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159話、最速で終わる夕食
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「私、メリーさん。今、あなたが作ったお味噌汁を飲んで、色々確かめているの」
『研究熱心だね。飲んでみて、何か分かった?』
「特に変わりなく、安定してすごくおいしいわ」
『よっしゃー。今日も、ちゃんと作れたみたいだね』
そう。毎日毎日、安定しておいしい。風味に差異を感じず、違和感もまったく覚えない。この味だけ突出しているのが無いのよ。
常に大好きな味の、お味噌汁を必ず飲めている。普段は、そこに意識を向けることなんて、一度もなかったけれども。改めて思うと、これってかなりすごいわよね。あっ、全部飲んじゃった。
「メリーさん、夕食出来たよー」
「……これって、冷やし中華じゃない」
冷やし中華。夏の定番であり、風物詩とも言われている料理。なんでも、『冷やし中華始めました』という専用の呪文も存在するらしく。
この文字が記された看板や、旗が店先に並ぶと、夏はようやく本番を迎えるとか。つまり私達の夏は、たった今迎えた訳になるわね。
見た目は、インターネットやテレビで観た通りだ。千切りされた錦糸卵、キュウリ、ハム。赤と白の細長い物体は、確かカニカマってやつね。
中央に添えられた真っ赤な物が、紅ショウガ。で、皿の縁に、ちょんとあるのがカラシ。
もし塊を食べたら、辛くて悲惨な目に遭いそうだし、よーくかき混ぜて馴染ませないと。
それにしても、各具材が均一で綺麗に配置されているわね。真上から見てみると、しっかり四等分に並んでいるわ。
「いえすっ。さあさあ、夏を食らいまっせ~」
「そうね。じゃあ、いただきます」
「いっただっきまーす」
食事の挨拶を交わし、右手に箸を持つ。左手で皿を少し傾けて、具材や麺の下に隠れていたタレを集め、カラシを馴染ませていく。
素早くかき混ぜると、琥珀色だったタレが薄黄色に濁っていった。よしよし。目立った塊は見当たらないから、このまま麺と具材をかき混ぜてしまおう。
「さあ、食べるわよ」
具材の下にあった麺の姿が、大体現れた所で麺をすくう。最初は具材ばかり見ていたから、あまり意識していなかったけど……。
この麺、量が結構多いわね。ハルのことだから、二人前ぐらい作っていそうだわ。
「んん~っ。サッパリしてて甘酸っぱい」
まず先行するは、麺に絡まったタレのマイルドな甘酸っぱさ。想像していたよりも酸味は強くなく、適度が甘さが加わっているので、むしろ食べやすい。
そこに、カラシの柔らかな辛さがプラスされ、食欲をピリピリ刺激してくるから、タレだけで麺がグイグイ進みそうな風味になっている。
そして、肝心の麺よ。冷やし中華と名前になっているぐらいなので、麺は芯まで冷えていて、喉越しが抜群に良い。
あと、冷やしたことによって、麺全体がキュッと引き締まり、一本一本に確かなコシと食べ応えを感じるわ。
「うん。麺が冷たくておいしいから、どんどん食べられちゃうわ」
「んっふ~。麺が美味しいから、無限に食べられるや」
ニンマリとしながら麺をすするハルの頬が、リスみたいにどんどん膨らんでいく。いくらおいしいとはいえ、流石に頬張り過ぎじゃないかしら?
「……でも、なんだかあんな風に食べたくなっちゃうのよね」
少量の麺をすすっても、なんだか物足りなさを感じ。口の中がいっぱいになるまですすると、言いようのない満足感を得られるのよ。
この特殊な満足感は、そうめんでは得られなかった。しかし、冷やし中華の麺は、頬張れば頬張るほど満足度が高くなっていく。一体、なぜなのかしら? 不思議だわ。
そして、麺ばかり食べちゃうから、各具材が余りに余っている。当然、ハルもそう。麺の残りが一割付近に迫った所で、ようやく他の具材を食べ始めた。
ていうか、たった今気付いたけれども。今日の私達、食べるスピードがとんでもなく早くない? 自分の皿を覗いてみたら、麺が完全に無くなっていたわ。
「もう麺が無くなっちゃった……」
「冷やし中華ってスルスル食べられるから、無くなるのが早いんだよね~。ふうっ、美味しかった。満足満足、ごちそうさまでした~」
食事の挨拶を交わしてから、体感的に七、八分で、ハルが冷やし中華を完食した。やや遅れを取ってしまったけど、私もそろそろ食べ終わるわね。
タレが染み込み、酸味が和らいで甘さが際立つキュウリ。逆にタレを跳ね除けて、可愛げな肉肉しさと濃い甘さを主張するハム。
こちらも酸味が負けて、素材本来のコク深い甘さが前へ出てくる錦糸卵。カニカマは、糸みたいな繊維状をしているのに、なかなか面白い食感をしているわね。
もちもちというか、ふわふわというか。なんだか、はんぺんに似ている気がする。けど、風味は全然違う。ふわりと感じる旨味を含んだ塩味が、後を追って出てきた甘味を引き立てているわ。
「ごちそうさまでした。ふう、おいしかった」
結構な量を食べたけど、ちょっと物足りない気もする。冷やし中華だったら、三人前でもペロリと食べられてしまいそうね。
あとなぜか、味は単調なのに飽きが全然来ないのよ。麺をもっと頬張りたい欲も、不燃焼気味で健在しているわ。
流石は、夏の定番であり風物詩。しばらくの間、お世話になりそうね。
『研究熱心だね。飲んでみて、何か分かった?』
「特に変わりなく、安定してすごくおいしいわ」
『よっしゃー。今日も、ちゃんと作れたみたいだね』
そう。毎日毎日、安定しておいしい。風味に差異を感じず、違和感もまったく覚えない。この味だけ突出しているのが無いのよ。
常に大好きな味の、お味噌汁を必ず飲めている。普段は、そこに意識を向けることなんて、一度もなかったけれども。改めて思うと、これってかなりすごいわよね。あっ、全部飲んじゃった。
「メリーさん、夕食出来たよー」
「……これって、冷やし中華じゃない」
冷やし中華。夏の定番であり、風物詩とも言われている料理。なんでも、『冷やし中華始めました』という専用の呪文も存在するらしく。
この文字が記された看板や、旗が店先に並ぶと、夏はようやく本番を迎えるとか。つまり私達の夏は、たった今迎えた訳になるわね。
見た目は、インターネットやテレビで観た通りだ。千切りされた錦糸卵、キュウリ、ハム。赤と白の細長い物体は、確かカニカマってやつね。
中央に添えられた真っ赤な物が、紅ショウガ。で、皿の縁に、ちょんとあるのがカラシ。
もし塊を食べたら、辛くて悲惨な目に遭いそうだし、よーくかき混ぜて馴染ませないと。
それにしても、各具材が均一で綺麗に配置されているわね。真上から見てみると、しっかり四等分に並んでいるわ。
「いえすっ。さあさあ、夏を食らいまっせ~」
「そうね。じゃあ、いただきます」
「いっただっきまーす」
食事の挨拶を交わし、右手に箸を持つ。左手で皿を少し傾けて、具材や麺の下に隠れていたタレを集め、カラシを馴染ませていく。
素早くかき混ぜると、琥珀色だったタレが薄黄色に濁っていった。よしよし。目立った塊は見当たらないから、このまま麺と具材をかき混ぜてしまおう。
「さあ、食べるわよ」
具材の下にあった麺の姿が、大体現れた所で麺をすくう。最初は具材ばかり見ていたから、あまり意識していなかったけど……。
この麺、量が結構多いわね。ハルのことだから、二人前ぐらい作っていそうだわ。
「んん~っ。サッパリしてて甘酸っぱい」
まず先行するは、麺に絡まったタレのマイルドな甘酸っぱさ。想像していたよりも酸味は強くなく、適度が甘さが加わっているので、むしろ食べやすい。
そこに、カラシの柔らかな辛さがプラスされ、食欲をピリピリ刺激してくるから、タレだけで麺がグイグイ進みそうな風味になっている。
そして、肝心の麺よ。冷やし中華と名前になっているぐらいなので、麺は芯まで冷えていて、喉越しが抜群に良い。
あと、冷やしたことによって、麺全体がキュッと引き締まり、一本一本に確かなコシと食べ応えを感じるわ。
「うん。麺が冷たくておいしいから、どんどん食べられちゃうわ」
「んっふ~。麺が美味しいから、無限に食べられるや」
ニンマリとしながら麺をすするハルの頬が、リスみたいにどんどん膨らんでいく。いくらおいしいとはいえ、流石に頬張り過ぎじゃないかしら?
「……でも、なんだかあんな風に食べたくなっちゃうのよね」
少量の麺をすすっても、なんだか物足りなさを感じ。口の中がいっぱいになるまですすると、言いようのない満足感を得られるのよ。
この特殊な満足感は、そうめんでは得られなかった。しかし、冷やし中華の麺は、頬張れば頬張るほど満足度が高くなっていく。一体、なぜなのかしら? 不思議だわ。
そして、麺ばかり食べちゃうから、各具材が余りに余っている。当然、ハルもそう。麺の残りが一割付近に迫った所で、ようやく他の具材を食べ始めた。
ていうか、たった今気付いたけれども。今日の私達、食べるスピードがとんでもなく早くない? 自分の皿を覗いてみたら、麺が完全に無くなっていたわ。
「もう麺が無くなっちゃった……」
「冷やし中華ってスルスル食べられるから、無くなるのが早いんだよね~。ふうっ、美味しかった。満足満足、ごちそうさまでした~」
食事の挨拶を交わしてから、体感的に七、八分で、ハルが冷やし中華を完食した。やや遅れを取ってしまったけど、私もそろそろ食べ終わるわね。
タレが染み込み、酸味が和らいで甘さが際立つキュウリ。逆にタレを跳ね除けて、可愛げな肉肉しさと濃い甘さを主張するハム。
こちらも酸味が負けて、素材本来のコク深い甘さが前へ出てくる錦糸卵。カニカマは、糸みたいな繊維状をしているのに、なかなか面白い食感をしているわね。
もちもちというか、ふわふわというか。なんだか、はんぺんに似ている気がする。けど、風味は全然違う。ふわりと感じる旨味を含んだ塩味が、後を追って出てきた甘味を引き立てているわ。
「ごちそうさまでした。ふう、おいしかった」
結構な量を食べたけど、ちょっと物足りない気もする。冷やし中華だったら、三人前でもペロリと食べられてしまいそうね。
あとなぜか、味は単調なのに飽きが全然来ないのよ。麺をもっと頬張りたい欲も、不燃焼気味で健在しているわ。
流石は、夏の定番であり風物詩。しばらくの間、お世話になりそうね。
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