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第8章 偽シンデレラの正体

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***

 バスルームに入ると、まず、洗面所の鏡の前に座るように言われた。
「ちゃんと毎日、ブラッシングしてた?」

 鏡のなかの玲伊さんがそう尋ねてくる。
 なんだかこの感じ、とても懐かしい気がする。
 
「うん、玲伊さんに言われたとおり、朝晩とシャンプーの前に」
 彼はブラシを手に取り、毛先からやさしくブラッシングを始めた。

「本当だな」
「わかるの?」
「ああ、ちゃんと手をかけているかいないか、手触りですぐわかる」
「さすがはカリスマ美容師」
「こら、ちゃかすな。よし、じゃあ立って」

 立ちあがると、彼はわたしの前に来て、ブラウスのボタンを外しはじめる。

「じ、自分でできるから」
 慌ててそう言うと、彼は軽くキスして声を落として囁く。

「俺にやらせてよ」

 困るのは、そのすべてが鏡に映っていることだ。
 恥ずかしさから身を隠そうと玲伊さんに抱きつくと、鏡の方にくるっと向きを変えられてしまった。

 後ろから服を乱してゆく玲伊さんの姿があまりにも煽情的で、思わず顔を逸らすと、すぐ顎を掴まれて、正面を向かせられる。

「ちゃんと見てて。俺に愛されてるときの優紀がどんな顔してるのか」
「そんなの……無理」

 そう言いながらも、目を閉じることができなかった。

 鏡に映る玲伊さんが、あまりにもエロティックで、あまりにも美しすぎて。


 あっという間にすべてのボタンが外され、露わになったブラジャーのホックを難なく外され、彼の両手がわたしの胸を包みこみ、揉みしだきながら首筋に唇を這わせてくる。

「やだ……恥ずかしいよ……ねえ、玲伊さん」
「だから……それは逆効果。煽ってるだけだって」
「そんなこと……言われても」

 もう一度、彼の方を向かされて、深く唇を奪われる。
 指で胸の先の敏感なところに触れながら。

「あ、あふっ……ん」

「やばいな。このまま押し倒しちゃいそうだ。まだ施術してないのに」
「だめ。こんなとこじゃ」
「じゃあ、どこならいいの?」
「もう」

 玲伊さんは片方だけ口角を上げ、バスタオルを取って、わたしを包みこんだ。
 
 浴室に入ったあとは、ちゃんと当初の目的を思い出してくれて、洗い場でシャンプーとトリートメントをしてくれた。

「どう? 気持ちいい?」
「うん……最高に気持ちいい」

 彼のシャンプーは本当に気持ちがいい。
 力加減が絶妙だし、洗いあがると頭皮まで生まれ変わったようにすっきりする。

「まあ、愛情をたっぷり込めてるからね、優紀にシャンプーするときは」
「いつもと違うの?」
「当たり前。仕事のときは、こんなに毎回丁寧にはできないよ」

 そんなふうに、自分だけ特別って言ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。

 そういえば、彼にシャンプーをしてもらうのは、はじめて愛を交わした日以来。
 ふと、あの日の記憶がよみがえり、また顔が火照ってくる。
 
「ヘッドマッサージはバスタブのなかでしようか」
 
 大きなジェットバスなので、二人ではいっても悠々と脚を伸ばすことができる。
 そして、今、わたしのヘッドレストは玲伊さん。
 彼に身を預けてされる頭皮マッサージは、至福を超えて、そのまま昇天してしまいそうになるほどの心地がする。

「優紀……」
 言葉をかけられ、上を向くと、彼の唇が降りてきた。
「施術のお礼、してくれる?」
「うん……」

 玲伊さんはわたしを自分の膝の上にのせて、目を閉じる。
 わたしは彼の首に腕を回して、自分から口づけた。

「俺がいつもしてるように、してみて」
 唇を合わせたまま、玲伊さんは言葉をこぼす。

 ちょっとためらいながらも、わたしは彼の開いた唇にそっと舌を差し入れる。

 でもそれ以上はとてもできなくて、入り口で舌を遊ばせていたら、逆に彼の舌にからめとられてしまった。

「れぃ……あァ……」
 ぞくっとした刺激が背筋を走り抜け、わたしは彼にしがみつく。

 ひとしきり口腔を弄ったあと、彼の唇はわたしの首筋から耳を彷徨し始める。

 そして、さっきまでわたしの頭を優しくマッサージしていた指先は、変わらぬ執拗なほどの丁寧さで、胸の尖端や脚の狭間を同時に弄りだした。

「や、やぁ……あ、あん、い……や」
 わたしはこぼれ出る声を抑えることはできない。

「ここだと声が響いて、うん、たまらない……よ」
「も……お、玲伊さん。お願い。そんなこと言わないで」

 彼は真っ赤になって俯くわたしを立たせてから、自分も立ちあがった。

「……続きは部屋でしようか。このままだと、のぼせてしまいそうだしね」

 そう言う彼の声も、劣情にかすれていた。
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