12 / 21
9
しおりを挟む「緊張してますか?」
「してるように見える?」
「いいえ」
「自分でもびっくりするくらい冷静だよ。案外自分で思ってるよりずっと私は冷酷な人間なのかもしれない」
「ある程度の冷酷さは国を治める者としてあっていいものだと私は思いますよ」
「…うん、ありがとう。それより………本当に行くつもりかいっ?!降りるなら今だよ?!」
少しくらい冷酷でいていいと言ってもらえた嬉しさに自然と顔を綻ばせたアルフレッドは慌てた顔で最終確認をした。
今、ノーストン家の案を実行するためアルフレッドはゼブエラに向かっていた。
数十人の騎士に囲まれた馬車はもうすぐゼブエラとの国境に着く。
馬車に乗るのはアルフレッドとティナベルとリードヒル。
なぜティナベルとリードヒルが一緒かというと、あの話し合いの後放たれたティナベルの発言が元になっている。
-------------------------
「陛下、私もアルフレッド殿下に同行してもいいですか?」
「何っ?!」
「この案を言い出したのは私ですし」
驚くラビス国王とアルフレッドとは別にティナベルの性格を熟知している残りの二人はやっぱりこうなったかとため息を吐いた。
「だからティナに発言させたくなかったんだよ…」
「ムキになって止めてたのはそっちが理由だったのか?!それならそうと早く言え!」
親友の娘であるティナベルのことを自分の娘のように可愛く思っていたラビス国王。まさかその子が敵地に…戦地に自ら行くと言うなどとは思わずその動揺は相当なものだった。
ティナベルの言い分としては「戦争屋は前戦に立つべき」というもの。
状況が変わった場合のことを考えると別の道筋を立てられる誰かがいた方がいいに決まっていて、それにはノーストン家の者が適任だとのこと。
代々ラビス国王のノーストン家への信頼は厚い。
ラビス国王も頼めるのなら頼みたいと思っていた。ただ…頼みたいと思っていた相手はいくら大人顔負けの思考を持っていたとしても、まだ子供でも通る年齢のティナベルにではない。
「作戦が失敗した時のことを考えるとノーストン家の頭脳は二つ必要です。一つは戦地に。一つは一番守らなくてはいけないもの、つまり陛下の側に」
「何も君が行くことはないだろう?ロベルトが行って君が残ればいい。なぁ?ロベルト」
「………」
「申し訳ありません、陛下。父はハイとは言いません。ノーストン家として言えるはずがないんです」
ロベルトは過去に数回ゼブエラへ赴いたことがありその際にゼブエラの臣下たちとも接触している。
今のゼブエラの王がロベルトの顔を知っているかどうかは分かないけど、臣下たちに覚えられている可能性はかなり高い。
ロベルトが行けば何か企んでると思わせてしまうかもしれないことを考えると顔がバレていないティナベルが行くのが一番適任だった。
結局、ティナベルに根負けしたラビス国王は作戦が出来るだけ滞りなく実行されるように少しでも高い勝率を確保するためティナベルの同行を許可せざるをえなかった。
-------------------------
「怖くないの…?」
この道はもし失敗すれば良くて死、悪くて捕らわれの身が待ち受けていることはノーストン家の生まれではないアルフレッドにも分かり切っていた。
「私、いやいや同行してるように見えますか?」
「…いや…」
「こんなこと言うと引かれてしまうと思いますが、結構楽しみにしてるんですよ?」
「楽しみ……?」
ティナベルにその思いがなければロベルトはノーストン家の歴史を踏みにじってもティナベルを敵地に送り出すことはしなかっただろう。
最後までティナベルの同行に賛成の意を表すことは勿論なく、かといって反対することなく最愛の娘を見送ったのはティナベルの強い意志を感じたから。
「ふふ、やっぱり引きますよね?でも決して血や首が飛び交う場が好きってことではのでそこは安心して下さい」
「いや、あなたにそんな趣味があるとは思ってはいないけれど…」
アルフレッドには全く分からなかった。
緊張はしていない。恐怖もない。
今こうしてティナベルと向き合ってることがほんの少し楽しいと思っていても、楽しいのはここまでだと思っていた。
この先はティナベルが言った通り血や首が飛び交うだけ。もしかしたら血や首を刎ねられるのは自分たちかもしれない。楽しみなことは何一つないはずだった。
「……私、一度はこの目でそういった状況を見てみたいとずっと思ってたんです」
ティナベルは窓の向こうを見て言った。
-あぁ、そうか… 可愛らしい顔と性格からつい忘れてしまうけれど彼女はノーストン家の人間だったな…
アフフレッドはティナベルの言った楽しみという言葉の意味を唐突に理解した。
王族なら王族、貴族なら貴族、その家に生まれたからには知りたくなくても知らなくてはいけないことがある。
見たい見たくないは関係なく見なくてはならないものがある。
-戦争屋と呼ばれるノーストン家の人間としては見ておくべきことなのかもしれないな…
「そっか… でも、本当に怖くないの?」
「ちっとも」
ティナベルを危険な場に連れて行く以上アルフレッドに出来ることは出来るだけティナベルの周りを騎士で囲み守ることくらい。
だけど出立前の作戦会議で放ったその思いは速攻で却下された。
-------------------------
「私の側にはリー一人いれば十分です」
「ティナの側には俺一人いれば十分」
-------------------------
アルフレッドはその時のことを思い出すと落ち着いていた心が少しモヤっとした。
-彼女がこんなに冷静でいられているのは俺が彼女の存在に冷静さを取り戻せているように、彼女を冷静でいさせる…彼がいるからかな?
アルフレッドは当たり前のようにティナベルの横に座っているリードヒルをチラリと見る。
「…何か?」
「ううん、なんでも?」
ニコッと笑うとフンっと言ってそっぽを向かれてしまうアルフレッド。
リードヒルというライバル、自分の王子という立場。
この恋は一筋縄ではいかないだろうと自覚はしていた。
それでも、やっぱり諦めきれない。アルフレッドはそう改めて思うと二人と同じように自分も窓の向こうの景色に目をやった。
馬車はゼブエラに入った。
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる