失恋の特効薬

めぐみ

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失恋の特効薬

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「ハイハイお前が好きな顔と体ですよ、好きなだけ見るなり触るなりしてください」

投げやりな口調に不機嫌さを感じる。何か彼の気に障るようなことを言ってしまったのだろうかと首を傾げた。

「もしかしてノアって自分の顔好きって言われるの嫌だったりする?」

「………………………………………………………………なんでそう思うんだよ」

その少しの間は肯定しているようなものだった。何年彼と付き合いがあると思っているのだ、最近は特に彼をよく見ようとしていたこともあり、つぶさに観察していればすぐにわかることだった。

「最初は…式場での反応かな。不機嫌なのはただ単純にハーヴィルと間違えられるのが面倒くさいだけだと思ってたけど、今思えばそれだけじゃなかったんだろうなって思って…あとえっちするとき私にヤケに自分をハーヴィルの代わりにしろって言うじゃん。その時の声色もどこか投げやりっていうか…どこか不機嫌だった」

今までのことを整理して話すと、ノアは私をまじまじと見つめた後に、はぁーと深く息を吐いた。

「まったく…なんでお前にはバレちまうかね」

ようやく白状する気になったのか、ノアはぽつりぽつりと言葉を紡いだ。それは何か大事な話なのか私の手を握って落ち着いた口調で話し始める。

「お前の言うとおり…俺はよ、自分の顔が嫌いなんだよ」

「うん…」

「若い時は今以上だな、ハーヴィルと双子かってくらい似てる時があった。あっちが3歳ガキなんだがな」

ノアはどこか遠くを眺めながらぽつりぽつりと昔を思い出しながら話し始める。それはノアが28の時の話だ。ある日村の娘からノアと付き合いたいとの話があったらしい。その頃のノアは女遊びもしておらず、村でも綺麗だと評判だった女からの告白に彼の心は踊った。
それから交際を果たし、一緒に過ごしていくうちにノアもその気立てのいい女性に惹かれていったようだ。だがそれはある出来事をきっかけに一変した。

「おい、ノア兄さん」

聞いたことのないようなハーヴィルの低い声と彼によって乱暴に自分の前に投げ出された恋人の姿に何事かと動揺が走る。ハーヴィルは訳もなく女性を乱暴に扱ったりしない、それは分かっているものの恋人への理不尽な仕打ちにノアはカッとなってハーヴィルに掴みかかった。
そんなノアにハーヴィルは一瞬視線を揺らして歯を噛み締めたのちに床に倒れる女を軽蔑の目で見下ろした。

「なぁ、さっき喫茶店で話してたこと…兄さんにも話してみろよ。俺は一族をコケにされて黙ってるほど優しい男じゃないぞ、おいッ!!!!!」

ハーヴィルの怒気を含んだ声に、ノアは只事ではないと感じる。

(一族をコケにされた…?そりゃ…どういう意味だ?)

そこでようやく彼女が口を開いて震える声で話し始めたのだった。
本来彼女はノアではなくハーヴィルのことを愛していた。ここ一年で女遊びが激しくなったハーヴィルと体の関係を持っていたが、大切な人との約束があるからと自分に気持ちは一切向かないハーヴィルに我慢ならなくなったようだ。
そこで代わりを見つける。好きな男に顔も背格好もよく似たその男─そう、ノアだった。
彼女はノアをハーヴィルの代わりとして自分の満たされない心を満たしていた。ノアは彼女を本気で愛していたのに。





「ってとこだな。まぁ昔からべらぼうに頭のいい、何やらせても満点でやりこなすハーヴィルとは顔が似てることもあってよく比べられててな。そのコンプレックスがその出来事で爆発しちまったんだ」

「で、でも…っ、ノアとハーヴィルは違うんだし…付き合ってるうちに彼女もノアの良いところだって知っていったんじゃ…」

「それがよ、ハーヴィルと重ねるばかりで…ハーヴィルと違うところは不満でしか無かったんだとよ。俺はただハーヴィルとツラの似たお飾り人形でしかなかったらしい」

ノアはそんな自分を嘲笑いながら言葉のナイフを深く自らに刺していく。その話を聞いて、私は何も言えなくなってしまった。確かにノアはもともと女遊びが激しい、というイメージは無かった。その日を境にそのあたりも影響してしまったんだろう。

「何もかもどうでも良くなった。村から出て、ハーヴィルも何も知らないやつのいるところで真実の愛とやらを見つければ良かったんだろうけどよ…そんな気力も生まれなくてこの歳まで独身のザマだ」

ノアは浴槽に深く身を沈めて再び深く息を吐く。そうして私の体を引き寄せるとクシャクシャと私の髪を撫でた。

「悪いな、胸糞悪い話に付き合わせちまって」

「ううん、そんなことない。嫌なこと話させちゃって私こそごめんね…」

「お前が謝ることじゃねぇよ」

ノアが優しく微笑んでくれる姿を見て胸が痛くなる。嫌な気持ちになったはずなのにこうやって無理をして笑ってしまうのだ。

「私は…ノアだけのいいところ分かってるからね」

「え…?」

「りょ、料理上手なところでしょ!それに…人の変化にすぐ気付いてくれるところ…、自分より他の人のこと優先してくれるところ…っ」

ノアは私の言葉を聞いて目を見開いた。そうして今度は本当に心から微笑んでくれ、そこでやっと安心する。

「まぁ実を言うと料理の腕もハーヴィルには敵わないんだけどな」

「えっ、そうなの?!でも私ハーヴィルの料理は食べたことないからノーカンノーカン!」

「ったく…お前は」

ノアは呆れたように笑って不意にキスを落とされた。あまりにも脈絡がないように思えるキスに驚くが、そのキスはどんどん深くなっていく。

「ん……ふぅ……」

そんなキスをされてしまえばノアに開発されきった体は簡単にその気になってしまう。彼の背中に腕を回してさらに深い口付けを堪能すると、そのまま抱え込まれて湯船から出て寝室に直行されてしまう。その間もキスはしたままでノアに余裕のなさを感じる。
漸く唇が離れたところでベッドにうつ伏せに寝かされた。その上からノアの体がのしかかって身動き一つできないようにされてしまう。体の前面はしっとりと濡れたシーツ、後ろからは筋肉質な肉布団と挟まれて逃げられなくされてしまった。
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