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物語
三話
しおりを挟む実家の周辺は、建物が少なく、どちらかと言えば、田舎寄りだと思う。
学校からここまで、電車に乗って二十分程度の距離なのに、こうも違うものか、と。何となく。
「・・・」
美智留、どうしてんだろ。
とか、別に、親しくなった訳でもないのに、思ったりしながら、実家のリビングのソファーに凭れ掛かりながら、テレビのチャンネルを回す。
夕方の今頃は、主に、ドラマの再放送か、今日のニュース番組で、いっぱいだ。
ドラマは、正直、あまり興味が無いので、別に、楽しくも無いニュース番組を流し見しながら、世の情報を共有するだけ。
「・・・」
この近辺にも、友達が居ない。
父も、まだ仕事の時間で。
母は、多分、誰かと遊びにでも行っているのだろうに。
退屈が、いつになっても拭えない。
だから、また、携帯を開いて、通話アプリに目を通し、“友達3”の文字を見る。
内訳は、簡単。母、父、兄。の、三だ。
「・・・。」
こんなに、友達が居ない人なんて、他に居るのだろうかとすら、思うけれど。
仕方ないのだ。俺だから。それ以外に、言い様が無い。
だから、また。面倒臭いだろうな、って、分かってはいるんだけれど。
『・・・、もしもし?』
「暇なんだけど」
『あのね、俺、今。滝川と遊んでるんだよ?』
「・・・うん」
『今日は帰るから、それまで待っててくれないかな?』
「え、帰ってくるの?」
『帰る』
「分かった。待ってる」
『うん。そう。待っててね?じゃ』
「・・・うん」
兄が、今日は、お泊り無しで、帰ってくる、って。
「・・・、♪」
おかげで、俺の口元は、微笑みを浮かべた。
唯一、俺が、何の警戒も無しに話せるのが、兄だけだから。
その兄が、滝川とか言う奴を放って、俺の相手をしてくれる事が、ちょっと嬉しい。
別に邪魔したい訳じゃないけど、俺と遊んでくれる人は、兄しか居ないから、そう思うのも、仕方が無いのでは、とか。
「・・・」
何だか、溜め息も出る。
これで良いのか、とも、思うから。
もう言ってしまえば、“俺が邪魔しなければ”兄は、今日も、滝川と遊んでいただろうに。
兄は、きっと、滝川と遊ぶ事を優先したかったに違いない。
「・・・」
俺のせいか。
「・・・はぁ」
しんど。
「・・・」
美智留と、もし、もっと距離が縮まれば、俺も、兄を思って、“俺はもう大丈夫だから、自由に友達と遊んできて良いよ”って、伝えられると言うのに。
今は、まだ、甘えていたい。だって、俺の傍には、誰も居ないから。だから。
「・・・、」
ガチャリ。玄関の扉が開けられる音がした。
あぁ、兄が帰ってきたんだ。
・・・やった!!
俺は、ソファーから立ち上がり、少々急ぎ気味に、リビングの扉を開けて、玄関に目をやった。
「・・・おかえ、」
り。
「ごめんね、俺の家の方が、学校から離れてるのに」
「いや、良い。気にしなくて」
「・・・ありがと、滝川。滝川なら、そう言ってくれると思ったよ」
・・・・・・なんか、連れてきたんだけど。
「ただいま、歩人。ちゃんと帰ってきたよ」
「・・・・・・、うん」
「お母さん、今日遅くなるんだって。適当に食べててって言ってなかった?」
「・・・、あ、そうなの。何も聞いてない」
「えぇ・・・、何で。・・・俺に言えば伝わるって思ったのかな」
「・・・・・・」
すんごく、だるい。
困ったように首を傾げる兄の背中の方に、なんか妙にデカイ図体をした生真面目そうなそして喋りにくそうな謎の男が居るんだけど。
始めて見たけど、こいつ、本当に大丈夫な人なの?
「・・・」
めっちゃ無表情で、俺の方を見てんだけど。
「・・・。」
だから俺も睨み返すけど。
「・・・、歩人。目付き悪いよ」
じゃあ兄に指摘されたんだけど。
「・・・。まぁ、上がったら?」
なので仕方なく、そう声を掛けた。
「悪いな、邪魔だったか?」
じゃあ、すんごい上から目線をして、そんな事を言いやがる。
「・・・、面倒臭。何なの?」
「、コラ。」
「だって俺、上がって良いって言ったよね。?」
「お前の目付きだよ。滝川は、良い奴なんだから、そんな警戒しなくても」
「だから、上がって良いって言ったじゃん。」
「、なんか怒ってるじゃん今も。何で?」
「俺と滝川は友達じゃないからじゃない。?」
「、呼び捨て?“滝川さん”でしょ?失礼だよ。」
兄は、いつも通り、俺をそうやって沈静させる。
その言葉は、案外、胸に沁みる。聞きやすいと言うか、そうだね、ってなると言うか。
「ほんとごめんね、滝川。俺の弟、悪い奴じゃないんだけど、警戒心が強くて」
「そのようだな。まあ、突然現れた男にそう言うなら、お前も安心じゃないか?」
「、そんな事ないよ、大変だよ、」
「はは。良い弟だな」
「、そう言ってくれるのも、滝川だけだよ」
良い、弟か。
「・・・。」
別に気を許した訳ではないけど、兄の友達な訳だから、案外、悪い奴ではないのかも、とか思ったり・・・。
「・・・。好きに寛いだら良いよ、俺テレビ見てるから」
相変わらず、慣れ親しむような声は出せなかったけれど、取り敢えず、俺はさっきの位置に戻った。
そうすれば、兄は、滝川を連れて、そのリビング内に入り込み、俺が陣取っているソファーの後ろに置かれているダイニングチェアに、その滝川と隣同士で腰掛ける。
「あ、お金置いてある。・・・一万円、食べに行けって事なのかな」
俺は、気が付かなかった。
けど、そうだとしたら、滝川は?
飯、無いじゃん。
「行けないでしょ、今日は」
「・・・。行けない事は無いけど、満足には食べられないかもね」
「・・・、なんか作ったら」
「俺が?」
「理恩が」
「・・・・・・、滝川、何か作れる?」
「俺?」
「うん」
「んー、オムライスなら」
「流石、滝川!」
流石、滝川。
・・・、じゃねーだろ。
「・・・。」
何で俺が、滝川お手製のオムライスを食べなきゃなんだよ。
今日、初めて、顔を合わせたばっかなのに。
「・・・。」
かと言って、俺も飯は、卵焼きぐらいしか作れないし。
滝川の分も出せるなら、絶対、食べに行く方が良いじゃん。
中華料理店とか、ファミレスとかなら、一万円あったら足りるだろ。
「面倒臭くない?滝川“さん”」
遠まわしに、お前の手料理は、まだ早い。
そう伝えたつもりだったが、・・・。
「いや、良い。俺が作れるんだから、この一万円は、親に返した方が良いだろう?」
なんて良い奴なんだ、お前は。
普通、“面倒臭いわ。食いに良くか!”だろ。
「・・・」
確かに、こう言う風に、家族の金銭面の事まで考えてくれる奴なら、兄が大切にする理由も分かる。
兄が言う通り、警戒心MAXで接していたけれど、何だか、それも悪い気もしてきた。
「じゃあ、作って」
俺が言って良い言葉なのかは、謎だけど。
返事としては、これが良いのでは?とも思うけど。
「・・・、お前が言うのねー・・・」
兄は、そう、俺の言葉に突っ込んで、
「はは、うん。作るよ」
滝川は、そう、優しく笑った。
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