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私生児として

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二人はうろたえる私など眼中になく、親子の会話を始める。

 「ヒカルさん、今日はお仕事より綾野さんを連れて来る事が目的だったんでしょう?」

女将さんは納得した表情で先生に言う。

 「まあ…そうゆうことです」

先生が女将さんと話している隙に私は頬を押さえた。

 (マジで抓るんだから…)


 「安心しましたよやっと、あなたにも守るべき存在が出来たって 事ですよね」

  (女将さんの話す意味?なっ、なにっ守るって 誰を?)

 「まあねぇ…そんなところですけど、まだまだ子供で手間ばかりかかりますが…」

私の頭に手を置く。

 「くれぐれも、綾野さんの学業の妨げになるようなお付き合いだけは許しませんよ、余所様の大事なお嬢様なんだから」


 「ええ、わかっていますよ…彼女の将来を妨げるような事は決してしません」

   (えっ、二人して誰の話しをしてるの?私はその会話に入 れてないんですが、彼女とか、将来とか、まるで保護者じゃん…………)

 「綾野さん、ちょっと乱暴な息子ですが、嫌わないでやって下さいね…」


 「あっ、おっ、お母様ぁ…嫌うだなんて!私こそさっきから大事な息子さんを 中学レベル だとか…ひどい事言いました、ごめんなさい…」

私は焦って正座し直した。

  「次からは、ミチルちゃんって呼んでいいかしら」

女将さんは優しい笑顔で私をみた。


   (何とでもお呼び下さい…)


 「まだ、ヒカルさんはお仕事残ってそうね…随分 邪魔をしてしまいました私もそろそろ休みますね」

     (お休みなさい)

女将さんである先生のお母さんが出ていったあと…
先生から、「おいっ、校正は?」


    (っ仕事かぁ…)

「ん、 まあ、 だいたい見てみれば?それより聞きたい聞かせて!知りたい 、教えて!」

この流れから先生の氏素姓は知る権利があると思った。


先生は私の手直しした原稿に目を通し、ときおり加筆している。欠伸がでる。足を投げ出し、やっとゆっくりくつろげる。立つのも億劫な私は、四つ這いで冷蔵庫の缶ビールを取りだし開けると一口飲んだ。 
そのまま先生の横まで這って行くと一緒にモニターの画面を見る。

  「ねぇ先生、おお先生ってだれ?」

先生の口から当たり前のように衝撃発言が飛び出した。
カチッ、カチ… カチ   ときおりタイピングしながら、

 「父親さ、とっくに死んだがね、俺は私生児さ…」

 「う…そっ」 っと、衝撃の告白‼︎ 思わず嘘と発声してしまった。

    (落ち着けわたし)

カチカチと未筆分の原稿に着手しだす先生は、そのことつまり…非摘出子について、気にしている様子は微塵もない。

 「一時、話題になった婚外子ってやつさ」

   (ちょっとォ… 旬な教材が目の前にいるじやん♪)


私はモニターの中身より先生の生い立ちに興味が沸き先生を穴のあくほど見つめた。先生は私の気配をとうに感じて

  「お前の魂胆がみえたぞ…」

原稿作成の手を止める事なく私の企みを察知した。


 「だめ かなぁ…」ちょっと甘える。


 「いいさ 、さっき お前の学業の邪魔はしないって おふくろの前で 誓ったからな…」


(…じゃあ …質問しちゃうよ… 失礼な質問もあるよ♪ 怒らないでねぇ~)


黒崎家は 地元でも代々地方の政財界に有力者を輩出する名門の家系だと 先生は私に話してくれた。最後は  “クソっ家系…”と付け足す事も忘れずに…亡くなられた 先生のお父さんは 黒崎家の三男で 医者になり、豊富な資金援助で地元に開業した。それが現在の黒崎総合病院の前身。


一代で 総合病院にまでした経営手腕は地元でも語り草だとか…
先生曰く
  “婆さんの実家の後ろ盾と黒崎一族の金がなきゃあそこまで大きくできなかった だろっ”   と毒づく。


 (よほど 嫌な目にあったのね…………だからこんな ヒネクレ者に成長したんだ…)

先生のお父さんは、地元の医科大学の学長の娘さん(婆さん)と いわば政略結婚し、一男一女を授かる

病院経営も、同族会社の検診を一手に引き受け 医科大学からは 入院患者を次々紹介してもらい 全てが順調だった。


先生曰く 、先生のお父さんは意外にも子煩悩で 外にできた先生を 不憫に思ってか、大変可愛がってくれたらしい。先生には10歳上の
義理の兄と、5歳下の義理の妹がいるらしい。

先生は 私の質問に、時々 苦々しく表情を曇らせる。

そんな時は 質問を変えてみる。

先生のお母さんは、実家が置屋さんをしていたので 当然のことながら中学を卒業すると、芸妓見習いとして 昼間は日舞 三味線 小唄 と
稽古に明け暮れ 、夜は定時制高校にかよう毎日だった。 
ある雨の日、踊りの帰り道 鼻緒が切れてまだ16歳の先生のお母さんは 蛇の目傘を持って 途方にくれていた。そこへ 通りかかったのが 先生のお父さん。

父親ほども歳の離れたおお先生と恋に落ちて芸者になるまえに先生を身篭り黒崎院長の援助で先生を産み育ててきた。
  
 (先生と女将さんは16歳しか違わない、だから若いんだ…納得)


「その後はお決まりコースさ」

先生は、パソコンから体を放し、ひと伸びすると、私の額にでこぴんしてニヤニヤする。

 「はぁん、燃え上がる禁断の恋なわけ」

 「知るかっ、俺が」

私は妄想が膨らんで ドラマのような現実にうっとりする…

  (さぞや美男美女のお似合いで、許されざる愛の結晶…)

 「で、ひねくれ者の先生が生まれて…悲劇の幕開けなんだっ…」

 「何が悲劇だっ…調子に乗りやがってっ 今からお前を襲ってヒンヒン鳴かすぞっ」

先生はいきなり 私に覆いかぶさり 開けた浴衣の胸元に唇を押し付けてきた。

 「あっ、ん、だめだってぇえ!  まだ続きが 聞きたいのっ」



先生は素早く私に馬乗りになって、難無く帯を解く。
浴衣は乱暴に脱がされ裸になった私を上から見下ろしながら、獲物をいたぶるようにゆっくりと、首元から鎖骨へ手指を這わせてきた。
先生の浴衣が肩から落ちて私の目の前に逞しい肢体が現れた。

  (先生の匂いを 早く嗅ぎたいっ)

私は、両手が先生の背中に届くよう目一杯腕を伸ばし二の腕を掴み肢体を引き寄せるが思いどうりにはいかない。

       (意地悪、悔しい!早く抱いてっ)

  「どうしてやろうか…」先生は厭らしく笑んでいる。

  「好きにして…  でも   言葉が欲しいの 先生の言葉…」

私は願った。どうか、この関係に先生の愛があるように…
  
  「なんて 言って欲しいんだ?…言葉なんかなんとでも言えるぞ…その場限りなら、それでも お前が、欲しいって言うなら…言ってやる」

先生は眼下の私に問い掛ける。厳しい言葉とは裏腹に、私を見つめる瞳は優しく温かい。


  「時々、確かめたいのは…本当に愛されているの?私を必要としてくれてる? 先生と会えない時は、不安になる…」 本心を吐露する。

  「弱虫め…」   先生はゆっくりと 私の体に近づき、体重を架けないようにしながらそっと囁いた。


   「愛している…絶対に逃がさない」  

甘い告白とは、言い難いが私の心を蕩けさせるには充分だった。


  「絶対 私を離さないで!」
やっと届いた先生の背中に両手を回して引き寄せた。

  「先生と一つに繋がりたい !」願いを言葉にする。

先生は一瞬戸惑いの表情を浮かべ、
  「俺もお前となら…と、思っているさ、前にも言ったよな?
俺は避妊しないと…今はまだ、お前が妊娠するような 事は、したくない」    真剣な眼差しを私に向ける。

  「私  、先生の赤ちゃんなら喜んで産むよ」
正直な気持ちだった。

  「子供を育てるって ? 自分の夢や将来を捨てて…か」

先生は、私の身体から離れ 横に寝転がり大の字になって天井を見つめる。

  「お前の今の夢は?」  その問い掛けに

「なれるものなら 父と同じ検察官になりたい…でも今は…」と、言いかけて言葉に詰まる。

「今は  なんだ?」

先生は横に体の向きを変え、私を見る。
 
「今は、先生の事で いっぱい」



私は気恥ずかしくて、先生の胸に顔を埋める。

  「まだまだガキだよな… 俺は、お前から離れて何処にも行かない…例え  近くにいなくても お前とできた絆は、ずっと続くだろうと思っているぜ 」

先生は私の頭を片腕に抱き寄せ、空いている腕は私の腰に置く。

 「お前は今、すべき事を全力でやれっ 夢が現実になるようにな、
そのためだったら俺は、どんな協力だろうが惜しまない  お前の夢が検事なら、実現した瞬間を俺に見せてみろ! “ガキ” なんてその気になればいつでも作れるだろ?  俺のように、たまたま出来た…なんてその子にとっちゃ 迷惑な話しだ、違うか?」

 先生から、大切な何かを貰った気がした。


 「俺は、目標を掴み取る…必ず」

     (先生の目標って⁈)

 「教授?」


 「ふぅん…さてな…まぁ、先に目標見つけねぇとな」

先生はニヤつく。

 「はぁ!   目標無いのにテキトーすぎじゃん!」

それから、先生は自分の事を話し始めた。


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