上 下
4 / 91
第一章

3. 招待と正体

しおりを挟む
 日は傾き、辺りはすっかり暗くなる。

 連れて来られた場所は、ドラマでしかみたことのないようなタワーマンションだった。
「さぁ、どうぞ」
 促されるままロックを解除した扉を潜れば、コンシェルジュのお姉さん達に出迎えられる。俺が目を白黒させている間に、早川さんは長い足でさっさとエレベーターに乗ってしまった。
 エレベーターはどんどん階を上がってゆく。
「……なぁ、本当にここが家なの?」
 恐る恐る尋ねれば、彼は笑った。
「そうだよ。だってここのオーナーだし」
「オーナーって……、え?大家?」
「そっ。面倒だから業者に委託してるけど」
 ポケットに手を入れたまま飄々と語られる情報に頭がついていかない。
「は?漫画家じゃないの?」
「作品当てる度に土地転がしたりして資産運用してたんだよ。漫画家なんて、安定しない職業だからね」
「転がし……、うんよう……」
 頭が見事キャパオーバーになった頃、エレベーターは最上階へと到着していた。
 そして、通された無駄に広い部屋に震えながら足を踏み入れれば、


 …………そこは戦場だった。


「ようこそ、我が家へ。適当に座って」
「え、どこに?」
 間髪入れずに突っ込んだ。
 言葉の通り、どこに座ればいいのか分からなかったからだ。
 床には服や本、よく分からん原稿用紙が散乱しているし、洒落た皮張りのソファーにだって、これまたよく分からん本が山積みになっていた。
「わっ!」
 次の瞬間、足元のトラップに引っかかり、前のめりに転んでしまう。
「あぁ、ごめんね?」
 早川さんはにっこりと微笑むと、山積みの本を一気に崩した。
「わぁああああっ!!!」
 転んだ上に、さらに本の雪崩に巻き込まれて情けない悲鳴を上げるしかなった。
 しかし、その間に、彼はもう既に着席している。
「ほら。遊んでないで早く座ってよ」
「遊んでないわっ!」
 そう、叫んだ時だった。
 何気なく手元に触れた本を一冊拾う。
 それは見たこともない漫画だった。

 タイトルはありきたりなのに、その表紙を思わず二度見する。だって、二つの肌色が絡み合っているんだもの。
 明らかにエロ本だ。
 そして、さらに三度見した。


 だって、それが男同士だったから。


「興味があるみたいで良かった」
 柔らかく優しい響きのその声は、まるで死刑宣告のように邪悪に聞こえた。
 ブリキ人形のようにぎこちなく見上げれば、彼は長い足を組みながら、此方を見下ろし微笑んだ。

「僕、早川悠介28歳。"元"人気漫画家」

 よく見れば、艶のない唇が言葉を紡ぐ。

「出版社に契約を打ち切られそうですが、一発逆転狙っています」
「……一発、逆転?」
「そう」
 美しいヘーゼルの瞳は、よくよく見ればよどんでいた。


「BL漫画でね」


 だからよろしく、間宮くん♪
 絶対、語尾に音符がついていたと思う。
 俺は、大きく息を吸い込んだ。


「全然っ!!よろしくねぇええええええっ!!!」


 じいちゃん……
 どうやら俺は、エセ王子様に捕まったようです。

 虚しい叫びは、窓から望む百万ドルの夜景に響いて消えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

処理中です...