OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十五話 エルサ平原とハイキング

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  「着いたぜ……。とりあえずここで昼飯食うぞ……」
  その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ユイの表情は明るくなった。
  それもそのばずで、ギルとは違いユイにとっては、あてもなく森林をひたすら歩くというのは、これ以上にもない苦行と言える。
  ギルの言葉によってその苦行が終了したのだから、表情が明るくなるのも当然だ。
  着いた先はちょうど森林を抜けて、目前には緩やかな崖があり、その下には大きな川が流れている。
  ギルは適当な岩に腰をかけて、荷物を地面に置いた。
  ユイもギルの様に座りたがったが……適当な腰掛け岩がない。
  そんなユイに対して、ギルは自分の鞄から、綺麗に折り畳まれた小さなブルーシートを、ユイに投げた。
  ユイはそれをキャッチすると、ギルに対して目を丸くした。
 「それを敷いて座れ……小さいが……飯食うぐらいならできるだろ……」
 「あっ……ありがと……」
  ギルの無愛想な優しさに少し戸惑いながら、ユイは小さなブルーシートを地面に敷いて、チョコンと座った。
  ギルは鞄から長方形の箱を取りだし、一つをユイに渡した。
  箱を開けると中には、三角おにぎりが箱に敷き詰まっていた。
  おにぎりの登場に、ユイの表情はさらに明るくなった。
 「やったっ……おにぎりだっ!」
  ユイの喜んだ様子に、ギルはニヤリとした。
 「そういう所がガキだな……」
  ガキというフレーズに、いつもなら激昂するユイだが……おにぎりの登場により、ギルの耳障りな言葉はかき消されたようだ。
  ユイは箱からおにぎりを一つ取り出した。
 「いただきまぁ~すっ!」
  ユイが勢いよくおにぎりにパクつくと、ギルも同じようにおにぎりを口にした。
  シンプルな塩むすびだったが、歩き疲れた二人の体には、ちょうど良い味だった。
  昼食を始めてしばらくすると、ギルがユイに言った。
 「お前は何で……あの飛空挺に乗ってんだ?……姉ちゃんは、バァさんが退院したら、故郷に帰るんだろ?」
  ギルの問に、ユイは少し難しい表情をした。
 「う~ん……なんだろ?ハッキリとはわかんないけど……ロックとエリスって、なんか頼んないでしょ?まぁジンはそうでもないけど……。それに大バァが言った事もあるし……」
 「バァさんが……何を言ったんだ?」
 「隠密に囚われず、違う道を探せって……本人が隠密を教えたのに……変だろ?」
 「それがアイツらにあるのか?」
  ユイは苦笑いした。
 「どうだろ?……でもロック見てたら、そんな気もするよ」
  ユイの言葉から察するに、ロック達にその可能性を見出だし、行動を共にしている事はギルにも察する事は出来たが……。
 「似た者同士か……俺とお前は……」
  ギルの呟きに、ユイは目を丸くした。
 「どこが?アタシはそんなガラ悪くないよ……」
  ギルは失笑した。
 「そんな事を言ってるんじゃねぇ……。独り言だ……気にするな」
  人を生かす業と、殺す業……両方を持っているギルは、いわば光と影を両方持っている。
  そしてユイに至っては、隠密の道……すなわち影の道を歩いてきたが、それとは別の光の道を歩こうとしている。
  ギルはこういったところを、似た者同士と表現したのだろう。
   ギルがそんな事を考えているのをよそに、ユイは次々とおにぎりを口に放り込んでいる。
 「おい……しっかり噛んで食わねぇと……あっ……」
  ギルがユイの早食いを注意した時だった。
 「どうしたの?」
  ギルの唖然とした表情を気にしつつ、ユイが次のおにぎりを手に取ろうとした時だった……。
 「……んっ!?……」
  ユイは怪訝な表情をした……箱におにぎりが無い……。
  ユイは箱を手に持って中身を確認したが……箱の中身は空っぽになっており、ユイは目を丸くした。
  全て食べてしまったのか?……いや、そんなはずは無い……。
  ユイが辺りを見渡すと……なんと一匹の猿が、ユイのおにぎりを奪っていたのだ。
  ユイはおにぎりを奪った猿に激昂した。
 「さっ、猿っ!アタシのおにぎり……返せっ!」
 「キィーーッ!」
  激昂したユイに驚いた猿は、おにぎりを持って逃走した。
 「このエテ公がぁっ!」
  ユイは腰のホルダーから投げ針を取り出して、猿を追った。
 「おいっ!……ちょっと待てっ!」
  ギルは慌てて荷物を片付けて、鞄を手に持ってユイと猿を追った。
  猿は軽快な動きで森林を崖沿いに逃走していく、それを追うユイも猿と同じように軽快な動きだ。
 「どっちが猿かわかんねぇぞ……」
  後方から追うギルは、呆れた様子だ。
 「待ちやがれっ!エテ公っ!」
  ユイはそう叫ぶと、投げ針を猿目掛けて勢いよく投げた。
 「キィーーッ!」
  しかし猿はユイの投げ針を身軽にかわして、さらに逃げる。
  投げ針を猿に避けられたユイは、さらに激昂した。
 「上等だっ!捕まえて、逆さ釣りにしてやるぅっ!」
  ユイは猿を捕まえるのに必死になっているが……当の猿はまるで、追ってくるユイとギルをからかう様に、少し距離をとっては二人を待ち、さらに距離をとっては二人を待つ……ずっとこの繰り返しだ。
  その猿の態度にユイの頭にはさらに血が昇る。
 「ムキィーッ!このクソ猿がぁっ!」
  少し後ろを走るギルはそんなユイに呆れ気味だ。
 「どっちが猿だかわかんねぇな……」
  ギルは呆れてはいたが、猿の逃げ方に少し違和感を感じた。
 (それにしてもあの猿……ほんとに俺達をからかってんのか?……どっかに案内してる様にも見えるが……)
  猿を川に沿って追っているうちに、崖の高さは低くなり、すんなりと川まで下りれるぐらいの高さまでなった。
  猿はユイの投げ針を回避しつつ、川沿に入った。
  後を追うユイとギルも、猿が辿るルートを沿って走る。
  すると猿は少し川沿を進むと、またもやその足を止めた。
  猿の様子にユイはニヤリとしたが……その目はまるで親の敵を追い詰めるかのような、鋭い目だった。
 「はぁ……はぁ……。この猿……やっと観念したか……はぁ……はぁ……」
  長時間走らされた事により、流石のユイも息が上がっている。
  少し遅れてギルも到着したが、ユイは既に投げ針を構えており、その照準は猿に向いていた。
  しかしギルはそんな狙われた猿に、またもや違和感を感じた。
 「待てっ!なんか様子が変だぞっ!」
  ギルの違和感をユイは知るはずもなく、猿を威嚇した。
 「様子ぅ?知るかっ!」
  ギルは違和感の正体を理解した。
 「岩影だっ!なんか出てるぞっ!」
  ギルの言うように、猿の背後の岩影から何やら出ていたが、ユイの知ったことではなかった。
 「覚悟しろっ!エテ公がぁ!」
  ユイが投げ針を投げようとしたその時……ギルが猿に向かって突進した。
 「あっ!ギルッ!……アタシの獲物をっ!」
 「ダァホがっ!言ってる場合じゃねぇっ!ありゃ人の足だっ!」
  ギルはそのまま岩影まで走り、猿の背後の岩影を確認したが……。
 「こりゃあ……」
  ユイは目の前の猿と、険しい表情のギルに、少し困惑気味になりながらも、ギルの元へ向かった。
  ユイはギルの目の前の光景に唖然とした。
 「何なんだよぉ……これ……」
  ギルの目前には足を怪我した男が倒れていた。
  ギルは男の側にしゃがみこみ、男の容態を確認するべく、男を調べ始めた。
 「息は……ある。死んでねぇが……気を失ってるみてぇだ」
  ギルの言葉にユイは、猿の事など忘れて安堵の表情をした。
 「よかったぁ……」
 「コイツ……タジフ族の族長が言っていた、行方知れずになった奴だな」
  ギルがそう言うのも、倒れている男の服装は、タジフ族が着ていた民族衣装だった。
  ギルは険しい表情で男に声を掛けた。
 「おいっ!しっかりしろっ!」
  ギルの呼び掛けも虚しく、男は無反応だった。その様子をユイは心配しながら見ている。
 「水を持ってきてくれ」
  ギルがユイにそう言うと、ユイは慌てた様子で腰に下げた水筒を、ギルに渡した。
 「衰弱してやがる……無理矢理水分採らせねぇと」
  ギルは強引に男の口を開けて、水筒から水を流し込んだ。
  男の口に流し込まれた水は、男の喉をに襲いかかり、水は口から溢れている。
 「ゴホッ!ガハッ!」
  流し込まれた水のかいがあってか、男はビックリした様に咳き込んだ。
  ギルは男を座らせて背中をさすった。
 「よし……。おいっ、大丈夫か?」
  ギルの呼び掛けに反応した男は、うっすらと目を見開いた。
 「ゴホッ!ゴホッ!……こ、ここは?……」
 「動くんじゃねぇぞ……足を怪我してるからな」
 「怪我……そう言えば……崖から落ちて……」
  ギルの言葉も理解しているようで、男の意識は無事に戻ったようだ。
 「もう心配いらねぇ……俺は医者だ」
  ギルは男の怪我した右足を診ている。
 「脛の腫れが酷いな……折れてやがる」
  ギルが患部に触れたことにより、男の表情は痛みで悶絶した。
 「ぐあっ!」
  男の様子にユイも思わず顔を、手で覆った。
 「少し痛むが我慢してくれ」
  ギルは自分の鞄から、長方形の板を数枚取り出して、それを使い包帯で患部を固定した。
  ユイはその手際の良さに思わず呟いた。
 「ほんとに医者なんだ……」
  ユイの呟きに、ギルは表情をひきつらせた。
 「今さらかよ……。お前んとこのバァさんも診てたろが……」
  ギルの応急処置はひとまず終了し、皆の表情はそれぞれ余裕を取り戻した。
  ギルは鞄から自分の弁当を取り出して、男に渡した。
 「食えよ……何も食ってねぇんだろ?」
  男は泣きそうな表情で、おにぎりにむさぶりついた。
 「はいっ……んぐ……ありがとうございますっ……んぐ……」
  ギルは微笑した。
 「へっ……礼ならそこの猿に言いな」
  ユイのおにぎりを奪った猿は、男を心配そうに眺めている。
 「その猿が、俺達をアンタの所まで連れてきたんだ」
  ギルの言葉にユイは目を丸くした。
 「そうだったのっ!?……だったそう言えよっ!」
  ギルは呆れた様子で言った。
 「猿に言葉が話せるかよっ!ダァホが……」
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