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こんにちは、赤いお狐様
里を司る魔女様
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変な雰囲気が溶けぬまま、俺たちは開きっぱなしの入り口に押し掛けた。
お見えになったのはどんと突き出されたアンティークな家の身なりだ。
よくわからない植物と装飾が織りなす、とにかく温かい和のイメージを損なえるお屋敷だった。
「――いらっしゃいませ」
そんなところへ妙な姿がやって来る。
黒白のメイドだ。正確にはメイドどもだろう、見方によっては赤にも緑にも見える変わった髪色をしてる。
そんなのが一体二体とどこからともなく現れるのだが、どう見ても全員顔の作りが同じで。
「こんにちは、ショゴさん」
「こんにちは、シズク様。梨是様がお待ちしております」
「あっ、もう気づいてたんだ……。分かりました、すぐ行きますね?」
その上顔色一つ変えぬそんな無数の姿に「今日も元気ですね」とばかりに挨拶して、シズクは通り過ぎていく。
「いらっしゃいませ、人間様。妖怪の里を司りし梨是様があなたをお待ちしております、どうぞお進みください」
こっちにも一礼してきた。ざざっと一斉にメイドらしく持ち上がるスカートは、ある意味恐ろしい光景というか。
「あ、はい……」と恐る恐る進むと微動だにせぬメイドの規律が恐ろしい。
「――今日もデカケツですねシズク様」
――ぱぁんっ。
と思いきやいきなりその手がシズクの後ろをぶっ叩く。具体的に言えば、着物に浮かぶデカいケツに。
「んお……っ!?♡ ちょ、ちょっとやめてください……ッ!?」
当然いきなり一撃を食らった友達はびくっ、と耳も尻尾も立てて背伸び。
余韻を残すように揺れた尻からしてやっぱりでかいんだなと思った。いや、何してんだこのメイド。
「……ここじゃこういう挨拶があるのか」
「はい、シズク様にはこれが良いのです。ご一緒にいかがですか?」
「違うよ!? どうしていつもボクのお尻を叩くのかな……!?」
「ご一緒にいかがですか?」
「なんで二度もすすめるんだよ正気か?」
……なんか「どうぞ」と目の前の尻をすすめられたが、シズクは顔赤いままに玄関へ進む。
逃げるように奥へ行くデカケ……狐フレンズを追いかけると「てけりり」と独特な言葉で見送られた。あれも妖怪なんだろうか。
「あの、さっきのは気にしないでね? ていうか、忘れてください……」
「いや……そういう文化でもあるのかと」
「そんなわけないからね!? ここの人達、ボクが来るといつもこうなんだ……」
「暇なんかあのメイドどもは」
小さな顔に赤らみと困りの表情を浮かべたお狐様はどんどん歩く。
さっきと一寸変わらぬ見た目のメイドが何人も見えたがもう慣れた。それよりも尻を狙ってるような構えなのが恐ろしい。
そういう妖怪なのかもしれない。そうやって逃げる狐の尻尾を追いかければ。
「魔女『梨是』様、ボクです。『朱色の妖狐』赤月シズク、ただいま参りました」
階段を登り、通路を辿り、たどり着いた一室の前でそう名乗りが出た。
いかにもと分かるような両開きの扉だ。無駄な装飾はないが、重たそうな二枚のつくりが何かがおられると主張してる。
中庭が見える窓に面したそこは恐らく大物がいるんだろう。こんこん、というノックの後……。
「――入れ。今わし対戦しとるから」
扉越しに女性的な声が聞こえた。正確には子供のものだが。
どこかシズクに似たそれを耳に扉が開けば、そこにいたのは。
「あ、どうもっす~。梨是様ゲーム中っすけどお二方お気になさらず~」
豪華なソファでスマホいじってるだらしない緑髪のメイドさんと。
「……ち゛っ、せっかく開発した第三都市を持ってきおってこのクソプレイヤー! もう知らんこんなクソゲーやらん!」
独特の色を発するゲーミングパソコンと、エナジードリンクの空き缶のカラフルさに彩られた机が一つ。
その前でゲーミングチェアに座った、だらしない格好も一つ。
裾が合わないだぼっとしたシャツととんがり帽子が目立つ変なガキが、画面上の戦略ゲーを諦めてごろごろ椅子でやってくる。
「あ、SIV7。ここってネット環境あるのか」
そして俺は反射的に反応してしまった。とうとうゲームと電気と回線まであるぞここ。
「なんじゃおぬし、ゲーマーかなんかか」
お高い椅子に搭乗した魔女モドキの見てくれはこっちに来た。
女の子――じゃなさそうだ。筋トレ民的な見解からすると、肩幅が少し男っぽい。
なのにとんがり帽子やそれっぽいしゅっとした顔つきは魔女なのだ。そこに見える小さな口はぎざぎざしており。
「あ、どうも。水鳥水深、24歳ニートです。好きなゲームは街づくりとFPS」
「みさごくん、もうちょっと自己紹介の仕方あるよね!?」
「シズクよ、なんだか珍妙なやつが紛れてると耳にしたが、もしやおぬしこんな変な奴拾ってきおったのか」
「外から来たお客様に珍妙とか言わないでくださいっ!?」
「久々に人間さん来たと思ったら濃いのがいらっしゃったようっすね~」
えらくものぐさなやつがそりゃもうひどい言いようをぶつけてきたが、そこへソファからも声が上がる。
つやつやな長い緑髪のお姉さんだ。胸は薄いし背も高いが気品のあるメイドの姿はあれど。
「あ、うちメイドのロアベルっす。こう見えて男っす」
スマホをぶんぶんしながら雑に挨拶してきた。男性アピールを申し訳程度に添えて。
「……え? 男?」
「ああ、儂も男じゃぞ。もしお主がロリコンだったとしたら残念じゃったなぁ? くひひ」
続けざまにもう一発、とんがり帽子の姿もだ。ギザ歯は意地悪に笑んでる。
どういうことだ。あまりにも目の前の情報が多すぎて混乱した。
この空間は男を偽る野郎どもだらけだ。これが妖怪なのか、人を偽るという点では間違いなく優秀だが。
「まあよい。おぬしみたいな人間が紛れ込んだことはとうの昔に知っとるぞ、ようこそ妖怪の里へ――儂は梨是、ここを司る魔女じゃ」
いまいち威厳のないだらしない姿のまま、自己紹介された。
「みさごくん、この方は妖怪の里の創始者だよ。くれぐれも失礼のないようにね……?」
しかしすごい人なのは確かなんだろう。シズクがこしょっと注意してくるほどだ。
俺はメイドさん(男)に導かれるままソファに腰を下ろすと。
「ああ分かった。じゃあさっそくですけどなんでこの部屋女性っぽい方で密度いっぱいなんでしょうか」
「……待ってみさごくん、さっそくどんな質問してるの!? あとそれボクも入ってるよね!?」
「近頃生まれる妖怪とはそんなもんじゃぞ、男女ともに美しくあるのがあやかしの理になっておる」
「近年は気づけばみんな美男子美少女まみれになってるんすよねえ、現代人のニーズにこたえたんじゃないんすかね?」
とりあえずこの野郎だらけの状況について尋ねたが、屋敷の二人は「これが普通」という答えだ。
妖怪の世界も大変そうだ。まあそれはともかく、西洋かぶれというか俗っぽいこの魔女はぐるりと椅子を回転させて。
「して、その様子からしてたまたまこの地に迷い込んだようじゃな? 不運というか幸運というか、妖怪の縄張りに足を踏み入れるとは何があったのやら。是非ともおぬしの身の上を聞きたいのう?」
くひひ、と笑いながら見えるギザ歯もろともそう問いかけてきた。
俺はシズクと顔を見合わせた。そんなタイミングでしれっと扉が開いて、真面目な方のメイドがお茶を持ってくるも。
「山で変なところ彷徨ってこいつが乱暴されてたんで犯人どついて助けてもらってます」
「ざっくばらんすぎるよキミ!?」
いろいろ考えた結果、分かりやすくするために濃縮した説明をした。
お茶をセットするメイドさんが少し困惑した様子で見てきた。シズクにもつっこまれたが精一杯の答えは届いたようだ。
「――お主説明へたくそすぎんか?」
「――すいませんめんどいのでつい」
一応伝わった、人の顔見て「なんだこいつ」と思われた表情だがこれでよし。
すると「まあ飲め」とすすめられたのでティーカップを取った。よくできたミルクティーの濃い味がした。
「ふむ……狼藉を働くものといえば山ほどおるが、そこの牝の気迫を漂わせる男を外でこそこそ襲うような愚か者といえば大体検討はつくものじゃな」
梨是様とやらは――代わりに机の方に手をくいくいしながら考え始める。
するとそこにあった缶がふわっと浮いた。そのままひとりでに、たぷたぷいいながら中身のあるエナドリがやってきた。
魔法だ。しかしやってることはダイナミックなものぐさだ。
「……キン君とクチバ君とコウ君です」
そこに、言いづらそうなシズクの物言いが挟まった、
次に見えたのはカフェイン決めながら「やはりか」と呆れる魔女で。
「そんな名前だったのかあいつら」
「最近揃いも揃って調子のっとるあの莫迦どもか。そうなるとあの粗暴な三人に会ったようじゃが、おぬしがいう「助けた」というのはどういうことかの。きゃつらは無駄に力だけはある脳みそ足りん集まりじゃぞ、ヒトなど容易く千切り殺すほどのな」
「物理でぶちのめしました」
「……」
犯人は分かったようだが、そいつらをどう始ま……片づけたのか聞かれたので、ありのまま答えた。
冗談はよせみたいな顔を浮かばされたが。
「……みさごく……この御方はボクを助けてくれたんです。その、彼らを素手でやっつけちゃいました」
シズクのおっとり綺麗な声も相まって信ぴょう性ができてしまった。
メイドが「わ~お」と茶化すように驚くぐらいだ。
「なんかこう、火とか氷とか飛ばしてきたので接近して一人ずつ確実に打撃でいきました」
更にもう一押し。手ぶり身振りでパンチとキックもあわせると、向こうは面白そうに受け取って。
「妖術を受けたというのに無傷か、大した人間じゃな」
「妖術ってなんですか魔女様」
「魔法といえばわかるか? ゲーマーなら理解しやすいじゃろ?
「魔法あったんかマジで……」
「まあおぬしがフィジカル強めなのは良く理解した。して、そやつらはどうした?」
「ボコって謝らせました。後はさっさと帰って野となれ山となれって感じで」
「ふむ、逃したのか」
魔法があるというびっくりが伝えられるも、その結末すら話すとなぜだか残念そうな顔をされる。
まるで「逃さず殺れ」みたいな雰囲気も感じるが、24歳無職とはいえ生きとし生けるものを筋肉で殺めるのはごめんこうむりたい。
「戦闘が長引いたらもうちょっとでもっとすごいやつお見舞いする予定でした」
「構わぬぞ。あやつらこそこそ悪事を働く厄介な連中じゃし」
「あ、あの……? 確かにひどいことはされましたけど、彼らは根はいい人なんです。ボクも許しましたし、ちゃんと謝罪もされたので……」
「シズクよ、おぬしはもう少し他人を疑い正しく感情を向けよ。無理に言い寄られなすがままにふらふら歩く罪は重いものじゃぞ」
「……は、はい……」
この一件が伝わり終えると梨是というのはシズクに強い口当たりをした。
狐の友達はしゅんとした様子で聞き入ってるが、この調子じゃまた同じことを繰り返しそうな様子だ。
「……なるほどなるほど、つまりお主はたまたま妖怪の敷地の深いところへ迷い込み、このケツのでかい牝男子が襲われる現場を目の当たりにしたんじゃな」
「はい、迷子ってたらこのケツのデカイお兄さんが襲われてたところに遭遇して喧嘩売られました」
「牝男子……!?」
「そしてあの三バカをぶちのめし、こうして現世へ帰る術を求めておる――そうじゃな?」
隣で背筋を正すケツのデカいシズクを交えて話すと、すぐに俺の欲しがる答えに行きつく。
その通り、俺は妖怪観察やふれあいをしたいんじゃなくて元の世界へ帰りたいんだ。
母さんは……まあ生きてるんじゃないのか?
「たまたま迷い込んで、しかも帰るにはそのたまたまをまた起こさないといけない、みたいに聞いたものでして」
「まあその通りじゃ、であれば話は容易い。さっさと帰り道を作ってやるかの」
するとどうだろう、あっけなく帰路ができた。
どういうものかはさておきこれで安心して帰れるわけだが。
「……ただし、今日は諦めたほうが賢明じゃろうな」
そこへ小さな魔女(男)は窓の外を見る。
二階から温泉街が見える。ちょうど日が暮れたところに街灯がオレンジ色を添えてる。
できれば今すぐにでも帰りたいところだけど、と思ったが
「そっすねえ、今現世戻ったら暗い森の中っすよ」
ああそうか、タイミングが悪いわけだな。
帰れたとして、どうも森の中に放り出されるらしい。
昼間でさえ薄暗かったんだからこんな空じゃ相当なものなはずだ。まあそれならどうにかして人里まで送れって話だが。
「こんなこといったらあれですけど、人がいっぱいる場所とかに送ってくれないんですか?」
「お主に話しても無駄じゃろうか手短に言うが、あくまでお主にこの里から出る術を与えるだけじゃ。そもそも勝手に押し入って誘われた身のくせしてアフターケアに期待するな」
言われたことは辛辣だ。まああんまり好ましくなさそうな部類の来客だろうけど。
「……まあ、馬鹿どもの迷惑料とそのケツのでかい男を助けてもらった礼じゃ。相応のもてなしの上、今晩はゆっくりとしていくがよい」
そういって、魔女はごろごろ机に戻っていった。
妖怪だらけの場所で一晩とまってけだとさ。なんてひどい冗談なんだ。
「……ここに泊ってけと?」
「心配はいらんぞ、別にとって食ったりはせん。それに良き案内役もいるようじゃし? その狐と共に明日まで適当に過ごすと良い」
最後にそいつはにたぁ、とギザ歯を見せてきた。
あとはぐるっとモニターに向き合うだけだ。今度は画面にうつる宇宙人どもと地球を守るために戦いを始めたらしい。
「――ということで"お二方"、今日のところはこの街でごゆっくりどうぞっす。今夜の寝床どうするっすか? 宿とか手配するっすけどシズク君のお家におとまりっすか? あっよかったらうちらと連絡先交換するっすよ」
そしてメイドもにやっと笑う。
なんだか含まれてそうなものだが、少なくともこうしてまだ生きてるんだから大丈夫だろう。
◇
お見えになったのはどんと突き出されたアンティークな家の身なりだ。
よくわからない植物と装飾が織りなす、とにかく温かい和のイメージを損なえるお屋敷だった。
「――いらっしゃいませ」
そんなところへ妙な姿がやって来る。
黒白のメイドだ。正確にはメイドどもだろう、見方によっては赤にも緑にも見える変わった髪色をしてる。
そんなのが一体二体とどこからともなく現れるのだが、どう見ても全員顔の作りが同じで。
「こんにちは、ショゴさん」
「こんにちは、シズク様。梨是様がお待ちしております」
「あっ、もう気づいてたんだ……。分かりました、すぐ行きますね?」
その上顔色一つ変えぬそんな無数の姿に「今日も元気ですね」とばかりに挨拶して、シズクは通り過ぎていく。
「いらっしゃいませ、人間様。妖怪の里を司りし梨是様があなたをお待ちしております、どうぞお進みください」
こっちにも一礼してきた。ざざっと一斉にメイドらしく持ち上がるスカートは、ある意味恐ろしい光景というか。
「あ、はい……」と恐る恐る進むと微動だにせぬメイドの規律が恐ろしい。
「――今日もデカケツですねシズク様」
――ぱぁんっ。
と思いきやいきなりその手がシズクの後ろをぶっ叩く。具体的に言えば、着物に浮かぶデカいケツに。
「んお……っ!?♡ ちょ、ちょっとやめてください……ッ!?」
当然いきなり一撃を食らった友達はびくっ、と耳も尻尾も立てて背伸び。
余韻を残すように揺れた尻からしてやっぱりでかいんだなと思った。いや、何してんだこのメイド。
「……ここじゃこういう挨拶があるのか」
「はい、シズク様にはこれが良いのです。ご一緒にいかがですか?」
「違うよ!? どうしていつもボクのお尻を叩くのかな……!?」
「ご一緒にいかがですか?」
「なんで二度もすすめるんだよ正気か?」
……なんか「どうぞ」と目の前の尻をすすめられたが、シズクは顔赤いままに玄関へ進む。
逃げるように奥へ行くデカケ……狐フレンズを追いかけると「てけりり」と独特な言葉で見送られた。あれも妖怪なんだろうか。
「あの、さっきのは気にしないでね? ていうか、忘れてください……」
「いや……そういう文化でもあるのかと」
「そんなわけないからね!? ここの人達、ボクが来るといつもこうなんだ……」
「暇なんかあのメイドどもは」
小さな顔に赤らみと困りの表情を浮かべたお狐様はどんどん歩く。
さっきと一寸変わらぬ見た目のメイドが何人も見えたがもう慣れた。それよりも尻を狙ってるような構えなのが恐ろしい。
そういう妖怪なのかもしれない。そうやって逃げる狐の尻尾を追いかければ。
「魔女『梨是』様、ボクです。『朱色の妖狐』赤月シズク、ただいま参りました」
階段を登り、通路を辿り、たどり着いた一室の前でそう名乗りが出た。
いかにもと分かるような両開きの扉だ。無駄な装飾はないが、重たそうな二枚のつくりが何かがおられると主張してる。
中庭が見える窓に面したそこは恐らく大物がいるんだろう。こんこん、というノックの後……。
「――入れ。今わし対戦しとるから」
扉越しに女性的な声が聞こえた。正確には子供のものだが。
どこかシズクに似たそれを耳に扉が開けば、そこにいたのは。
「あ、どうもっす~。梨是様ゲーム中っすけどお二方お気になさらず~」
豪華なソファでスマホいじってるだらしない緑髪のメイドさんと。
「……ち゛っ、せっかく開発した第三都市を持ってきおってこのクソプレイヤー! もう知らんこんなクソゲーやらん!」
独特の色を発するゲーミングパソコンと、エナジードリンクの空き缶のカラフルさに彩られた机が一つ。
その前でゲーミングチェアに座った、だらしない格好も一つ。
裾が合わないだぼっとしたシャツととんがり帽子が目立つ変なガキが、画面上の戦略ゲーを諦めてごろごろ椅子でやってくる。
「あ、SIV7。ここってネット環境あるのか」
そして俺は反射的に反応してしまった。とうとうゲームと電気と回線まであるぞここ。
「なんじゃおぬし、ゲーマーかなんかか」
お高い椅子に搭乗した魔女モドキの見てくれはこっちに来た。
女の子――じゃなさそうだ。筋トレ民的な見解からすると、肩幅が少し男っぽい。
なのにとんがり帽子やそれっぽいしゅっとした顔つきは魔女なのだ。そこに見える小さな口はぎざぎざしており。
「あ、どうも。水鳥水深、24歳ニートです。好きなゲームは街づくりとFPS」
「みさごくん、もうちょっと自己紹介の仕方あるよね!?」
「シズクよ、なんだか珍妙なやつが紛れてると耳にしたが、もしやおぬしこんな変な奴拾ってきおったのか」
「外から来たお客様に珍妙とか言わないでくださいっ!?」
「久々に人間さん来たと思ったら濃いのがいらっしゃったようっすね~」
えらくものぐさなやつがそりゃもうひどい言いようをぶつけてきたが、そこへソファからも声が上がる。
つやつやな長い緑髪のお姉さんだ。胸は薄いし背も高いが気品のあるメイドの姿はあれど。
「あ、うちメイドのロアベルっす。こう見えて男っす」
スマホをぶんぶんしながら雑に挨拶してきた。男性アピールを申し訳程度に添えて。
「……え? 男?」
「ああ、儂も男じゃぞ。もしお主がロリコンだったとしたら残念じゃったなぁ? くひひ」
続けざまにもう一発、とんがり帽子の姿もだ。ギザ歯は意地悪に笑んでる。
どういうことだ。あまりにも目の前の情報が多すぎて混乱した。
この空間は男を偽る野郎どもだらけだ。これが妖怪なのか、人を偽るという点では間違いなく優秀だが。
「まあよい。おぬしみたいな人間が紛れ込んだことはとうの昔に知っとるぞ、ようこそ妖怪の里へ――儂は梨是、ここを司る魔女じゃ」
いまいち威厳のないだらしない姿のまま、自己紹介された。
「みさごくん、この方は妖怪の里の創始者だよ。くれぐれも失礼のないようにね……?」
しかしすごい人なのは確かなんだろう。シズクがこしょっと注意してくるほどだ。
俺はメイドさん(男)に導かれるままソファに腰を下ろすと。
「ああ分かった。じゃあさっそくですけどなんでこの部屋女性っぽい方で密度いっぱいなんでしょうか」
「……待ってみさごくん、さっそくどんな質問してるの!? あとそれボクも入ってるよね!?」
「近頃生まれる妖怪とはそんなもんじゃぞ、男女ともに美しくあるのがあやかしの理になっておる」
「近年は気づけばみんな美男子美少女まみれになってるんすよねえ、現代人のニーズにこたえたんじゃないんすかね?」
とりあえずこの野郎だらけの状況について尋ねたが、屋敷の二人は「これが普通」という答えだ。
妖怪の世界も大変そうだ。まあそれはともかく、西洋かぶれというか俗っぽいこの魔女はぐるりと椅子を回転させて。
「して、その様子からしてたまたまこの地に迷い込んだようじゃな? 不運というか幸運というか、妖怪の縄張りに足を踏み入れるとは何があったのやら。是非ともおぬしの身の上を聞きたいのう?」
くひひ、と笑いながら見えるギザ歯もろともそう問いかけてきた。
俺はシズクと顔を見合わせた。そんなタイミングでしれっと扉が開いて、真面目な方のメイドがお茶を持ってくるも。
「山で変なところ彷徨ってこいつが乱暴されてたんで犯人どついて助けてもらってます」
「ざっくばらんすぎるよキミ!?」
いろいろ考えた結果、分かりやすくするために濃縮した説明をした。
お茶をセットするメイドさんが少し困惑した様子で見てきた。シズクにもつっこまれたが精一杯の答えは届いたようだ。
「――お主説明へたくそすぎんか?」
「――すいませんめんどいのでつい」
一応伝わった、人の顔見て「なんだこいつ」と思われた表情だがこれでよし。
すると「まあ飲め」とすすめられたのでティーカップを取った。よくできたミルクティーの濃い味がした。
「ふむ……狼藉を働くものといえば山ほどおるが、そこの牝の気迫を漂わせる男を外でこそこそ襲うような愚か者といえば大体検討はつくものじゃな」
梨是様とやらは――代わりに机の方に手をくいくいしながら考え始める。
するとそこにあった缶がふわっと浮いた。そのままひとりでに、たぷたぷいいながら中身のあるエナドリがやってきた。
魔法だ。しかしやってることはダイナミックなものぐさだ。
「……キン君とクチバ君とコウ君です」
そこに、言いづらそうなシズクの物言いが挟まった、
次に見えたのはカフェイン決めながら「やはりか」と呆れる魔女で。
「そんな名前だったのかあいつら」
「最近揃いも揃って調子のっとるあの莫迦どもか。そうなるとあの粗暴な三人に会ったようじゃが、おぬしがいう「助けた」というのはどういうことかの。きゃつらは無駄に力だけはある脳みそ足りん集まりじゃぞ、ヒトなど容易く千切り殺すほどのな」
「物理でぶちのめしました」
「……」
犯人は分かったようだが、そいつらをどう始ま……片づけたのか聞かれたので、ありのまま答えた。
冗談はよせみたいな顔を浮かばされたが。
「……みさごく……この御方はボクを助けてくれたんです。その、彼らを素手でやっつけちゃいました」
シズクのおっとり綺麗な声も相まって信ぴょう性ができてしまった。
メイドが「わ~お」と茶化すように驚くぐらいだ。
「なんかこう、火とか氷とか飛ばしてきたので接近して一人ずつ確実に打撃でいきました」
更にもう一押し。手ぶり身振りでパンチとキックもあわせると、向こうは面白そうに受け取って。
「妖術を受けたというのに無傷か、大した人間じゃな」
「妖術ってなんですか魔女様」
「魔法といえばわかるか? ゲーマーなら理解しやすいじゃろ?
「魔法あったんかマジで……」
「まあおぬしがフィジカル強めなのは良く理解した。して、そやつらはどうした?」
「ボコって謝らせました。後はさっさと帰って野となれ山となれって感じで」
「ふむ、逃したのか」
魔法があるというびっくりが伝えられるも、その結末すら話すとなぜだか残念そうな顔をされる。
まるで「逃さず殺れ」みたいな雰囲気も感じるが、24歳無職とはいえ生きとし生けるものを筋肉で殺めるのはごめんこうむりたい。
「戦闘が長引いたらもうちょっとでもっとすごいやつお見舞いする予定でした」
「構わぬぞ。あやつらこそこそ悪事を働く厄介な連中じゃし」
「あ、あの……? 確かにひどいことはされましたけど、彼らは根はいい人なんです。ボクも許しましたし、ちゃんと謝罪もされたので……」
「シズクよ、おぬしはもう少し他人を疑い正しく感情を向けよ。無理に言い寄られなすがままにふらふら歩く罪は重いものじゃぞ」
「……は、はい……」
この一件が伝わり終えると梨是というのはシズクに強い口当たりをした。
狐の友達はしゅんとした様子で聞き入ってるが、この調子じゃまた同じことを繰り返しそうな様子だ。
「……なるほどなるほど、つまりお主はたまたま妖怪の敷地の深いところへ迷い込み、このケツのでかい牝男子が襲われる現場を目の当たりにしたんじゃな」
「はい、迷子ってたらこのケツのデカイお兄さんが襲われてたところに遭遇して喧嘩売られました」
「牝男子……!?」
「そしてあの三バカをぶちのめし、こうして現世へ帰る術を求めておる――そうじゃな?」
隣で背筋を正すケツのデカいシズクを交えて話すと、すぐに俺の欲しがる答えに行きつく。
その通り、俺は妖怪観察やふれあいをしたいんじゃなくて元の世界へ帰りたいんだ。
母さんは……まあ生きてるんじゃないのか?
「たまたま迷い込んで、しかも帰るにはそのたまたまをまた起こさないといけない、みたいに聞いたものでして」
「まあその通りじゃ、であれば話は容易い。さっさと帰り道を作ってやるかの」
するとどうだろう、あっけなく帰路ができた。
どういうものかはさておきこれで安心して帰れるわけだが。
「……ただし、今日は諦めたほうが賢明じゃろうな」
そこへ小さな魔女(男)は窓の外を見る。
二階から温泉街が見える。ちょうど日が暮れたところに街灯がオレンジ色を添えてる。
できれば今すぐにでも帰りたいところだけど、と思ったが
「そっすねえ、今現世戻ったら暗い森の中っすよ」
ああそうか、タイミングが悪いわけだな。
帰れたとして、どうも森の中に放り出されるらしい。
昼間でさえ薄暗かったんだからこんな空じゃ相当なものなはずだ。まあそれならどうにかして人里まで送れって話だが。
「こんなこといったらあれですけど、人がいっぱいる場所とかに送ってくれないんですか?」
「お主に話しても無駄じゃろうか手短に言うが、あくまでお主にこの里から出る術を与えるだけじゃ。そもそも勝手に押し入って誘われた身のくせしてアフターケアに期待するな」
言われたことは辛辣だ。まああんまり好ましくなさそうな部類の来客だろうけど。
「……まあ、馬鹿どもの迷惑料とそのケツのでかい男を助けてもらった礼じゃ。相応のもてなしの上、今晩はゆっくりとしていくがよい」
そういって、魔女はごろごろ机に戻っていった。
妖怪だらけの場所で一晩とまってけだとさ。なんてひどい冗談なんだ。
「……ここに泊ってけと?」
「心配はいらんぞ、別にとって食ったりはせん。それに良き案内役もいるようじゃし? その狐と共に明日まで適当に過ごすと良い」
最後にそいつはにたぁ、とギザ歯を見せてきた。
あとはぐるっとモニターに向き合うだけだ。今度は画面にうつる宇宙人どもと地球を守るために戦いを始めたらしい。
「――ということで"お二方"、今日のところはこの街でごゆっくりどうぞっす。今夜の寝床どうするっすか? 宿とか手配するっすけどシズク君のお家におとまりっすか? あっよかったらうちらと連絡先交換するっすよ」
そしてメイドもにやっと笑う。
なんだか含まれてそうなものだが、少なくともこうしてまだ生きてるんだから大丈夫だろう。
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短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
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🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
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何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
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マジックキャンセラーxマッチョ=さいきょー(実弾摘めたらさらに)
淫靡な気配を感知しました、視聴します。
俺達がこの後の観測者だ!
第3の足に見えるデカブツついてそう
つまりフィジカルを駆使しつつ異能が効かなきゃ最強だ! 更にニンジャのような力とニンジャめいた掛け声とニンジャのごとき体幹とニンジャさながらの格好を聞けば君は最高の戦士になる! もう忍者でいいんじゃないかな
この世界の彼も、恐らくそういうキャラで生きていくでしょう そして見ている誰かさんもいるかもしれない
デカすぎぃ!!! あと更新遅れてすみません、めっっっちゃ修正しまくってました、マッテテネ
こっちがバレちまった!!!! じゃなくて、ファンタジー編がなんかこうアレなのですっごい直してます(ごめんなさい)
わいろでしぬまえに もとのぺーすでとうこうできるよう がんばってます
誤字という概念をくみ上げた神は死ぬべきだ オラッ磔刑だ!!!!!!!!
くそっ!!!!!バレた!!!!!!
聞いてください砂肝先生、ファミチキとバンズを条件に書いただけなんです!(あと性癖こじらせてるだけ)
どうかこっそりお読みくださいと心を籠めたらメイン作品ページで堂々と関連作品として出てくるのを今更知って大ダメージを受けました。ということでこっそり読んでください