟の外にワープする。
 ブンッと風を切るような音がして、二人は一瞬で外に出た。
 外は夜だった。このゲームには朝も昼も夕方も夜もある。リアルに近いが、時間の流れはゲーム内独自のものだ。現実の一日よりも早く昼夜が訪れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

松本先生のハードスパンキング パート1

バンビーノ
BL
 中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。  初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。 「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」  僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。 「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」  気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。  

処理中です...