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二人‥そして始まり

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本学の正門前に青い外国車が横付けされた。
私はその青い車から降りてドアを閉めた。同時に助手席の窓が自動で音もなく下がる。私は屈み込み運転席の先生を確かめ

 「行って来ます」 と別れを告げる。

サングラスをした黒崎先生は

 「じゃあな…」と、私の方向に顔をむけ、言い終わるや冷たく車を急発進させて、あっという間に私の視界から消えてしまった。
サングラスで顔の半分が隠れ、その表情は伺い知ることも出来ない一瞬の出来事。

     次に会う約束もなく居なくなった。
 
(ったくぅ普通…‘お疲れ~’とか、‘助かったぁ’とか…せめて ’また頼むとか 、とか、とかぁっ!!!   言うでしょうよっ!)

アラフォーおやじと付き合うと調子が狂う…デートの約束すら無く、次はいつ会えるの…やら、私は、先生の車が見えなくなってもその場でぐずぐずと未練たらしく突っ立ていた。

講義に向かう学生や、キャンパス内を移動している学生達は、斬新な高級車が正門に横付けされたかと思うと、中から冴えない女子学生が出て来た光景に好奇の視線を向けていた。 早速噂話のネタにしようとする学生も…いた。 そんな周辺状況に私は全く気がついていなかった。


 「ミチル~ッ」



   サヤカ!…この講義だけが唯一サヤカと同じだった。

私は振り向き“サヤカ”の方へ歩き出すが、彼女のほうから走り寄って来たかと思うといきなり、

 「ねっ!今のアルファロメオって…まさかミチルの彼氏?」

サヤカは面白い物でも見つけたように、私に纏わり付き探り始める。

 「アルファロメオ⁈  何 ?それ…」

私は聞いた事のないその名前を ‘何か’と尋ねた。

 「 車よ! 車ァッ  イタリア車よ…」

サヤカによると 結構人気車らしい。

 「ミチルっ、いつから彼氏いるのよ…教えなさいよ」


 「彼氏って…まあ そんなじゃ…ない  」

まさか同じ大学の医学部の准教授を  ‘彼氏’などとは口が裂けても教えられない。

 「とぼけないで! ちゃんと教えてくれるまで今日は、帰さないからっ」  サヤカは一度言いだしたら梃でも引き下がらない。

私はのらりくらりとサヤカの追求をかわしながら講義棟に向かつた。


  講義は犯罪者心理のプロファイリング
大学も、学生の興味を引き出し出席率を上げようと、あの手この手の機をてらったバラエティ豊かなプログラムを用意する。
元FBIの日系人捜査官が講義を担当してくれた。

流暢な日本語と時々英語が入り生々しい現場のやり取りやプロファイリングの行程など、さながら“羊た〇の沈〇”を彷彿とさせる面白い講義だった。90分の講義があっという間に終わった。

横で仮眠タイムのサヤカを起こす。


教室を二人で出ると、サヤカは夕方から堺クンとデートの予定らしい。それまで暇だから私に付き合えと言う。 私は差し当たって用事も無いわけで、断る理由が見当たらなかった。

 「いいけど…」

本当は家に帰って寝たい。夕べは先生と一晩中、すったもんだしてほとんど寝ていない。 ところが、彼女は正門方向を凝視して私の返事が耳に届いていなかった。

 「ちょっとぉっ‼︎  ミチルってばっ、酷いじゃないのォ⁈デートならデートって言ってよねっ」  サヤカは少し怒って言う。

 「えええっ―、  デートって?」

私がキヨトンとしていると、彼女は顎を突き出し、見ろと合図する。正門の方角…


花は既に散ってしまってはいるが、みずみずしい新芽が5月の陽射しに光り輝く桜並木の中の本学正門。


 ( 先生の車!   超 目立つ… なんでよぉぉ!)

私が無意識に走りだしたので、サヤカも後からついて来た。 助手席の窓が下がると、サングラスを額に引っ掛けた先生が、

 「講義は済んだのか?」と偉そうに聴く。


 「あっ… ハイ」  私は従順に返事するのがやっとだった。

 「乗れよっ」  先生が命令する。


  (いきなりっ何よ)

サヤカが私のチュニックの裾を強く引っ張った。


「あっ、ひっ、ヒカルさん…あ、あのぉ 紹介しますっ、こちらっ友達の…」  私は完全に挙動不審者だ…


 「加藤サヤカですぅ 」  サヤカは笑顔で挨拶する。

「そ…、おいっ、早く乗れっ 編集者が待ってんだよ ―バカッ」

先生はイライラしながら私を急かす。

  (忘れてた…今日 締切だ…)


 「ごめん サヤカッ 私行くわ、こんどきっちり埋め合わせするからっ」

私はサヤカに頭を下げて助手席に乗り込む。すると、素早く加藤サヤカも行動した。  後部席のドアを開け勝手に乗り込んだのだ。

   「さっ、サヤカ!   」私は彼女のとった過激な行動に狼狽し慌てた。

   「ダメだっ てぇっ」   情けなく悲鳴に近い声を張りあげた。

先生は動じる事なく背後を一瞥すると…

   「チッ…」    舌打ちした。

腕時計で時間を確認すると、
   「‘3P’でもするかっ」  車を急発進さす。


 「さっ、さんぴぃ!ってぇ…」


 (ぁ…ったくぅ !エロおやじぃっ)

 「なにっ、バカ言ってんのよっ!」  私は、片手運転して用無しの先生の左手の甲を音がするほどピシャリと叩いた。
先生は無視を決め込むと、手の平を返して、私の手を逃さず握った。

  (っつぅ…かぁ…恥ずかし事しないでよっ…)

後ろのサヤカは抜け目なく私達を観察しているに違いない。

 「なにげにイチャイチャしてるよねぇ…」

 「何なら お姉ちゃんも参加するか?」

   (煽るなっ‼︎ )



本学からさほど遠くない住宅街に先生の家があった。
傾斜地の地形を活かした低層の集合住宅。

  (外観からいかにも高級そう)


先生はサヤカが後部座席で見ているのを知っていて、わざと私の手や指、手首に優しく愛撫を繰り返す。先生の指先の動きは厭らしい想像を掻き立てる。

「…ン」  サヤカの生唾を呑む音がやけに生々しく車内に響いた。

直接触れられている私は後ろにサヤカが居る事も忘れて…欲情してくる。  背後のサヤカの深いため息…  車は住宅の裏手から地下駐車場へ入って止まった。


 「おいっ、バカ娘共 っ 着いたぞっ」


私もサヤカもセックスを妄想していた。

先生の声で正気にかえったサヤカはスマホを弄りながら…

「ミチルぅ、私帰るわ…原宿まですぐだから…」


サヤカはバツがわるそうに、先生に会釈して駐車場の出口めがけて走っていった。


 「ふん…セックスしたくて我慢できないって顔だったな」


私は呆気に取られてサヤカを見送る。

「ボォッとしてんじゃねえっ、車から出ろ!」

先生は間髪いれず私の手を引っ張ると住居部分に繋がる出入口へ向かう。



先生は駐車場から居住区に繋がる 入口で認証システムのモニターを
凝視して、顔を認証させた。ロックの外れる音と共に、ドアが左右に開く。 私は手を引かれたまま先生の後に付いて進む。建物内の数段の階段を上り正面ホールのクロークで先生は、

「すまんが 一人  入室許可認証を登録してくれ!」

中からスレンダーな美女が出てきて応対してくれる。

私の顔の登録は簡単に終わり、先生はその女性の指示に従いサインを済ませた。

   (セキュリティは万全なんだ)

再び、私は先生に手を引かれエレベーターホールへ向かった。

 「これで、俺がいなくても、何時でも 仕事頼めるな」

先生は私の手を放したかと思うと、私の頭や頬を優しく愛撫し始める。 
  (感じちゃう)

車の中の愛撫を覚えている体の芯は、すぐに熱を帯びだす。じんわりと湧きだす泉を感じる。直接肌に触れられ撫でられ続けている私は、老獪な先生の愛撫に身も心も凋落され、立っているのがやっとなほどの快感に襲われていた。先生は両手で私の顔を挟んで屈み込みながら強引に唇を奪いにかかる。


低層階のエレベーターは時間差無くすぐに目的階に到着し、低いモーター音と共に扉が開く。エレベーターから人が降り立っても先生は、お構い無しに口づけをつづけ…

  「Oh!sorry about that~」

エレベーターの中から出てきた外国人カップルが目前の光景にクスッと笑う。私は先生の胸を押して離れようともがいたが びくともしない。それどころか先生の口づけはどんどんエスカレートして、私達はエレベーターの中に倒れ込む様に乗り込む始末だった。


      ( やだっ)


 
「うぅぅん ァァ…アッフゥ…」

激しさを増す先生の口づけに私は腰砕けの状態で倒れ込だ。たくみな舌使いに唾液があふれ、下半身の一点が沸点に達しようとしたその時、エレベーターは目的の階に着いた。 わずか数秒間、時間が止まってしまったような錯覚に陥っている私を尻目に先生は、あっさり唇を解放する。

…いつも 一方的で 乱暴な行為…優しいと思えば機嫌が悪い。


最強のツンデレ  最低のエロおやじ   乱暴で自己中


    だけど…  私はこの人に どんどん 惹かれていく。








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