愛人オメガは運命の恋に拾われる

リミル

文字の大きさ
18 / 49
【3章】La・Ruche

ごめんね

しおりを挟む
「ユキくんとは、波長レベルで合わないんだろうね……。何だか悲しいよ」

宇野木が転がっている小物を拾い集めながら、溜め息を吐いた。千歳も手伝おうとすると、膝の上のユキがいやいやと駄々をこねる。

「ちーはユキと遊ぶのっ!」
「お片付けが終わってからね。ユキくんもお手伝いしてくれる?」
「やあだあぁー! ちー、遊ぼ!」

宇野木は「いいよいいよ」と千歳に言うが、それではいけないような気がした。ユキを隣へ座らせると、千歳はペリドットの瞳をじっと見つめる。

「ユキくんはどうして暴れたり、散らかしたりしたの?」
「……う。えっと……」

千歳の甘やかなチョコレート色の瞳から逃れるように、ユキは下を向いた。

「ユキくんは賢いからちゃんと言葉で話せるよね? 暴れたら宇野木さんを困らせちゃうし、いけないことだと思うんだ。どうしてこんなになるまで散らかしたの?」

ユキはすんすんと静かに泣き始める。ユキの小さな手を、千歳は両手で包み込むようにした。言いたくないのではなくて、どう言えばいいのか分からないのだと、千歳は悟った。ユキは「あ……」や「えっと」など、意味のない単語を喉に詰まらせている。「どうして」という広義的な質問が答えにくいのだと考え、千歳は言葉を変えた。

「ユキくんは暴れたり散らかしたりしたかったの?」
「ううん……したくない」

しゃくりあげていたユキは落ち着きを取り戻していく。

「したくないけど……わかんないの。レグとちーがいなくなって、おいてかれたと思ったの」

寂しそうに話すユキの瞳からは、大粒の雨のような涙がひっきりなしに流れる。あんな男のくだらない話のために、ユキを置いていった自分が情けなくなった。「ごめんなさい」とか細い声で繰り返すユキに、千歳も「ごめんね」と謝った。

「ちー、ごめんなさい……。ユキのお世話、ずっとしてくれる? シッターさんやめないよね?」
「えっ……う、うん」

──でも、ユキくんには僕じゃなくて、お母さんがいる……。

以前、レグルシュに言われた「まるで親気取りだな」という言葉が、胸を締めつける。あのときは的外れな指摘だと思ったのに。ユキにシッターの仕事以上の情が湧いてしまっている。認めるしかなかった。

一人ぼっちでどこか寂寥感を称えた瞳を初めて見たとき、この子を守りたいと思った。昨日まで無償の愛を注いでくれた両親はもういないことに、絶望した自分のようにならないで、と。

「ユキ、いい子にする。もう散らかしたりしないから、ちー、ずっといて……おねがいだ」
「うん……大丈夫だよ」

千歳の返事に迷いがあると、ユキは見抜いているのだろう。ユキは涙をごしごしと拭うと、何度も踏まれてぐちゃぐちゃになったドライフラワーの残骸を拾い集めた。

「ちゃんとお片付けもする。ピーマンも……食べるから」
「……ユキくん」

親でも何でもないのに、ユキの成長を心待ちにしている自分がいる。すでに片付けを始めていた宇野木は、眼鏡を外してユキ以上に泣いていた。

「いいよね……なんか。ユキくんも偉いし、和泉さんも本当の親みたいで」

しみじみ呟く宇野木の声を、ドアの開閉の音が遮った。さきほど街で見かけたときと同じ服装のレグルシュが、帰ってきた。ユキが散らかしたリビングを見回して、「何だこれは」と三人に言葉を投げた。

「ど……ドラゴンだっ!」

レグルシュの機嫌が急降下したことを察し、ユキは千歳の後ろへ隠れる。雑貨屋を経営しているだけあり、インテリアにも拘りがあるようで、ドライな性格に似合わず、部屋は綺麗で明るい。それがこの有様だ。

「お前。また散らかしたんだな。柚弦がついていてどうしてこうなる? 俺はあれほど言ったよな。二度と暴れ回るなと」
「レグがドラゴンになった……!」
「はあ? くだらない言い訳をするな」

レグルシュは深い溜め息を溢すと、宇野木と一緒になって壊れたものを片っ端からゴミ袋に入れていく。千歳に約束した通り、ユキも大人達を手伝おうとする。

「危ないから別の部屋に行け」
「ユキも手伝う……」
「……手伝う? お前がそんなに素直だなんて、今から隕石でも降ってきそうだな」

嫌味ったらしく言うレグルシュを、宇野木は「まあまあ」と宥めた。

「ユキくんに意地悪しないであげて。これからはいい子にするって、和泉さんと約束したみたいだよ」
「信じられない」

片付けを終わらせ、夕飯はピザを四人前とった。宇野木はそのまま家に残り、千歳の代わりにユキの面倒を見ると言った。

「バイトもお休みをいただいているのに、シッターの仕事まで……」
「バイトはもともとシフトがなかったでしょ。掛け持ちで大変なんだから、オフの日つくったほうがいいよ。今日は和泉さんを休ませてあげよう! ねー、ユキくん?」

ユキは宇野木の隣で、借りてきた猫みたいに大人しくしている。

「ちいいぃ……」

千歳の足にひしと抱きつくユキは、悲しげに名前を呼ぶ。宇野木は「何だか俺が悪者みたいだね」と苦笑して、ユキを寝室に連れて行こうとする。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

処理中です...