OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十五話 エルサ平原とハイキング

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  ……エルサ平原……


  南西大陸の約1/4を占める大平原……エルサ平原……。
  南西大陸の南部へ向かうには、必ず通らなければならない、この壮大な平原には遊牧民エルサの民が、四季に応じて各地帯に居住を構えている。
  夏から秋にかけてのこの時期は、エルサ平原中部に民はテントなどで居住をしていた。
  ロック達を乗せた飛空挺ウィングはエルサ平原中部に着陸し、一同はその地に立った。
  多くの旅人達がこの平原を通過するため、ロック達の出現にエルサの民達は驚く事はなく、それどころか歓迎しているようにも思えた。
  ロック達が平原に降り立つとすぐに、族長らしき者が、従者二人を従え馬に乗って現れた。
  肌は色黒で体格が良く、獣の皮や鳥の羽で作られた民俗衣装を着ている。
  族長らしき者は白髪頭で、そこそこの高齢者だったが、体格が良く年齢を感じさせない程の活気がみなぎっていた。
  族長らしき男が、ロック達に言った。
 「タジフ族族長の……マルコ・タジフだ。何用でこの平原に立ち寄られた?」
  マルコの疑問は的を得ていて、飛空挺乗りの殆どは、この平原を通過するため、平原に着陸したロック達は珍しかったのだ。
  マルコの問に、ギルが答えた。
 「エルサ草を補給したい……」
 「エルサ草か……ライフシティーに大量に送っているが……。ライフシティーの現状では致し方ないか……」
  ライフシティーの体制が変わった事を、どうやらマルコは知っているようだ。
  ギルは表情を明るくした。
 「そうか……なら話しは早ぇな……。すまねぇが幾らか譲ってくれ」
  マルコは目を閉じて言った。
 「残念だが……今、主らに譲るほど……エルサ草は余っていない……」
  ロックは口を尖らせた。
 「ケチな事を言ってんじゃねぇよ……」
  ロックの態度に、マルコの従者がムッとした感じで言った。
 「族長はそういう事を言われているのではないっ……今あるエルサ草は全て、送り先が決まっているのだ」
  するともう一人の従者が言った。
 「摘んでもいいのだが……別の仕事があるので、収穫に人を回せないのだ」
  従者の話にギルは難しい表情になり、ロックは口を尖らせたまま言った。
 「最初からそう言えよ……」
  するとエリスが、ロックの頭を叩いた。
 「アンタが最後まで聞かないからでしょっ!……それにしても困ったわねぇ……」
  ロックとエリスの掛け合いを無視して、ギルが言った。
 「だったら……俺が摘んできていいか?」
  ギルの言葉にマルコ達は目を丸くした。
  するとまたロックが口出ししてきた。
 「何だよ……そこまでして、いるのかよ?」
  ギルは険しい表情でロックに言った。
 「長旅には必ず必要だ。俺も少しは持っているが、圧倒的に足りねぇ……。それにその名の通りエルサ草は、ここでしか採れねぇからな……」
  ギルは再びマルコに言った。
 「俺はライフシティーの人間だ。エルサ草は何度も摘みに来ている……。アンタら別の仕事があるなら、専用鎌も使わねぇだろ?」
  マルコは少し目を閉じて考え……しばらくするとギルに言った。
 「いいだろ……ただし、平原のルールは守れよ……。後でキャンプに来るがよい……釜を貸してやる」
  マルコはそう言うと従者を従え、馬を走らせ帰っていった。
  すると今まで黙っていたユイが言った。
 「何か体がゴツすぎて圧倒されたよ……」
  ギルがユイに言った。
 「エルサの民は武骨な連中だが……悪い民族じゃねぇよ……。この地を大切に想い文化を継承する……純粋な民族だ」
  ロックはギルに言った。
 「それで……どうすんだ?皆で採りに行くのか?」
 「そんな大勢で行くもんじゃねぇよ。そうだな……俺ともう一人身軽な奴がいればなぁ」
  ロックとエリスは揃ってユイを見た。二人の視線を感じたユイは、少したじろいた。
 「なっ……何っ?……まさか……」
  ロックとエリスは揃ってニヤリとした。
  その二人の様子を見て、ジンが言った。
 「決まりだな……」
  ユイは目を丸くした。
 「アッ……アタシィッ!?」
  ロックは言った。
 「身軽つったら、ユイだろ……」
  エリスも頷いた。
 「隠密だしねぇ……」
  ギルが言った。
 「俺は構わねぇが……」
  ユイは勢いよく首を横に振った。
 「やだよっ!何でアタシがっ!?……ロックだって身軽だろっ!」
 「男二人でハイキングなんて、できっかよっ……」
  ロックにそう吐き捨てられると、ユイはすがるような目でエリスを見た。
  エリスは苦笑いした。
 「わたしは……身軽じゃないし……」
  するとジンが言った。
 「私はやる事がある……」
  ユイはすかさずジンに突っ込んだ。
 「アンタには期待してないよっ!」
  するとギルが言った。
 「俺はとりあえず、族長に鎌を借りてくるぜ」
  ギルにジンが言った。
 「だったらエアバイクを使え……平原を走るくらいなら使える」
  ユイはげんなりした表情で言った。
 「お~い……勝手に話を進めないでよぉ……」
  ロックは飛空挺に戻ろうとした。
 「んじゃ俺はもう一眠りするかぁ……」
 「じゃあ、わたしは昼食の準備を……」
  エリスはそう言うと、ロックと一緒に飛空挺に戻ってしまった。
  ジンがギルに言った。
 「ついてこい……エアバイクがある場所に行く」
 「助かるぜ……」
  ジンとギルも飛空挺に戻り、ユイは平原に取り残されてしまった。
  ユイは飛空挺に戻る仲間達を、恨めしそうに眺めながら拳を握りしめた。
 「アイツら……覚えてろよ……」


  ……一時間後……

  ギルはあれからすぐに、エアバイクに乗ってタジフ族のキャンプへ向かい、専用鎌を二本借りて戻ってきた。
  ギルはジーンズに赤のストライプのシャツを羽織った格好で、とても薬草摘みに行くような格好ではなかったが、いつものスラックスとカッターシャツの格好よりかは、ラフだった。
  一方のユイはいつものホットパンツに、白のT-シャツでいつも通りの格好だ。
  二人に共通しているのは、大きな筒状の籠を背中に背負っている事だ。
  ギルに至っては黒の手提げ鞄を持っている。
 「準備はできたな……」
  ギルがそう言うと、ユイは不機嫌そうな表情で言った。
 「はぁ~……何でアタシが……」
  ユイの様子を見て、二人を見送りに来ていたエリスが言った。
 「まだ言ってる……。ギルの鞄にお弁当入ってるから、適当に食べてね」
  エリスがそう言うと、ギルは自分が持っていた大きな籠とユイの持っていた籠を、バイクの両サイドに引っ掻けた。
 「ありがとよ……助かるぜ……」
  ギルは鞄を前かごに入れると、バイクにまたがった。
 「行くぞ……。さっさと後ろに乗れ……」
  ギルに促され、ユイはバイクの後部座席にまたがろうとしたが……籠が邪魔で上手く乗れない。
 「乗りにくいなぁ……籠が邪魔だよ……」
  ギルは眉間にシワを寄せた。
 「チッ……文句が多いなぁ、テメェはぁ……。少しの間我慢しろ」
  ユイはぶつくさ言いながら何とか後部座席にまたがった。
  ギルはユイが乗ったのを確認すると、エリスに言った。
 「夜には戻るからよぉ……」
 「わかった……。何かあったら通信オーブで連絡してね」
  ギルはエリスに手をあげて返事すると、アクセルをふかして、エアバイクで走り去った。
  疾走しどんどん小さくなっていくバイクを眺めて、エリスは呟いた。
 「大丈夫かなぁ?あの二人……」
  ギルとユイを乗せたバイクは、エルサ平原中部から北東に向かった。
  ユイは後部座席からギルに言った。
 「何処に向かってんのっ!?」
  ギルがハイスピードでバイクを走らせているために、ユイの声は轟音でかき消されそうだった。
  ギルはユイに大声で言った。
 「北東に崖があり、そこに川が流れているっ!エルサ草はその川にあるっ!」
  ギルは川に向けて、エアバイクを失踪させた。
  後部座席に乗っていたユイは、その平原の広さにただ圧倒されていた。
  広大な平原の先には正に地平線が広がっており、行く先のところとごろに、鹿や猿等の動物達が生息している。
  今のところ獰猛な肉食獣は確認できていないが……油断は禁物だ。
  バイクを走らせる事を約30分……バイクはいつの間にか森林地帯に差し掛かった。
  するとギルは森林の手前でバイクを停めた。
 「ここから歩いて行くぞ……」
  ギルはユイにそう言うと、バイクから降り立った。
  ユイもバイクから降り立ったが……結構な時間をバイクに乗っていた為に、体が少しフワついている。
  ギルは森林を指差した。森林はそこまで深くなく、見通しもそこまで悪くは無さそうだ。
 「この森林を抜けたところに、川がある……。ついてこい」
  ギルはそう言うと、鞄を手に持ち、籠を背負って歩き出した。
 「ちょっとっ……待ってよぉっ!」
  ユイは慌てて籠を背負ってギルの後を追った。
  森林独特の薄暗さは感じなかったが、雑草等が生え散らかしており、ホットパンツのユイは少し歩きにくそうだ。
 「着てくる服を間違えたかなぁ……」
 「ダァホが……」   
  ユイのぼやきに、ギルが悪態返すと、ユイはムッとした表情でギルに言った。
 「それにしても、医者と思えないくらいガラが悪いよなっ……」
 「るっせぇ……ほっとけよ……」
  ユイは気にせず続けた。
 「ギルってさぁ……暗殺の業使えんだろ?何で医者なのに、そんな業を覚えたの?」
  ユイの何気ない一言に、ギルの表情は一瞬反応したが……ユイの前を歩いていた為に、その表情をユイは気づかなかった。
 「護身用に身に付けた体術が……たまたま暗殺術だっただけだ……」
  ユイは難しい表情をした。
 「変なの……。まぁアタシも産まれた所が、隠密の里だったから隠密になったけど……ギルの場合も同じでしょ?医者の町なんだから」
  ギルは軽く舌打ちをして、ユイに言った。
 「よく口の回るガキだな……さっさと歩けよ……」
  ユイは激昂した。
 「ガキじゃないってのっ!」
  激昂したユイに、ギルは悪どい笑い顔を見せた。
 「怒ってる暇があったら歩けよ……知らねぇぞはぐれても……。先日もここで一人行方知れずになったみてぇだからな……」
  ユイは目を見開いて、スタスタと歩くギルとの距離を縮めた。
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