あり余る嘘と空白

リミル

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対面1

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これほど落ち着かず焦りを微塵も隠さない瑛智を目にするのは、包海家に来て以来初めてのことだった。冷静で何事も動じない、毅然とした態度で接する瑛智は、典型的な思想を持つアルファの1人だ。瑛智の業務については、立花は何1つ知らされていなかった。立花と寝た客は大きな情報をふらっと漏らすときがあり、それらを集めてくるのも立花の仕事だった。逆に立花を買うのが目的ではなくて、瑛智の仕事について聞き出そうとする者も中にはいた。

立花が裏切ることも予期して、慎重な性格の瑛智は秘密裏に大学病院との共同プロジェクトを押し進めているつもりだった。

涼風の握っている情報は、立花の無事と引き換えだ。何日か振りに服を着せられて、瑛智とともに応接間へと向かう。着いていくための足取りも、身に纏っている服も重い。

──涼風さんは……どうして。

探し出して来てくれて、本当はそれを喜ぶべきなのだろう。でも、一抹の不安がどうしても拭えない。この扉の先に涼風がいることは疑いようのない事実だ。廊下に立花のよく知る、甘く脳を痺れさせるような安心する匂いが残っている。特別嗅覚が鋭い訳でもないし、好みの匂いがある訳でもないが、涼風の匂いは初見で気に入って覚えていた。

「涼風さんっ……」

「立花君っ。無事でよかった……」

この香りにずっと包まれていたい。立花の安否が分かり、涼風はほっとしたような顔を見せたが、痩せた頬と身体を見て表情を曇らせた。

「申し遅れましたな。包海 瑛智だ。何せ知り合いしか登録していないほうに着信が入ったものだから、驚いてしまってね。不躾な態度を取ってしまった」

瑛智は事実を述べるだけで、謝罪は一切口にしなかった。涼風も続けて、軽く頭を下げる。

「いえ。こちらが勝手に調べあげただけですから。立花君の職場で院生をしている、涼風 郁と言います」

調べあげた、という言葉のニュアンスに、瑛智は怪訝そうに涼風を見た。ただの出任せではないと、涼風の自信に満ち足りた目が物語っている。決して主導権を握られることのないように、瑛智は慎重に言葉を選んでいく。

「立花が世話になっているね。ところで、携帯の番号は誰から聞いたものだろうか。私への連絡は普段、取り次いでもらうことになっていてね」

「ええ、だから、調べました。番号もこの場所の住所も、あなたが立花君を利用して会社の資金繰りをしていることも。俺は全て知っています」

──調べたって……僕が身体を売っていることも?

途端に身体が震え出す。1番知られたくなかった真実に、涼風は辿り着いてしまった。自分の意思じゃない。涼風にそう伝えたかったが、立花の気持ちがどうであろうと他の男に抱かれていたという事実は変えられない。対して、追い詰められているはずの瑛智は、合点がいったようでわざとらしく豪快に声を上げて笑った。

「それはそれは……申し訳なかった。涼風さんも加わりたいと……そういうことだね。立花は見ての通り、誰とも番っていないフリーのオメガだ。値は少々張るが、傷をつけるような行為さえしなければ、後は好きにしてもいい。200万でどうだ?」

具体的な値段を示して、瑛智はにたにたと意地の悪い笑みを浮かべている。自身につけられている値段を初めて知った立花は、怒りと羞恥で唇を噛み締めた。項はまっさらな状態で病気を持っていない、見目のいいオメガに相場以上の大金をつぎ込む客は、オメガの数より沢山存在する。

「立花君はそんなことを望んでいない。俺は今日、立花君を引き取りに来たんです」

「話が通じないらしい。立花は私のものだ。立花も私に拾ってもらえて感謝しているだろうよ。アルファと同じいい暮らしをさせているのだからね」

「そうだろう?」と瑛智が続ける。逃げ出したい、やめたい、もう客相手に足を開きたくない。泣き言を漏らす度に折檻されては、逃げ道を塞ぐように言いくるめられてきた。パートナーや親に捨てられたり、仕事に就けなくて明日を生きられないオメガは立花の思い描く以上にいる。それに比べれば、アルファに抱かれる役目を持つ立花は恵まれているのだと、そう言い聞かされてきた。行く宛てのなかった自分を救ってくれた瑛智に、いつか違う形で恩を返したいと思っていたのに。

「違う……僕は、ずっと嫌だった。好きでもない相手と、なんて」

「嫌だと? おかしなことを言うね。立花も楽しんでいただろう。私も見ていたから知っているさ」

そうなるように薬を入れられていたからだ。オメガの身体はセックスの快楽を求めるようには出来ていても、決して心地のよいものだとは感じなかった。
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