3 / 91
第一章
2. 出会い
しおりを挟む
夕日が憎たらしい程眩しい。
寂れた公園のベンチに腰掛け、俺は一人項垂れていた。
結局、公衆電話から父親のスマホにかけた電話は繋がることはなかった。
途方に暮れて、ベンチで頭を抱え蹲る。
「……これからどこに住めばいいんだよっ」
パーカーの裾を握りしめ、そう低く吐き捨てた時だった。
「ねぇ、君。どうしたの?」
突然、頭上から柔らかな男の声が降りてきた。
何かの勧誘かと思い、顔も上げずに無視を決め込む。けれど、その声はしつこかった。
「あれ?聞こえてないのかな。おーい」
目の前にソイツがしゃがむような気配までして、とうとう折れるしかなかった。
「……うっせぇな。聞こえてる」
俯いたまま小さく呟き返せば、その声は少し弾むように明るくなった。
「君、ちゅ……高校生?何か困ってるの?」
「ちゅ?高校生じゃねぇ。別に困ってない」
「そっか。でも、『これからどこに住めば~』って言ってたよね?さっき」
その言葉に、丸めた肩が揺れる。
「話、聞こうか?」
それは、酷く優しい響きを含んでいた。
そんな声のせいだろうか。
(もう、どうにでもなれ……)
気がつけば、半ばヤケになりながら身の上と今日の出来事を話していた。
そして、全てを話し終えた時。
目の前の男が言ったのだ。
「絵のモデルになってくれない?」
そこで、ようやく顔を上げた俺は驚いた。だって、目の前に王子様がいたから。
王子様は、上質そうなチェスターコートやスラックスが汚れることも厭わず、目の前の地面に膝をついていた。こちらを微笑みながら覗き込むその顔は、恐ろしく均等がとれていて美しい。
きっとその流暢な日本語と目の下の酷い隈さえなければ、背の高さも相まって海外のモデルか何かと勘違いしていたことだろう。
「だからさ、うちにおいでよ」
優しい囁きに、目頭が熱くなりそうなのを何とか耐えた。
言葉を詰まらせると、彼は俺の隣へと腰掛ける。
「僕の名前はねー……」
そう言いながら、細い木の枝を拾って地面へ文字を書き出した。
「早川 悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ」
そんな自己紹介がなんだか可笑しくて、思わず吹き出す。その枝を受け取り、俺も地面に名前を書いた。
「間宮 蒼大?いい名前だね」
「うん。早川さんもいい名前じゃん。俺が好きな漫画家さんと一緒」
言ってしまってから慌てて口を塞いだ。
なぜなら、それが有名とはいえ少女漫画家の名前だったからだ。昔同じことを言って友達に馬鹿にされた苦い思い出が蘇る。
チラリと隣を見れば、やはり彼も驚いたように目を丸くしていた。
「君、早川悠介知ってるの?あんなの絵が綺麗なだけの少女漫画家なのに」
その言葉に、少しカチンときた。
確かに少女漫画家だが、彼の作品はどれもヒットし、次々に実写化され一世を風靡したのだ。まぁ、俺が中学生の頃の話だが。
「んなことねぇよ。馬鹿にすんな」
精一杯の睨みをきかせて言い放つ。
「絵も綺麗だけどさ、あの人のアクションシーンがカッケェから好きなんだよ」
文句あるかコラ、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
すると、目の前の男は口を左手で覆いながら、肩を震わせて笑っていた。
「そうなんだ……。嬉しいよ、間宮くん」
「はぁ?なんであんたが喜んでんだよ」
「初めまして」
さらに眉間に皺をよせれば、挨拶と共に右手を差し出される。
「僕が、その早川悠介だよ」
そんな、嘘みたいな本当の話が、俺と早川さんの出会いだった。
寂れた公園のベンチに腰掛け、俺は一人項垂れていた。
結局、公衆電話から父親のスマホにかけた電話は繋がることはなかった。
途方に暮れて、ベンチで頭を抱え蹲る。
「……これからどこに住めばいいんだよっ」
パーカーの裾を握りしめ、そう低く吐き捨てた時だった。
「ねぇ、君。どうしたの?」
突然、頭上から柔らかな男の声が降りてきた。
何かの勧誘かと思い、顔も上げずに無視を決め込む。けれど、その声はしつこかった。
「あれ?聞こえてないのかな。おーい」
目の前にソイツがしゃがむような気配までして、とうとう折れるしかなかった。
「……うっせぇな。聞こえてる」
俯いたまま小さく呟き返せば、その声は少し弾むように明るくなった。
「君、ちゅ……高校生?何か困ってるの?」
「ちゅ?高校生じゃねぇ。別に困ってない」
「そっか。でも、『これからどこに住めば~』って言ってたよね?さっき」
その言葉に、丸めた肩が揺れる。
「話、聞こうか?」
それは、酷く優しい響きを含んでいた。
そんな声のせいだろうか。
(もう、どうにでもなれ……)
気がつけば、半ばヤケになりながら身の上と今日の出来事を話していた。
そして、全てを話し終えた時。
目の前の男が言ったのだ。
「絵のモデルになってくれない?」
そこで、ようやく顔を上げた俺は驚いた。だって、目の前に王子様がいたから。
王子様は、上質そうなチェスターコートやスラックスが汚れることも厭わず、目の前の地面に膝をついていた。こちらを微笑みながら覗き込むその顔は、恐ろしく均等がとれていて美しい。
きっとその流暢な日本語と目の下の酷い隈さえなければ、背の高さも相まって海外のモデルか何かと勘違いしていたことだろう。
「だからさ、うちにおいでよ」
優しい囁きに、目頭が熱くなりそうなのを何とか耐えた。
言葉を詰まらせると、彼は俺の隣へと腰掛ける。
「僕の名前はねー……」
そう言いながら、細い木の枝を拾って地面へ文字を書き出した。
「早川 悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ」
そんな自己紹介がなんだか可笑しくて、思わず吹き出す。その枝を受け取り、俺も地面に名前を書いた。
「間宮 蒼大?いい名前だね」
「うん。早川さんもいい名前じゃん。俺が好きな漫画家さんと一緒」
言ってしまってから慌てて口を塞いだ。
なぜなら、それが有名とはいえ少女漫画家の名前だったからだ。昔同じことを言って友達に馬鹿にされた苦い思い出が蘇る。
チラリと隣を見れば、やはり彼も驚いたように目を丸くしていた。
「君、早川悠介知ってるの?あんなの絵が綺麗なだけの少女漫画家なのに」
その言葉に、少しカチンときた。
確かに少女漫画家だが、彼の作品はどれもヒットし、次々に実写化され一世を風靡したのだ。まぁ、俺が中学生の頃の話だが。
「んなことねぇよ。馬鹿にすんな」
精一杯の睨みをきかせて言い放つ。
「絵も綺麗だけどさ、あの人のアクションシーンがカッケェから好きなんだよ」
文句あるかコラ、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
すると、目の前の男は口を左手で覆いながら、肩を震わせて笑っていた。
「そうなんだ……。嬉しいよ、間宮くん」
「はぁ?なんであんたが喜んでんだよ」
「初めまして」
さらに眉間に皺をよせれば、挨拶と共に右手を差し出される。
「僕が、その早川悠介だよ」
そんな、嘘みたいな本当の話が、俺と早川さんの出会いだった。
0
あなたにおすすめの小説
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる