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先生の本心

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 「さあ、お嬢さん足元にお気をつけてくださいね、さぁどうぞ」

綺麗な女将さんにお嬢さんと呼ばれ照れてしまう。

 「ふぅん、お嬢さんかねぇ…この跳ねっ返りがさ」

先生は憎まれ口を叩くくせに私の手はしっかり握ったまま離さない。 

  (全くぅ いい歳してさ ツンデレなんだから…)

先生のお気に入りの客室は、中庭を通り抜け小川が流れる石橋を渡った奥   小さな竹林の中に佇む入母屋造りの檜皮葺きの離れ家。
玄関を入るとすぐに応接間があった。 奥にも部屋がある。

  (いかにもビップ御用達の隠れ家)

廊下の奥が浴室と思われ、水の流れる音がする。


 「先生、先にお食事でよろしいですか?」

女将さんが座布団を進めてくれる。先生は足を投げ出して靴下を脱ぎながら、

 「そうしてっ、それからビールと…」

私の物欲しげな顔を軽く見て、

 「面倒くさいな、ビ―ルにして」

   (って、面倒くせぇって…しかも靴下脱ぎだして…行儀わるいったら、)

 「お嬢さんもビールでよろしいですか?」

女将さんが気をきかせて聞いてくれた。

 「私…酎ハイのライム、お願いします」

何故か頬が火照る。

 「ったく、安い居酒屋じゃないんだぜっ、ここはっ!」

先生は離れ家に入った途端、本性を現し始めた。女将さんは笑顔を絶やす事無く、柔らかい物腰で

 「酎ハイライムでございますね、かしこまりました」

私の希望に答えてくれた。


宿の女将さんが退出すると、先生は立ち上がり後ろを向
きに服を脱ぎ出した。 見るまに裸になって浴衣を手際よく着流す。
父親や弟が脱ぎ捨てた服はいつも、片付けるのが癖になり私は、先生の服もきっちり折り目を合わせ折りたたんでいく。

  (ったく、子供みたいに服を脱ぎ捨てるんだから…)
文句がでてくる。


  「くっくっ…あはっははは!」
先生は大笑いする。

  「な、なによっ」

  「お前 母親か?」  先生は私がスラックスの折り目を直しているのをわざと邪魔をして

  「だめだってばっ」   先生の邪魔な手を払いのける。

悪戯っ子のように、私の背後から抱き付き、邪魔をすることを止めない。

  「もうっ」先生の手の甲をひっぱたく。

スラックスを折りたたむとカッターシャツもたたむが、

   「ふぅ、衿が汚れちゃってるよ… こんなの着て行っちゃダメだよ」

独り言を呟くと、
  「大丈夫だよ クリ―ニングにだすから…お前も着替えたらどうだ」

私に向かって浴衣をほうり投げてきた。浴衣を持って隣の襖を開ける。夫婦布団が二組敷かれ、枕も対で並んでいた。

  (ダメ ダメ恥ずかしすぎる)

私は手に持った浴衣に顔を埋める。


  「馬鹿ッ、スケベなこと想像しただろ?お楽しみは後だ、さっさと着替えろっ」

先生は私の背中を押して襖をピシャリと閉めた。


そういえば、浴衣は叔母にいつも着せてもらっているから自分で着た記憶がない。

    (まあー いっかぁ…ブラジャーとショーツは付けてなきゃ…)

浴衣一つ着れない私がもたついている間に


 「なに、やってんだっメシきたぞ」

いきなり襖が開いた。

     (うわっ‼︎)

浴衣を左前にして 帯を胸近くで結んだ私の姿を見た瞬間、先生はその場に転がり込みお腹を抱えて大笑いしだした。

「ハッハッハッハッひッひッっひッひぃひぃッひぃッ 」

先生は涙を流して笑い転がり

 「あ―ひひひひぃたい 腹いたいっ」

私は芋虫の様に転がる先生を醒めた目で見下す。
のたうちまわる先生の浴衣がはだけ、

  (せんせい、大事な息子さん出てますよ…ったくぅ…忌ま忌ましぃ奴め…)

 「おっ、お前ぇ  座敷わらしかぁ」 

私は横を向いた。 (馬鹿オヤジ…)

 「笑ってないでっなんとかしてよっ!」


ようやく落ちつきを取りもどした先生は面倒臭そうに立ち上がると、まだヘラヘラと笑いながら私の浴衣の帯を解き浴衣を開く。私の裸の鎖骨や首筋に少しキスして襟を右前に重ね直し帯を口でくわえた。



口にくわえた帯の両端を持ち、私の腰に当てると両手を後ろに回し器用に 結ぶ。その間、私は手も足も出ない。
結ぶ動作が二人の体を密着させ、浴衣越しにお互いの息遣いまでまじかに伝わってくる。結び終わっても 先生は、私を解き放そうとせず、耳元で囁いた。

  「ムラムラしてきた 」 

先生は私の耳をぺろっと舐めてみせた。

  「んんっ、くすぐったいって! だめだってばっ」

私は先生から離れようともがくが、力が及ばない。

  「お腹すいてるの‼︎ 早く食べたいって」  

それは本当だった。
お昼にラザニアを半分食べたきり何も口にしていない。先生は太れと命令するが食べる機会を与えてくれない。お腹が空いたの訴えに、先生はあっさりと降参した。

   「ったくぅ色気ねぇ なあぁ…おらぁっメシ食うぞっ」

床の間を背に上座へどかっと座ると、座卓に列んだ見事な懐石料理にいただきますも言わず手をつけだした。

なんだか、そのやんちゃな行動がかわいくて…つい微笑んでしまう。


  「なに見てんだっ 腹へってんだろ!さっさと食え」

エッチのお預けで、拗ねていた。


仲居さんが先付、椀物、と絶妙のタイミングで料理を運んできた。
焼き物 洋皿 と並んだところで、空腹も満たされてきた。

  「さっきの質問なんだけど…答えが欲しいの」

先生が酔ってしまわない内に解決したかった。

  「さっきの質問…なんだ それ?」

先生は、不思議そうに私を見た。


  「弟の手術費の件よ、安すぎるのよっその訳を知りたいの」

私は一歩も譲らない気持ちで 強く問いただした。


  「お前の弟の手術費用は、教室の研究費で賄ったよ…研究対象の疾病だから、オペは学生に見学させたが…」

  「えぇぇっ!そんな話し、一言も聞いていないよっ」

腹が立ってきた。
「ひどい…見世物にしたぁ」


 「あれぇぇ‼︎ 只野に了解貰えって指示したはずだがなあぁ」

しらばっくれるからますますイライラが募る。

 「責任逃れじゃないの!だいたい、執刀医は先生なんだから説明責任は先生にあるんでしょっ⁈  たくぅ!」  私はまくし立ててた。

先生に誤魔化されないよう酎ハイをぐいっと飲んだ。


 「お前さ、そういえば家族説明いらんと…たしか言ったよな?」

先生はこの期に及んで卑怯な反論を展開しだす。


「この卑怯者! あの時“まあいいか”って、はしょろうとしたのは先生なんだよっ」


 「なに言ってんの?センセーが、嫁が居ながら若い女に手ぇ出したんでしょ バカヤローはどっちよっ   離婚裁判じゃあっ負け確定だから!
私まで慰謝料請求されたら踏んだり蹴ったりだっつうのっ!」

 「クッソォ、お前っ!! そんな事考えながら俺と寝たのかぁ」

先生もビールを煽る。

 「だいたいっ、俺は独身だっ、正真正銘の独り身だ、 誰とセックスしようが他人の知ったこっちゃねぇんだよっ バーカ!」
 
私は焦った。

 「えっ…嘘っ、うそ  独身って?」

動揺を見破られないよう…仲居さんを内線電話で呼ぶ。


 「酎ハイィ ウーロン割りで  」

胸が高鳴り顔は酔っ払って真っ赤だ。

   (マジ、マジ、ウソだー…)

 「ムカつく女だぁ テメェみたいなのが裁判官?検察官?ちゃんちゃら可笑しいぜ」

先生もビールを飲み干すと
 「お~い ビールっ」と大声で注文する。



「さっきから、アタシの事  バカバカ言ってくれてるけどさ、離れだから!此処は‼︎   聞こえないよ…ばーか」


しばらく、お互い横を向いたままお酒を飲む。沈黙に堪えられなくなったのは私だった。

  「じゃ…何故襲ったのよ?」


  「襲っ…たって…くそ生意気なガキだと思っていたら女だったお前が悪い!」

先生のへんな屁理屈を私は

「意味わかんな無いんですけどぉ 」
とバカにした。


 「つまりだ、俺はあの時…お前が欲しいと思ったんだよだから襲った」

私の頭に血が上り くらっとした。

     (“わたしが欲しかった”ぁって!!!)

先生に告られた。   私はそのまま貧血で失神した。







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