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王の執務室-----
ラビス国王に会う許可は案外あっさり下りた。
軽い挨拶を終えるとラビス国王は「今丁度呼んでくるよう使いをだすところだったんだ」とティナベルを見て言う。
「実はある国のことで相談したくて君の父、ロベルトを呼んだんだけれど…もう自分は宰相の任を降りたと言って全く相談に乗ってくれなくてね…この堅物をどうか説得してくれないかな?」
ラビス国王は疲れ切った様子でティナベルの父を見た。
目元や口元がアルフレッドそっくりなラビス国王。
実年齢よりずっと若く見える王だったけれど、心労が溜まっているのかティナベルが以前に会った時からは少し痩せ今は年相応に見える。
「ゼブエラ王国との戦争について話されてたんでしょうか?」
「…さすがノーストン家の娘だね。そうだよ」
ティナベルがチラっとロベルトを見ると、ロベルトは父親らしからぬ拗ね方でプイっとそっぽを向いてしまう。
「ノーストン家の考えが必要でしたら私が父の代わりに」
「!!ティナベル!!!!」
突然大きな声を出したロベルト。
誰に対しても注意する時や怒る時でさえ笑顔を張り付けているのに、この時ばかりはいつもの形相とは違っていた。
「ダメだ!お前を政には関わらせない!絶対に、だ」
「…それがノーストン家当主としての答えですか?それなら従います」
「…っ」
まるで非難するかのようなティナベルの視線を受けロベルトは視線を落とす。
-アイツがここまで取り乱すのも珍しいな…
親友の狼狽える姿を初めて見たラビス国王は思う。
もしティナベルの案を実行し、失敗したら?
作戦を決行すると決めるのは国王なのだからその責は自分にしかないというのに、誰かはその咎の矛先を作戦を立てた者に向けるだろう。
成功したとしても…かつてのノーストンのように誰かがティナベルを非難するかもしれない。
そう思えば政には関わらせたくないと言ったロベルトの気持ちがラビス国王にはよく分かった。
「わかった。ではこうしよう。ロベルトの娘さん。私と雑談をしようじゃないか。一国民として意見を聞かせて貰いたい。ロベルト、それならいいだろう?」
ロベルトはまたそっぽを向く。
まだ怒っているのかどうかは表情が読めないけれど何も言わないということはそれでいいと言うことだと受け取ってラビス国王は続けた。
「知っていると思うが今この国とゼブエラとは停戦中だ。だが戦争好きなゼブエラがいつまで停戦し続けてくれるか分からない。私は今後どうするべきだと思う?」
「停戦を終わらせるべきです」
「……つまり?」
「戦をするんです」
「…気持ちいいくらいはっきりしてるね…」
「これ以上停戦にしがみついて何かいいことがあるんでしょうか?ゼブエラが仕掛けてくると分かっているのなら覚悟を決めるべきです。ラビスは戦を仕掛るべきです」
ラビス国王は目を瞑り首を振った。
自分の代で戦を起こしたくない。いつかしなければいけないとしてもやるならもっと先の世代で…なんて気持ちがあってのことではない。
ただただ民を犠牲にしたくない。その優しさ故。
ティナベルもラビス国王の気持ちは分かっている。
「戦を仕掛けると言っても大きな戦を仕掛ける必要はありません。ゼブエラの王を王の座から降ろせさえすればいいんです。手っ取り早いのは首落としでしょうね」
アルフレッドとラビス国王は可愛らしい声とは似つかわしくない言葉にギョッとした。
まさかティナベルの様な少女が首落としなどとあっさり口にするとは思わなかったのだ。
だけどノーストン家の子供は男女関係なく幼い頃から戦争に関するありとあらゆる教育を受けて育つ。
首落としよりもっと残虐な事をティナベルは知識として学んでいる。
「ゼブエラはその国土から力こそあるものの頭が良くありません。ミシェル王女殿下を差し出したことで暫く停戦を続けるとラビスは思ってるだろうと思っています。そしてその隙を付いてラビスに戦を仕掛けてくるつもりです」
「その思惑を逆手に仕掛けるべきだと?」
「はい。ゼブエラは過去何年も戦を仕掛けられたことがありませんし好戦的ではないラビスが先手を取って来るとは微塵も思ってないはずです。決行の時と場所ですが、近々ミシェル王女殿下の式があちらでありますよね?その日がいいと思います。参列ついでと言っては何ですがその時に王の首を」
「ちょっ、待て待て待て… ロベルト、お前の娘はサラっと怖い事を言うな?」
ラビス国王は頭を抱えてティナベルの発言を制止した。
ノーストン家の当主、ロベルトは娘の考えを慎重に聞き入っているし、リードヒルに至ってはこの話題に興味がない。
アルフレッドは自分よりいくつも下の、それも戦争とは無縁そうな女の子が次々と案を出している事に驚きを隠せないでいる。
今やティナベルの言動を止めれるのはラビス国王だけだった。
「簡単に言ってくれるが、王の首を落とされてそのまま降伏するような国ではないだろう?次の王となった者は必ず大きな戦を仕掛けてくるに決まってる」
「いえ、そうはなりません。今のゼブエラ王の首を落としたとして、次に王位に就くのは戦争狂ではありませんから」
「…?」
もし今のゼブエラの王が死んだ場合、王の座に最も近いのは前代ゼブエラ国王の子息であり現ゼブエラ国王の兄弟たちとなる。
前代ゼブエラ国王の子供は現ゼブエラ王含め二十一人。その内十六人は既に死んでいて、現ゼブエラ王を抜かせば残るは四人だけ。
「……ハーマン王子か?」
少し考えて出てきた答えにティナベルはこくんと頷いた。
ハーマン・ライズ。
周りから異色だ、変異種だなどと比喩され蔑まれてきたこの王子は年はアルフレッドと同じで前ゼブエラ国王の十三番目の子供。
戦争狂いの素質がなければ早々に殺されるような環境の中、唯一生き残ったハーマン王子。
ゼブエラ王国の王位の座は他国と違わず世襲制。ただ、兄弟の中から誰を選ぶかは臣下たちが決めることとなっている。
臣下たちは自分たちが美味しい思いを続けるために新たな王の座には戦争狂しか据えない。
ゼブエラが狂ったように戦争ばかりするのは王族が狂っているからではなくて、臣下たちも狂っているからだった。
「ゼブエラの臣下たちが彼を推すとは思えない」
「推されなくても彼は自らの手で王の座に就きますよ。他の兄弟も全て押しのけて」
「…まるで会ったことがあるように言うんだな」
「会ったことがありますので」
「なにっ?!」
「以前うちに滞在してました」
「?!?!?!」
ラビス王子は聞いてないぞ?!とロベルトへ顔を向けたが、まずい…といった顔で避けられてしまった。
「話を戻し取り纏めさせて頂きますが、ミシェル王女殿下の式に便乗してゼフエラ国王の首を落とす。以上がこの戦争を終わらせる方法かと…一国民の私は考えます」
-…一国民、ね…
ラビス国王は一国民の考えにしては随分しっかり状況と時を読んで考えられているなと思い苦笑した。
-ロベルトが何も言わないってことはロベルトも同じ意見ってことだな?
式を狙うのは式ならば兵の数が絞られるから、か…? ゼブエラは戦で負けなしの確かに強い国だがそれはその国土の大きさと圧倒的な兵力差が理由だった。 兵の数が限られていれば…勝機は確かにあるのかもしれない。あの国の兵は幼い頃から騎士となるべく剣術を学んできた者ではなくてただの人数合わせの寄せ集めで出来ているからな。個の力だけでいえばいつか来るであろう大きな戦争を見越して鍛え上げ続けてきたラビスの兵に軍杯が上がる。
ラビス国王は一つ一つティナベルの考えを整理していると確かに道が見えてきた気がした。
「ゼブエラはドナ国との戦を終えてまだ日が浅いので兵は疲れを残しているはずです。そして何より今の王は歴代の王の中で最も人望がありません。過剰な税徴収をはじめに、残虐な刑の執行…周りにいる臣下を除けば兵を含め民全てが王の死を望んでいることでしょう」
「王の首を落としにかかったところで兵が止めに入る可能性は低い、か」
「はい」
「今が絶好の好機ってわけだな…」
「はい」
ラビス国王は小さな溜息を吐いて大きく息を吸って「分かった」と言うとまたロベルトに向き直った。
ロベルトも今度は目を逸らさずその視線をきちんと受け止める。
「ミシェルはまるで囮だな…」
それは決してロベルトを咎めるような声ではなかったし、ミシェルを憐れむような声でもなかった。
「お前はこの日が来ることを分かっていたのか?分かっていたから宰相の任を降り、違う方法が、違う時がないか、一人探っていたのか?」
「それは…買い被りすぎですよ。俺は愛する娘と田舎でのんびり暮らしたかったらから辞めたんです」
「ふっ、そうか」
お前がそう言うならそう言うことにしてやる、とラビス国王は笑った。
「…ミシェル王女殿下を利用するような作戦しか立てることが出来なくて申し訳ありません」
「いや、謝らないでくれロベルトの娘さん。これ以上の最善の時はなかったし、これから先も訪れないのだろう?」
ティナベルは頷いた。
「因みにですが、父は今日陛下に呼び出されなくてもきちんと報告に上がる予定でしたよ?」
「っ!ティナ?!」
「そうか?その割には全然口を割らなかったが…」
ラビス国王がロベルトを見ると、ロベルトは「それは………誰かさんの息子のせいだよ」とアルフレッドをジトっと見つめて言った。
思い当たる節のあるアルフレッドはただただ申し訳ありませんと心で何度も謝っていた。
「あぁー…そのことについては…」
「俺はなぁ、娘には幸せになってもらいたいんだよ!狼みたいな男たちに絡まれることもなく、醜い心の女たちから嫉妬されたりいびられる事もなく、静かで平和でゆっくりした時を田舎で過ごしてもらいたいと思ってたんだよ!なのに…誰かさんが表舞台にあがらせるようなマネしてくれてね…」
-夜会に参加すれば可愛いティナベルが注目を浴びるのは分かってたよ?分かってたけどあの夜会は断れるものじゃなかった。だから仕方なくせめて目立たないようにしてたのに!
息継ぎをしないで言い立てるロベルトに誰も何も口を挟めない状況が続く。
「だから少しくらいその子の親に意地悪してもいいかなって思って」
ロベルトは最後にとても黒いいい笑顔でニコッと笑った。
ラビス国王に会う許可は案外あっさり下りた。
軽い挨拶を終えるとラビス国王は「今丁度呼んでくるよう使いをだすところだったんだ」とティナベルを見て言う。
「実はある国のことで相談したくて君の父、ロベルトを呼んだんだけれど…もう自分は宰相の任を降りたと言って全く相談に乗ってくれなくてね…この堅物をどうか説得してくれないかな?」
ラビス国王は疲れ切った様子でティナベルの父を見た。
目元や口元がアルフレッドそっくりなラビス国王。
実年齢よりずっと若く見える王だったけれど、心労が溜まっているのかティナベルが以前に会った時からは少し痩せ今は年相応に見える。
「ゼブエラ王国との戦争について話されてたんでしょうか?」
「…さすがノーストン家の娘だね。そうだよ」
ティナベルがチラっとロベルトを見ると、ロベルトは父親らしからぬ拗ね方でプイっとそっぽを向いてしまう。
「ノーストン家の考えが必要でしたら私が父の代わりに」
「!!ティナベル!!!!」
突然大きな声を出したロベルト。
誰に対しても注意する時や怒る時でさえ笑顔を張り付けているのに、この時ばかりはいつもの形相とは違っていた。
「ダメだ!お前を政には関わらせない!絶対に、だ」
「…それがノーストン家当主としての答えですか?それなら従います」
「…っ」
まるで非難するかのようなティナベルの視線を受けロベルトは視線を落とす。
-アイツがここまで取り乱すのも珍しいな…
親友の狼狽える姿を初めて見たラビス国王は思う。
もしティナベルの案を実行し、失敗したら?
作戦を決行すると決めるのは国王なのだからその責は自分にしかないというのに、誰かはその咎の矛先を作戦を立てた者に向けるだろう。
成功したとしても…かつてのノーストンのように誰かがティナベルを非難するかもしれない。
そう思えば政には関わらせたくないと言ったロベルトの気持ちがラビス国王にはよく分かった。
「わかった。ではこうしよう。ロベルトの娘さん。私と雑談をしようじゃないか。一国民として意見を聞かせて貰いたい。ロベルト、それならいいだろう?」
ロベルトはまたそっぽを向く。
まだ怒っているのかどうかは表情が読めないけれど何も言わないということはそれでいいと言うことだと受け取ってラビス国王は続けた。
「知っていると思うが今この国とゼブエラとは停戦中だ。だが戦争好きなゼブエラがいつまで停戦し続けてくれるか分からない。私は今後どうするべきだと思う?」
「停戦を終わらせるべきです」
「……つまり?」
「戦をするんです」
「…気持ちいいくらいはっきりしてるね…」
「これ以上停戦にしがみついて何かいいことがあるんでしょうか?ゼブエラが仕掛けてくると分かっているのなら覚悟を決めるべきです。ラビスは戦を仕掛るべきです」
ラビス国王は目を瞑り首を振った。
自分の代で戦を起こしたくない。いつかしなければいけないとしてもやるならもっと先の世代で…なんて気持ちがあってのことではない。
ただただ民を犠牲にしたくない。その優しさ故。
ティナベルもラビス国王の気持ちは分かっている。
「戦を仕掛けると言っても大きな戦を仕掛ける必要はありません。ゼブエラの王を王の座から降ろせさえすればいいんです。手っ取り早いのは首落としでしょうね」
アルフレッドとラビス国王は可愛らしい声とは似つかわしくない言葉にギョッとした。
まさかティナベルの様な少女が首落としなどとあっさり口にするとは思わなかったのだ。
だけどノーストン家の子供は男女関係なく幼い頃から戦争に関するありとあらゆる教育を受けて育つ。
首落としよりもっと残虐な事をティナベルは知識として学んでいる。
「ゼブエラはその国土から力こそあるものの頭が良くありません。ミシェル王女殿下を差し出したことで暫く停戦を続けるとラビスは思ってるだろうと思っています。そしてその隙を付いてラビスに戦を仕掛けてくるつもりです」
「その思惑を逆手に仕掛けるべきだと?」
「はい。ゼブエラは過去何年も戦を仕掛けられたことがありませんし好戦的ではないラビスが先手を取って来るとは微塵も思ってないはずです。決行の時と場所ですが、近々ミシェル王女殿下の式があちらでありますよね?その日がいいと思います。参列ついでと言っては何ですがその時に王の首を」
「ちょっ、待て待て待て… ロベルト、お前の娘はサラっと怖い事を言うな?」
ラビス国王は頭を抱えてティナベルの発言を制止した。
ノーストン家の当主、ロベルトは娘の考えを慎重に聞き入っているし、リードヒルに至ってはこの話題に興味がない。
アルフレッドは自分よりいくつも下の、それも戦争とは無縁そうな女の子が次々と案を出している事に驚きを隠せないでいる。
今やティナベルの言動を止めれるのはラビス国王だけだった。
「簡単に言ってくれるが、王の首を落とされてそのまま降伏するような国ではないだろう?次の王となった者は必ず大きな戦を仕掛けてくるに決まってる」
「いえ、そうはなりません。今のゼブエラ王の首を落としたとして、次に王位に就くのは戦争狂ではありませんから」
「…?」
もし今のゼブエラの王が死んだ場合、王の座に最も近いのは前代ゼブエラ国王の子息であり現ゼブエラ国王の兄弟たちとなる。
前代ゼブエラ国王の子供は現ゼブエラ王含め二十一人。その内十六人は既に死んでいて、現ゼブエラ王を抜かせば残るは四人だけ。
「……ハーマン王子か?」
少し考えて出てきた答えにティナベルはこくんと頷いた。
ハーマン・ライズ。
周りから異色だ、変異種だなどと比喩され蔑まれてきたこの王子は年はアルフレッドと同じで前ゼブエラ国王の十三番目の子供。
戦争狂いの素質がなければ早々に殺されるような環境の中、唯一生き残ったハーマン王子。
ゼブエラ王国の王位の座は他国と違わず世襲制。ただ、兄弟の中から誰を選ぶかは臣下たちが決めることとなっている。
臣下たちは自分たちが美味しい思いを続けるために新たな王の座には戦争狂しか据えない。
ゼブエラが狂ったように戦争ばかりするのは王族が狂っているからではなくて、臣下たちも狂っているからだった。
「ゼブエラの臣下たちが彼を推すとは思えない」
「推されなくても彼は自らの手で王の座に就きますよ。他の兄弟も全て押しのけて」
「…まるで会ったことがあるように言うんだな」
「会ったことがありますので」
「なにっ?!」
「以前うちに滞在してました」
「?!?!?!」
ラビス王子は聞いてないぞ?!とロベルトへ顔を向けたが、まずい…といった顔で避けられてしまった。
「話を戻し取り纏めさせて頂きますが、ミシェル王女殿下の式に便乗してゼフエラ国王の首を落とす。以上がこの戦争を終わらせる方法かと…一国民の私は考えます」
-…一国民、ね…
ラビス国王は一国民の考えにしては随分しっかり状況と時を読んで考えられているなと思い苦笑した。
-ロベルトが何も言わないってことはロベルトも同じ意見ってことだな?
式を狙うのは式ならば兵の数が絞られるから、か…? ゼブエラは戦で負けなしの確かに強い国だがそれはその国土の大きさと圧倒的な兵力差が理由だった。 兵の数が限られていれば…勝機は確かにあるのかもしれない。あの国の兵は幼い頃から騎士となるべく剣術を学んできた者ではなくてただの人数合わせの寄せ集めで出来ているからな。個の力だけでいえばいつか来るであろう大きな戦争を見越して鍛え上げ続けてきたラビスの兵に軍杯が上がる。
ラビス国王は一つ一つティナベルの考えを整理していると確かに道が見えてきた気がした。
「ゼブエラはドナ国との戦を終えてまだ日が浅いので兵は疲れを残しているはずです。そして何より今の王は歴代の王の中で最も人望がありません。過剰な税徴収をはじめに、残虐な刑の執行…周りにいる臣下を除けば兵を含め民全てが王の死を望んでいることでしょう」
「王の首を落としにかかったところで兵が止めに入る可能性は低い、か」
「はい」
「今が絶好の好機ってわけだな…」
「はい」
ラビス国王は小さな溜息を吐いて大きく息を吸って「分かった」と言うとまたロベルトに向き直った。
ロベルトも今度は目を逸らさずその視線をきちんと受け止める。
「ミシェルはまるで囮だな…」
それは決してロベルトを咎めるような声ではなかったし、ミシェルを憐れむような声でもなかった。
「お前はこの日が来ることを分かっていたのか?分かっていたから宰相の任を降り、違う方法が、違う時がないか、一人探っていたのか?」
「それは…買い被りすぎですよ。俺は愛する娘と田舎でのんびり暮らしたかったらから辞めたんです」
「ふっ、そうか」
お前がそう言うならそう言うことにしてやる、とラビス国王は笑った。
「…ミシェル王女殿下を利用するような作戦しか立てることが出来なくて申し訳ありません」
「いや、謝らないでくれロベルトの娘さん。これ以上の最善の時はなかったし、これから先も訪れないのだろう?」
ティナベルは頷いた。
「因みにですが、父は今日陛下に呼び出されなくてもきちんと報告に上がる予定でしたよ?」
「っ!ティナ?!」
「そうか?その割には全然口を割らなかったが…」
ラビス国王がロベルトを見ると、ロベルトは「それは………誰かさんの息子のせいだよ」とアルフレッドをジトっと見つめて言った。
思い当たる節のあるアルフレッドはただただ申し訳ありませんと心で何度も謝っていた。
「あぁー…そのことについては…」
「俺はなぁ、娘には幸せになってもらいたいんだよ!狼みたいな男たちに絡まれることもなく、醜い心の女たちから嫉妬されたりいびられる事もなく、静かで平和でゆっくりした時を田舎で過ごしてもらいたいと思ってたんだよ!なのに…誰かさんが表舞台にあがらせるようなマネしてくれてね…」
-夜会に参加すれば可愛いティナベルが注目を浴びるのは分かってたよ?分かってたけどあの夜会は断れるものじゃなかった。だから仕方なくせめて目立たないようにしてたのに!
息継ぎをしないで言い立てるロベルトに誰も何も口を挟めない状況が続く。
「だから少しくらいその子の親に意地悪してもいいかなって思って」
ロベルトは最後にとても黒いいい笑顔でニコッと笑った。
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