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ヘイマンリゾートアイランド

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「クロサキサマ オトマリノ オヘヤニ ゴアンナイシマス」

ベルボーイの流暢な日本語の案内に驚いてしまう。桟橋を彼の後にしたがって 二人で手を繋いで歩く。 ケアンズ市内にいたあれだけの日本人がこの島に到着してからまだ 一人も出会っていない。

先生の顔を見ると、どや顔でニヤニヤしている。


     サプライズはまだ続きそう…
ホテルのロビーにも 日本人は見当たらない。  ロビーを通りすぎどんどん建物の奥に入っていく。

「先生 … 何処に行くの ?  ホテルの建物… 通り抜けちゃうよ 日本人がいないじゃん!」

先生の指に絡ませた手に力が入る。

「しっ 、黙って …」

唇に指を当て 私の不安を取り除くように ウインクして見せる。亜熱帯植物で 植栽された中庭の緑のカーテンを見上げると極彩色の小鳥が梢の間を飛び出す。

         「うわっ‼︎  カワイイっ!!」

中庭を通り抜けると、目の前がパッと解放され

※ラグーンが広がる。辺りにもホテルのコテージが並ぶ。その先のプールに沿って 数戸の大型の独立した 建物が目に入った。



「クロサキサマ、コチラノ  ビーチヴィラヘ オトマリイタダキマス」
その一つの建物の扉を開ける。



“ ウッ ”  息を呑む。  
「  ワァー!!!!  」
…次の言葉が  出ない。真正面には真っ青な空と 珊瑚礁が顔を覗かせるライトブルーの海、  手前は真っ白なプライベートビーチ…三色が混ざり合いこの世の景色とは思えない。


私はその場で何度も息を呑み  先生の腕を掴んで小躍りする。




※ラグーン ⁑珊瑚礁で囲まれた塩水の 池 または塩湖



私達を案内してくれたベルボーイの胸の名札に
   【William,K】と記されている。

先生は ヘイマンに滞在中 彼を  “ ウィル ” と呼び 早速からかいだす。ゲームで彼の語学力を試さないか と持ち掛ける。ウィルも日本語勉強中だからと受けて立つ。  先生はリゾートの設備について質問責めにする。彼には日本語で答えさせ 自分は英語で質問するゲーム。
( 英語が話せるんだから、英語でとおせばいいのに 意地悪 )

最期には、指を折りつつ


「 room service and gym or pool or  spa ,restaurant…etc
ソノホカ イロイロ   (Everything)  ニジユウヨジカン  (service twenty)(four hours a day)   デス アリガト デ ゴザイマス」  と、意味不明な所まで話させたあと  ニヤニヤ笑い パンフレットに全て記載されている事をウィルに見せる。   白い綺麗な顔が紅く染まる。


私は 先生のお尻をひっぱたき、ウイリアムに冗談だから気にしないで欲しいと謝った。  お礼を言ってチップをはずむ。先生はウィルが退散すると、ベッドに倒れ込み大笑いする。


「本当  いじめっ子 なんだ…」

私は先生を無視して ベッドルームからプライベートガーデンに出てビーチを眺める。先生は スリムジーンズと白いTシャツに着替え始め ながら
「メシ 行くぞ 腹減った 」と自分勝手に急かす。

嫌だと言っても許してくれそうにない。何せ 豊満なルノアールが大好物なのだから私に太れの指令。 私はケアンズで購入したサマードレスに着替えた。


二人でヴィラを出た。  スリムデニムが 先生の長い脚から続く引き締まった小さなお尻を強調する。上半身は上半身でヘンリーネックのボタンを全開にしたTシャツが 体にピタリと張り付き、胸の筋肉の盛り上がりから シックスパックに至るまで、無駄を削ぎ落とした肉の形状を潰さに映しだしていた。イエローモンキーとは言わせないとばかりに 先生は手当たり次第にフェロモンを撒き散らす。
一人で歩いている女性は、皆一様に一度は先生に注目した。


私については 恐らく女性として見られていない。すれ違う人々は私のことを、正にイエローモンキーと思っているに違いない…。赤いサマードレスも 先生の横では色褪せる。
 


ラグーンの周りを 迂回し水鳥を眺めながら中庭に出ると、午後も4時を過ぎるていた。   爽やかな風がホテルの建物の間を通り抜ける。



宿泊客は、ほぼ欧米人で、カップルに混じり 家族連れも疎らにいた。子供達のはしゃぎ声も、この楽園の中では天国の庭に集う悪戯な天使達のように ほほえましい。ほとんどは 若者から中年までの男女二人づれ。愛情表現におおらかな欧米人は 敷地内の至る所で、 愛を囁き大胆な行動も目に着く。先生は アメリカ住まいが長かったせいか、人前でも気にすることなく キスやスキンシップを好む。私は ホテル内で、目のやり場に困り俯くしかない。


「見せつけるか」
先生は楽しそう。わざと困らせるような事を言う。

「やだ   恥ずかしい」
先生の大きな体に隠れる。早くレストランで落ち着きたい。亜熱帯植物の植栽の中庭を囲むようにレストランが数軒ある。

「何が食いたい?」 
先生は私に任せると言うので お腹の空き具合から中華を選んだ。


まさか ヘイマン島で先生の友人と会う予定など知るはずもなく、中華料理を堪能する。特にオマール海老の特大エビチリ、北京ダックは、涙が出るほどの絶品だった。胸の下から下腹部にかけてお腹が出っ張る。それでも食欲は 衰えを知らず食べつづけていると、


『ハイ!  ヒカル』と、ブルネットの長い髪の女性が声をかけて近づいてきた。隣には 金髪の男性。

『やあ久しぶり 、ロブ  ナオミ』  先生は親しげに手招きする。私は 突然の外人客にたじろぐ。

『妻の ミチルだ』先生は既成事実を 海外にも刻印する。


(つっ、妻って 逃げる気は無いけれど…でも―逃げ場がなくなる)

メ○ ○○ン大学スザード研究所のロバート・P主任研究員と、ナオミ・W教授を紹介される。私は食事の手を止める。

『初めてまして Mrs.黒崎 』ロブ先生が私の手をとりキスを、

『オーストラリアへ ようこそミチル』ナオミ先生がハグしてくれる
三人の 自己紹介が済むと一緒にテーブルを囲む。


『ヒカルぅ  ララのこと 忘れられたんだね』
ナオミ先生が 紹興酒の入ったグラスを掲げる。


 ( “ララ”?)キョトンとする私に 、ナオミ先生は優しく微笑む。

「俺の恋人だった」先生は悪びれる事なく、サラっと告白する。

私の知らない先生がそこにいた。初めて疎外感と 寂しさが 胸をよぎった。でも、気を取り直す。

(―そりゃ ぁ  40前の男が女の一人や二人いても不思議じゃ無い!まして この色男だもん  いないほうが 変だよ…)

エロ格好いいおじさんと 居たいなら覚悟がいる。叩けば埃まみれかもしれない…先生の女性関係…。
( 結婚して浮気されるのはさすがに嫌だ…な)



今回の講演会の共同演者がナオミ先生。助手をパートナーであるロバート研究員が務める。先生は、ナオミ先生とはアメリカ時代同じラボで研究員と指導者の立場で仕事をしていた。

ナオミ先生は 若いうちからアメリカに渡り、免疫薬学の研究に取り組んでいた。アメリカで学位を取得し、母国メ○○○○大学の独立研究機関の責任者として帰ってきた。太古の自然が残るオーストラリアで、新しい免疫薬の開発に成功している。

『シンジは元気かしら?』
ナオミ先生は北京ダックを食べながら 宗方先生の近況も気にする。

『相変わらずさ、うちのベイビィの主治医だ』
事情を知っている様子で、 ナオミ先生は驚く様子もない。

『次 アメリカの学会で会えるかしらねぇ…』
昔からライバルだったが、T大学に行って開発薬を先起こされれてしまった。ナオミ先生はまたやる気が出ている。

『自分で 聞けよ』先生はニヤニヤ笑いロブの方を見る。

ロブはナオミ先生の口からシンジ の名前が出る事にいい気がしない。肘をつき 箸を持て遊んでいる。ナオミ先生がパートナーの気持ちを思い遣る…そんな繊細な心遣いは持ち合わせていない。
重要な事は、研究が 人の役に立つようにすること。他の事は、ナオミ先生の人生の 付け足しでしかない。

『ヒカルっ 明日 私達の部屋でパーティーするから 是非ミチルと来て! 紹介したい人もいるの』
ナオミ先生の誘いに、

『行けたらな』先生は適当な返事を返す。

私達四人は、ヘイマンの有名な夕日を見る為レストランを出た。ナオミ先生とロブは 桟橋の方へ歩いて行く。 二人の後ろ姿を見送りながら、先生が私の腰に手を回し自分の方へ引き寄せる。並んで 水平線に沈み行く太陽を眺める。  辺りは真っ赤に燃える。

    〝 ここは地上の天国  〟


 あまりに美しい夕焼けに 胸が熱くなり、先生の腰へ回した私の手は、先生のシャツをギュッと掴んでいた。


先生は 私の腰へ回した手を頭に移し胸に引き寄せた。 自然な成り行きで抱き合った。  視線は水平線に消え入る太陽にくぎ付けのまま…。   先生に 頭を預ける。




夕焼けをバックに 白い砂浜を二人で歩く。
「ララの事は、聞かないのか?」
     ( えっ…)

「話してくれるの?」    好奇心が湧く。


「ん…   面倒くさいが   どうしても知りたいなら …お前さ、 変に妬きもち 妬くからなぁ」

「一言 余計だよっ」  
 先生の奥さんの事を言ってる…

今は、先生と二人っきり  夢のような場所へ連れて来て貰ってデートしてる。   いつも強引だけど、私を守ってくれる。  先生の事は 疑いの余地がない程 信頼している。  ジェラシーが湧いて来なかった。

「 その人が どんな女性なのか…気になるけど、今は―どうでもいいかな…」
私は先生の腰に回した腕に力を込めた。

「そうか…」
先生は.やれやれといった表情で、私の手を握ったまま  デッキチェアに腰を下ろした。 ウォールナットウッドで骨組みされた木枠に 真っ白い帆布を張った椅子は、背もたれが3段階に調節できる。先生は角度をほぼ水平にして 体を横たえ目を閉じている。    私は背もたれに体を沈め、潮騒を聞きながら 目の前の天国の景色を見つめていた。

ウィルがやって来た。
「Mrs.クロサキ ドリンクハ、イカガ?」


「おっ 、ウイリアム! いいところへ来た…ビールを頼む」
先生は、片瞼を眩しそうに開け オーダーする。


「私はシャンパンを お願い」


「ヨロコンデ 」


先生のデッキチェアと 私のデッキチェアの間にある隙間が もどかしい。   恋人達の黄昏れ時、デッキチェアから降りると先生の横にくっ付けたくて 押してみた。チェアの脚が砂を歯む。押しても、押しても私の力では びくともしない。  突然 、すっ と動く、先生が簡単に引っ張り寄せた。

「イチャイチャしたいなら したい って言えよ 」 厭らしくニヤつく。
デッキチェアは横並びに隙間なく合わさった。

「来いよ 」

腕を広げられると中に飛び込まないわけにはいかない。 先生の上半身に体を預け先生の体臭を吸い込みゾクゾクする。 抱き合う二人の
姿を眼下に  ドリンクを運んできたウイリアムは、気を利かして デッキテーブルの上にいくつかクッションを用意してくれた。彼は おもてなしの心を理解して気配りしてくれる。

「クッションきたよ…♪」


私は腕を伸ばして、クッションを取ると 先生の胸の上に置き頬を当てて 綿サテンのヒンヤリした肌ざわりを楽しむ。

 「キャッ」   意地の悪い先生は上半身をやや起こして私のクッションを奪い取る。



 「もう!」

クッションは先生の背中に押し潰され、欲張りにも二個取ると、重ねて頭の下に押し込む。私は最期の一個に手を伸ばす。先生の長い腕が 私より早く奪うと、クッションの取り合いでふざけ合う。先生が クッションを右  左と持ち替えて取り返せない。私は しつこく先生からクッションを 取り返そうと、躍起になった。

「わかった、わかった、降参っ 降参‼︎ 」

私は、知らず 知らず先生の下半身に跨がっていた。跨がった まま
先生の胸に倒れ込み、薄暮の珊瑚礁に視線を泳がす。太陽は 水平線に沈む寸前。周りのカップルの甘い吐息  愛の囁きが波の音の隙間から聞こえてくる。


夜空は満点の星
 
ひときわ目を引くのは、何億もの星が 大河となって 天空で横たわる天の川…もう海が何処で 空がどこからなのかさえ見分けがつかない暗闇。地上では、ホテルが恋人達のために 演出した篝火が、ビーチに沿って 規則正しく明かりの帯を拡げ  敷地内はあちらこちらに間接照明が設置されていた。幻想的に、情熱的に 建物を黒いキャンバスに浮かび上がらせ…真夏の夜のビーチは恋人達の天国だった。

私達以外にも  make loveを 楽しむ恋人達の 甘い囁きと、吐息や ため息に混じりに、喜悦の声さえ聞こえてくる。 誰もそれを咎めだてる者はいない。

その音はさながら ジャングルやサバンナの動物達の恋の季節のざわめきに似ている。 全て自然のあるがまま…


私達も自然の姿でmake loveを堪能する。


「  うぅふぅぅ…」
先生が、苦渋の表情でなおも私を責めたてる。

「もう  も…うゆる…し…て  あはぁぁ…」

先生は私を胸に 抱きながら

「天国の入口 は そこだ…」


「! ………ク ク クゥ ゥ…」



私は先生の指先だけで、敢なく天国まで跳んでしまった。



先生の体に抱き留められ、右手には起立した先生自身を掴みながら
何もしてあげられないまま 先に果てた。先生は私をしっかり抱きながら、
「天国は 見えたか」  優しく問いかけられ、 何度も頷く…と、


「一回戦終了か」優しい眼差しで 私を見詰める。


夜風が火照る体を程よく冷ます。キラリと 先生の黒目がちの瞳が、厭らしいくらいに光る。

「さて まだ まだ 序の口だ…」


先生は 私の唇を塞ぎ口を犯し始める。唾液を送りながら控えめな舌を吸い出す。


「 ぅふぅん…」


唇をついばみ 離すと、
 「ヴィラで 二回戦といくか、  ん? 」
 頬を手の平で挟みグッと私の顔を上げる。すぐさま、私をお姫様抱っこして ひょいと立ち上がった。

「おい  このまま 抱いて行ってやるから  ・・・」





「ヤダー 恥ずかしいかも」

「思いっ切り 此処の奴らに 見せつけてやろうぜ 」

先生はクククと笑う。ザクザクと砂を踏み締めながら私をお姫様抱っこして ビーチを 篝火に沿って歩きながら 海岸沿いを進む。すれ違うリゾート客もクスクス笑ったり、makin' it hot.(あっつぅ~)と 冷やかす。

先生は平気で lovey-dovey mitch(いとしい~ミッチ)なんてバカバカしいフレーズを、聞こえよがしに言う。そのまま抱いた私にキスしながら…。

「バカっ !酔ってないよね?」
赤面するような子供っぽい悪戯をすぐ実行しちゃう。


(…そこが   好きかも…)


ヴィラの入口に着くと 、扉を開けそのまま寝室のベッドへ 二人して倒れ込む。


lovey-dovey mitch
(ミッチにメロメロだぁ)


(  まだ言ってる・・・)

〝 クスッ 〟

ベッドの上に転がした私に纏わり付き、腹ばいになり仰向けの私の髪をクルクル弄ぶ。


「風呂 入るか」と、甘えてくる。


「いいよ 入る!」


バスルームからも 外の海が見えるアイランドバス…バスルームの真ん中の円形のバスタブでジャグジーを楽しむ。先生はバスタブの縁に腕を添わし大股開きで脚を伸ばしてゆったり浸かる。


(まるで銭湯によくいる オヤジ…)


私は先生の広げた脚の間にこそこそ浸かり先生と向かい合う。

熱いお風呂で体を充分温めた後、プランジプールに入って泳ぐ。

先生が 硝子越しに隣のプランジプールでクールダウンしている。
私は、バスタブの縁に肘を沿わせ 顎を乗せて、夢のような一日を思い返していた。日本を発つ前 、先生と一緒の旅行はもう無理だと諦めていた。リノ先生と宗方准教授の治療がなければ、ここには来れていなかった。

ずっと濃厚な愛撫を受けていた体に目立つ紫斑は出ていない。

(  大丈夫  みたい )

一緒にお風呂に誘ったのは、私の体を確かめるためだったのでしょ?先生…。さりげない先生の思いやり。いつも派手に立ち回り、誰からも畏れられ 近づく者を簡単に寄せつけない。私は知ってるよ、本当の先生を! そして…先生がどんなに普通に振る舞っても…頭の片隅の私を蝕む病気の二文字が消せないこと。

( ごめんね… 心配かけて…)
私も同じ…今、この瞬間だって 先生と二人の未来が見えない…。



ふと、、先生の視線を感じて笑顔を返す。先生はバツが悪かったのか、プールに潜る。
(恥ずかしがり… なんだから…)

〝 クスッ…〟  可愛いいやんちゃ坊主。


仕事でも、プライベートでも 横柄な態度とふてぶてしさが満載。
敵も多いだろうに…それでも 自分で敵を作る。

“ 人の噂で潰れるなら先はない ”   鎌倉のお母さんが 言ってた。
なによりも 私の根暗な人生の救世主。

    ( 私だけの…アラフォー王子様 )
この人と1分1秒でも一緒に居たい...と思うのは贅沢な事?

〝 バシャッザザーーッ 〟 派手に プールから出てきた先生は、ブルブル頭を振る 。仕種もいちいち 厭味なほど絵になってしまう。本人にとっては、“ それがとうした…知ったこっちゃない…” だろうけど。


水滴が照明できらめく。髪の毛を両手で掻き上げた姿…美術の教科書から飛び出したギリシャ神話の アポロン。
顎を上げた咽から 首元 、胸の曲線  私の目に コマ送りのスローモーションに映る。

彫像を模写したような体  アポロンと違うのは、顔の皺  体毛色  年齢… 包茎じゃない生殖器。恥ずかしいくらい…デカ物…

妄想して、赤面する自分に笑ってしまう。


真っ白なバスタオルを頭から被り、ドカドカとバスルームに入って来た。


「ん たくぅ  長湯だな… 」

眉間に皺を寄せバスタブの縁に屈み込むと、 私の顔を覗き込んだ。
先生の見たいものを 先読みする。 あっかんべーして見せる。

ニヤニヤ笑い、
「わかってるじゃないか、まずまず だ…な  」
先生に結膜を見せて血行を確かめてもらう。  合格と言うこと…
先生の前だと恥ずかしい気持ちも失せた。

真っ裸のままザーーッと 立ち上がりプランジプールへ…
交替で先生は、ジャグジーの効いたバスタブへ体を沈める。先生が私の痩せた後ろ姿を目で追ってる事も気づかない。

そっと プールにつま先を浸す。 ひゅんっ 体が火照っている分水温との差で 冷たく感じる。 ゆったり取られた 階段の手摺りを伝いながら 降りる。

〝 ブルッ 〟…深さは私の胸まである。皮膚が水温と馴染み冷たさが気にならなくなってきた。小学校四年生まで続けていたスイミング…   あと少しで 選手コースに進級という時、母親の入院で 将来のオリンピック候補は、家事育児専門のスーパー小学生に…。


ゆっくりプールの縁に沿って歩く。水圧が私の貧弱な腹部にもかかり 皮膚が揺らめき小さく波打つ。


小さい頃のスクールのコーチの顔を思いだす。
そういえば、初めて‘ときめき’を 知ったのは、あのコーチかも知れない。アルバイトの体育大学生。

毎週金曜日は、その大学生がクラスを担当する。

(  うふっ…コーチ…格好良かったなぁ…) 気恥ずかしい。
頭を反らして、水に浸かると自然に足が浮く。その時習った事を思いだしてみる。水面に恐る恐る、仰向けになる。プールの天井が見える。腕を広げプカプカ浮く…足をばたつかせてみると、すぐに腰が沈みくの字に曲がった。

( っとと …)

体勢を崩してしまい 片足をプールの底に着けてバランスを整えてから、また 試してみる。

(よ~しっ…)
今度は、顔を浸けて けのびキックを思いだす。
大学生のコーチが
〈そう そう! 頭を浸ける時は目を開けて ~ 自分の胸をしっかり見るつもりで~っ 〉

〈ハイー頑張ってー!〉パンパンパンー   手を叩き キックのリズムを取る。その手拍子にあわせて足を交互にキックする。最初のウォーミングアップにはプールの縁を掴んで顔浸けキック。
初心者の頃 私は、この時点で音を上げたくなった。そのあと、上級者クラスになると、息継ぎ無しのキックだけで25メートルを10本。頭が高いと水の抵抗で遅くなり息がもたない。コーチに認められたい一心の幼い恋…

今もあの頃の光景が鮮明に蘇る

狭いプランジプールでは、キックしなくても浮きさえすれば、端まで到達してしまう。


「…はぁぁ!  エーエーッ‼︎」

先生が 、ニヤニヤしながら 私を観察していた。

「いつから見てたのっよっ‼︎ 」

プールの水を バスルームとの間の硝子の壁にかける。

「さっきから  ずっと…ミチルの裸を 見学してた…」

( くぅーっ!カーーーーッ!‼︎ )

あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になる。


  〝  バッシャーン 〟

私が恥ずかしさで下を向いている隙に、先生は バスタブから出ると、一気にプールへダイブした。

ジャバッーンッ

狭いプールに 180センチもある大男が飛び込むって‼︎
( ありえへんわ!)

「ヤダーッ !何っしてるのぉ!」
頭から水しぶきをたっぷり被る。先生がプールに立つと狭いのが際立つ。

「…」
意地悪には 無視。( フン )と、横を向く。

「明日は スキューバに行くからさ~♪ 練習しようぜ」
先生はふざけて私の両手を掴むとプールの端っこへ引っ張り込む。膝を曲げて 肩まで浸かり 私の手を持つと

「ほれっ  キック しろっ ! キック、キック」

(…子供かっ )
「膝 曲げんなっ !ひれ付けても それじゃ 前に進まないぞ!」

「ウザいーい‼︎‼︎ 」


  ( アホッ、 バカ !もう  ヤダーー)


いやいやと首を振る。


私の手を引き寄せ ガシッと、突然抱きしめたかと思えば、
「冷えてきたから風呂だ…」

顔を数センチまで近づけると私の鼻先をかじった。
「 なっ、何すんの…よぉ⁈ 」

つぎの行動の予測がつかめない。手を繋いでプランジプールから出ると、五歩ほど走って、せーので 二人でバスタブへ飛び込んだ。温かい湯に包まれながら、バスタブの中で抱き合う。


「予測不能な行動しないでよっ 」上目遣いに先生を、睨む。

先生はケラケラ笑いながら悪びれることなく

「ミチルの反応がさ、俺のツボを刺激するのさ 」

私は 縁にもたれながら 大の字に身体を広げる先生の懐にすっぽり収まり、ジャグジーの泡のマッサージの中を 堪能しながら向きを変え先生にもたれかかる。先生の長い脚に沿って私も脚を広げてみる。気持ちいい開放感…

胸筋が、いい枕代わりになって 先生に身体を全て預けジャグジーの柔らかな気泡にいつまでも包まれていた。








 


 













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