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第二章
16. ミッション⑤
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夕焼けに染まる空の下で、手を繋いで並んで歩く。やがて人通りが多くなり始めたかと思えば、屋台の提灯の灯りが見えてきた。
今夜の作戦は、二人で夏定番のイベントに参加し、盛り上がったところで早川の気持ちを確かめようと考えている。
(今日こそ『好き』って言わせてやるぜ!)
心の中でそう意気込んだ後、早川と繋いでいた手を離した。
「なぁ、どの屋台からいく?」
つい緊張で裏返りそうになる声を抑えつつ、平静を装って早川を見上げる。
彼は少し考える素振りをした後、なぜか突然ずんずんと歩き出した。
「早川さん!?」
慌ててその後を追えば、早川が足を止めたのはヨーヨーの屋台だった。
「まずは、祭りの定番ヨーヨーすくいからでしょう。蒼大くん何色がいい?」
「え!? えっと、じゃあ……青。早川さんは?」
「僕は赤かな」
「あ、俺の前にあるじゃん。とってやるよ」
急な提案に少し面食らったが、色とりどりのヨーヨーを見ていると自然と気分が高揚する。俺は意気込んで青を取ろうとしたが、これが思いの外難しかった。
「わ、あれれ……」
針で輪を引っ掛けようとすると、水にコヨリの部分が触れてしまい、あっという間に釣り糸は切れてしまった。
その隣で、早川はひょいっと簡単に赤い水風船を掬い上げると俺に差し出してきた。
「おや、ヨーヨー掬いは僕の勝ちだね」
いつの間に勝負になっていたんだ。
わざらしく首を傾げながら、得意そうに輝くヘーゼルの瞳が少し憎らしい。
俺は、ヤケになって次の屋台を指さした。
「……次あれな!」
次は、鉄砲の的当てだった。
「早川さん、お先にどうぞ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
颯爽と鉄砲を構える長身は、とても様になっている。近くにいた女性客や、隣の屋台のおばちゃん達が途端に色めき立った。
途端に、なんだか胸の辺りがモヤモヤする。
しかし、普段から注目されなれてる早川はそんなことは気にならないらしい。
涼やかな横顔を眺めているうちに、パンッ!と銃声を五回響き終わった。
「よし……、こんなものかな」
そう言って、これまた素敵な笑顔で早川は振り返った。俺は、たまらずツッコむ。
「いや、全部外れてんじゃん!」
「あは、こういうのは苦手なんだよねぇ」
結局、俺がゲットしたお菓子を二人で半分こすることになったのは、言うまでもない。
屋台の通りから少し外れ、二人並んでスナック菓子を口に放り込む。
「今度は俺の勝ちだな!」
「うん。参りました」
「なぁなぁ。次、何の勝負する?」
「うーん……、ふふっ」
先程までは大人気なかった筈の早川は悔しがることもなく笑っていた。そんな彼に、今度は俺が首を傾げる番だった。
「なに?」
「いや……」
早川は何やら嬉しそうに微笑むと、満足そうに言った。
「やっと笑ったなぁと思って」
その言葉にハッとする。
俺が何とも言えずに黙り込んでしまうと、早川は手荷物を入れていた巾着から何かを取り出し、差し出してきた。
それは、赤いリボンでラッピングされた小さな包みだった。
「はい。そんな笑顔が素敵な君に、おまけのプレゼント」
「ふは! 笑顔が素敵って何!?」
「いいから。開けてみてよ」
擽ったくなるような視線を感じながら、なるべく丁寧にリボンを解く。
すると、中から出てきたのは小瓶に入ったハンドクリームだった。
「わぁ……、綺麗だ」
屋台や提灯の灯りに照らされた小瓶は、手のひらの中できらきらと輝いていた。
「いつも家事を頑張ってくれるお礼だよ」
彼の言葉が、胸にじんわりと広がる。
思いがけないプレゼントに声を詰まらせていると、早川は瓶の蓋をあけ、長い指先でクリームを一掬いする。
どうするのかと目で追えば、俺のささくれのある手に優しく塗ってくれた。
蜂蜜の香りが、鼻を掠める。
「元気でた?」
「……ありがとう。大切に使うな」
今度こそしっかりとお礼を言いながら、俺は反省した。
(そうだ。緊張しすぎて、早川さんに心配かけてたらミッションの意味ないよな)
「ほら、行こうか」
その誘いに、素直に頷く。
(せっかく二人でお祭りにきてるんだから。ちゃんと、楽しもう)
手から漂う甘い蜂蜜の香りは、俺達の幸せをたっぷりと詰め込んでいるかのように思えたんだ。
今夜の作戦は、二人で夏定番のイベントに参加し、盛り上がったところで早川の気持ちを確かめようと考えている。
(今日こそ『好き』って言わせてやるぜ!)
心の中でそう意気込んだ後、早川と繋いでいた手を離した。
「なぁ、どの屋台からいく?」
つい緊張で裏返りそうになる声を抑えつつ、平静を装って早川を見上げる。
彼は少し考える素振りをした後、なぜか突然ずんずんと歩き出した。
「早川さん!?」
慌ててその後を追えば、早川が足を止めたのはヨーヨーの屋台だった。
「まずは、祭りの定番ヨーヨーすくいからでしょう。蒼大くん何色がいい?」
「え!? えっと、じゃあ……青。早川さんは?」
「僕は赤かな」
「あ、俺の前にあるじゃん。とってやるよ」
急な提案に少し面食らったが、色とりどりのヨーヨーを見ていると自然と気分が高揚する。俺は意気込んで青を取ろうとしたが、これが思いの外難しかった。
「わ、あれれ……」
針で輪を引っ掛けようとすると、水にコヨリの部分が触れてしまい、あっという間に釣り糸は切れてしまった。
その隣で、早川はひょいっと簡単に赤い水風船を掬い上げると俺に差し出してきた。
「おや、ヨーヨー掬いは僕の勝ちだね」
いつの間に勝負になっていたんだ。
わざらしく首を傾げながら、得意そうに輝くヘーゼルの瞳が少し憎らしい。
俺は、ヤケになって次の屋台を指さした。
「……次あれな!」
次は、鉄砲の的当てだった。
「早川さん、お先にどうぞ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
颯爽と鉄砲を構える長身は、とても様になっている。近くにいた女性客や、隣の屋台のおばちゃん達が途端に色めき立った。
途端に、なんだか胸の辺りがモヤモヤする。
しかし、普段から注目されなれてる早川はそんなことは気にならないらしい。
涼やかな横顔を眺めているうちに、パンッ!と銃声を五回響き終わった。
「よし……、こんなものかな」
そう言って、これまた素敵な笑顔で早川は振り返った。俺は、たまらずツッコむ。
「いや、全部外れてんじゃん!」
「あは、こういうのは苦手なんだよねぇ」
結局、俺がゲットしたお菓子を二人で半分こすることになったのは、言うまでもない。
屋台の通りから少し外れ、二人並んでスナック菓子を口に放り込む。
「今度は俺の勝ちだな!」
「うん。参りました」
「なぁなぁ。次、何の勝負する?」
「うーん……、ふふっ」
先程までは大人気なかった筈の早川は悔しがることもなく笑っていた。そんな彼に、今度は俺が首を傾げる番だった。
「なに?」
「いや……」
早川は何やら嬉しそうに微笑むと、満足そうに言った。
「やっと笑ったなぁと思って」
その言葉にハッとする。
俺が何とも言えずに黙り込んでしまうと、早川は手荷物を入れていた巾着から何かを取り出し、差し出してきた。
それは、赤いリボンでラッピングされた小さな包みだった。
「はい。そんな笑顔が素敵な君に、おまけのプレゼント」
「ふは! 笑顔が素敵って何!?」
「いいから。開けてみてよ」
擽ったくなるような視線を感じながら、なるべく丁寧にリボンを解く。
すると、中から出てきたのは小瓶に入ったハンドクリームだった。
「わぁ……、綺麗だ」
屋台や提灯の灯りに照らされた小瓶は、手のひらの中できらきらと輝いていた。
「いつも家事を頑張ってくれるお礼だよ」
彼の言葉が、胸にじんわりと広がる。
思いがけないプレゼントに声を詰まらせていると、早川は瓶の蓋をあけ、長い指先でクリームを一掬いする。
どうするのかと目で追えば、俺のささくれのある手に優しく塗ってくれた。
蜂蜜の香りが、鼻を掠める。
「元気でた?」
「……ありがとう。大切に使うな」
今度こそしっかりとお礼を言いながら、俺は反省した。
(そうだ。緊張しすぎて、早川さんに心配かけてたらミッションの意味ないよな)
「ほら、行こうか」
その誘いに、素直に頷く。
(せっかく二人でお祭りにきてるんだから。ちゃんと、楽しもう)
手から漂う甘い蜂蜜の香りは、俺達の幸せをたっぷりと詰め込んでいるかのように思えたんだ。
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