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70話、悲しいお知らせと、それを吹き飛ばす朗報
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「私、メリーさん。今、とても悲しいニュースを見てしまったの」
「とうとう来てしまったね、この季節が……」
「ええ、来てしまったわね。厄介な梅雨が……」
梅雨。朝昼晩四六時中、ジメジメとした雨が降り続ける季節。この季節だけは、どうも好きになれない。単に雨が降り止まず、鬱陶しいのもそうなのだけれども。
人間も家に籠ってしまうから、一人暮らし以外の人間を狙うのが難しくなる。なので、今はやっていない本業にも、多大な支障をきたしていた。
しかし、外へ逃げ出すという選択肢が選び辛くなるので、かなりの頻度で狩りが成功していたのも事実。夜の雨は恐怖心も煽ってくれるし、泣きじゃくる人間がいつもより多かった。
けど、それらを踏まえた上でも雨は嫌いだ。これじゃあ、買い物へ行く気が失せてしまう。ハルだって、調理学校へ通うのが大変になってしまうでしょうね。
「やっぱり、メリーさんも梅雨がお嫌いで?」
「そうね。その様子だと、ハルも嫌いみたいね」
「そうだねー。布団も干せなくなるし、洗濯物も乾きにくくなるし。食材も傷みやすくなるから、良い事はあまりないかな」
なるほど、食材も長持ちしなくなっちゃうんだ。それだと、一回の買い物で多い量を買えなくなってしまう。だから自ずと、買い物の頻度が増える事になる。
ならば、それを逆手に取ってしまえばいい。ハルから事前に、今日欲しい食材を聞いておき、私が夕方に済ませてしまえばいいのよ。
そうすれば、ハルが帰って来てもゆっくり料理を作れるし、自由時間だって増える。よし、決めた! 梅雨の時期の買い物は、全部私がやってあげよっと。
どうせ暇だし、洗濯もやってしまいたいわね。後で、洗濯の仕方や干し方を教わって、ハルを楽させて───。
「……ん?」
「誰だろう? ちょっと見てくるね」
考えが纏まろうとした矢先。部屋内に『ピンポーン』という音が鳴り響き、ハルが玄関へ向かっていった。
この音、久々に聞いたわね。最後に聞いたのは、ピザの出前を取った時だったかしら?
ピザかぁ、あれもおいしかったなぁ。特にすごかったのが、ビーフカルビとコーラの組み合わせ。肉肉しい油さえも蹂躙してしまう、強烈な炭酸の暴力や、喉を劈く刺激がたまらないのよ。
炭酸と言えば、お風呂上がりに飲むサイダーも欠かせない。この場合は、コーラじゃダメ。爽快感が抜群で、クドみが一切無く、後味がスパッと切れる爽やかな甘さのサイダーだからこそ合う。
けど、お風呂上がりのコーラって、まだ試した事が無いのよね。お金が貯まったら、いつか試してみるのもアリだわ。
「ふっふっふっふっ」
「ん?」
不意に、ねったりとしたハルの含み笑いが聞こえてきたので、後ろへ振り返ってみれば。
やたらと大きな白い箱を持っている、口元をいやらしくニヤニヤさせたハルが立っていた。あの箱、なんだか霜が張っているような?
「ハル? その箱、一体なんなの?」
「ええい、頭が高いッ!」
「は? ……ず? えっ?」
突然、意味不明な事を口走ったハルが、早足でテーブルの元まで来て、箱をゆっくりと置く。
「この箱をどなたと心得る!? こちらにおわすは───」
やけにテンションが高いハルが、箱のガムテープを綺麗に剥がし、箱の蓋を開けた。
「先の大海原で育った、海鮮祭り様であせられるぞ!」
「海鮮祭りって、まさか……!」
瞬時に期待に満ちた胸が弾み、確信を得た予想を立てつつ、勢いよく立ち上がって箱の中身を覗いてみた。
「……わっ、わぁ~っ! ついに来たのね!」
白いモヤを外へ流している箱の中には、待ち侘びていたえんがわの他にも、多種多様な海鮮類が所狭しとパンパンに詰まっていた。
まだ捌かれる前で、一枚一枚がとても長く、雪原を彷彿とさせる純白のえんがわ。袋にギッチリ入っていて、今にも飛び出してしまいそうな大量のイクラ。
それらをどかせば、下の方から木箱が現れ。蓋を取ってみると、黄金の草原と見間違えるほど綺麗に並べられた、一つがとても大きい生ウニがあり。
見た目の総量は一kg以上あろう、持てば重みを感じる、巨大で鮮やかなオレンジ色をしたサーモン。凍っていても脂が乗っていると分かる、一際大きな中トロ───。
「……は、ハル? これって、もしかして?」
「やっば! ズワイガニは頼んだけど、タラバガニのポーションもあるじゃん! 長さと太さからして、十二Lぐらいあるか? うわぁ、めっちゃ食いてえ……」
余計な殻が取っ払われた、赤と白の絶妙なコントラストが食欲を刺激する、真空パックに詰められたタラバガニとズワイガニのポーションに、目が釘付けになるハル。
信じられない物を見たって感じに、眠たそうだった目が大きく見開ていて、真空パックを持った手をわなわなと震わせている。
「おいおい、二十本ずつ入ってんじゃん。この二つだけで、四、五万円はするぞ……? 兄貴、マジか」
「ご、五万……?」
ズラリと並んだ、合計四十本あるタラバガニとズワイガニのポーションだけで、五万円? 嘘でしょ? それじゃあ、この箱の中身を全て足すと、一体いくらになってしまうというの……?
「これだけあれば、アレをやってもアレとアレが作れるな。やっべぇ、めちゃくちゃテンション上がってきた」
料理の構想が固まったのだろうか。ヒクついた口元を怪しく吊り上げたハルが、「へっ、へへへっ……」といやらしく笑う。
『アレ』を三つ言ったので、少なくとも三品作れるという事になる。それも気になるけれど、私が最も楽しみにしていたのは、別にある!
「ねぇ、ハル。今日の夕食について、リクエストがあるんだけども」
「駄目だ、それは聞けない」
「……え?」
私のお願いを即座に一蹴したハルが、鋭く凍てついた眼差しを、私に合わせてきた。……なに? この、凍った海鮮類よりも冷たそうで、何もかも否定してきそうなハルの目は?
「いいかい? メリーさん。今、何時だと思う?」
「な、何時? えっと、四時前ぐらいね」
掛け時計が示す現在時刻は、おおよそ三時五十八分。夕食まで、残り二時間といった所ね。
「そう、四時前だ。で、箱の中身を見てごらん? とんでもない量の海鮮類があるけどさ。これ、冷凍庫に全部入ると思う?」
「……たぶん、無理ね」
いや、たぶんじゃない。絶対に無理だ。元々この家の冷凍庫には、ハルが購入した物がそれなりに入っている。
そして、今日届いた海鮮類の総量は、少なく見積もっても三kg強。一つがやたらと大きい物もあるので、無理やりねじ込むのは不可能だわ。
「そう、無理だ。なので私は、これから海鮮類が解凍されてドリップが出る前に、切り分ける作業をしなければならない」
「ドリップ?」
「氷が解けると、水に戻るじゃん? でね、冷凍された物も溶け始めると、だんだん水が出てくるんだけどもね? その際に、海鮮類に含まれた水分、タンパク質、旨味成分まで一緒に外へ出ていっちゃって、味や質がグッと落ちちゃうんだ」
「……嘘? あれ? ちょっと待って」
ハルの鬼気迫る説明に、一旦は絶望してしまったものの。要は、解凍すると海鮮類の旨味まで一緒に逃げ出してしまい、おいしくなくなってしまう訳よね?
だとすれば、それはいつやっても変わらないという事になるのでは?
「だったら、今日食べる分だけ解凍すればいいじゃない」
「そうしたいのは、私も山々なんだけどもさ? 実は、旨味をあまり逃さず解凍する方法が、いくつかあるんだ」
「えっ、そうなの?」
説明を続けるハルが、箱を持って台所へ歩き出したので、私もハルの隣に付く。
「うん。氷水に浸して解凍する方法と、冷蔵庫の中でじっくりゆっくり解凍していく二つの方法があるんスよ。小さい物だったら、大体二時間ぐらいで解凍されるけど、この海鮮類ってどれも大きいじゃん? だから、解凍し切るのに半日は掛かるんだよね」
「へえ、半日。かなり時間が掛かるのね」
「そうそう。でさ、メリーさん。さっき言ってたリクエストって、たぶんえんがわ丼だよね?」
「そうね、合ってるけど……。今から解凍して作るとなると、夜の十一時過ぎぐらいになっちゃうわね」
そこから調理する時間も合わせれば、食べられるのは十一半頃になってしまう。その時間になると、私とハルはもう寝ているわね。
「正解。流石に、そんな遅い時間に食べるのは勘弁して欲しいのと。やっぱ美味しく食べるなら、夕食の時間がいいじゃん? 旨味が抜けた中途半端な料理を、メリーさんに出したくないのもあるし。だから、明日まで我慢して欲しいんだよね」
苦笑いしながら箱を台所に置き、包丁とまな板を用意するハル。ここまで言われてしまったら、仕方ない。私の事を想ってくれているし、嬉しいから折れておきましょう。
「分かったわ。でも明日は、おいしいえんがわ丼を作ってちょうだいね」
「おお、ありがとう! 任せてくんさい! で、一つだけお願いがあるんだけどさ、聞いてくんない?」
「お願い? なに?」
「明日の九時ぐらいなったら、冷凍庫に入れたえんがわを解凍させたいから、冷蔵庫に移しといて欲しいんだよね」
私にお願いをしてきたハルが、前に合わせた両手を上下にすりすりとさせた。
朝の九時に解凍を始めれば、料理を作り始める夕方頃には、まあまあ解凍されていそうね。
先の説明を踏まえた上で、えんがわの大きさを再度確認してみるも、やはりベストな解凍時間かも……。
待って? これ、かなり責任重大じゃない。忘れないよう、タブレットにアラーム付きの予定を入れておかないと。
「いいわよ。九時ピッタリになったら、やっといてあげるわ」
「ごめんね、ありがとう。うっし! それなら、最高のえんがわ丼を作らないとね。さあて、作業に入りますか」
「ハル。私に手伝える事があれば、言ってちょうだい」
「マジで? んじゃ~、どうすっかな? フリーザーパックを、十枚ぐらい持ってきてもらってもいい?」
「フリーザーパックを十枚ね、分かったわ」
ハルのお願いを遂行するべく、フリーザーパックがある棚へ向かう。いつものように、やんわり断られるかと思っていたけど、意外とすんなりお願いしてきてくれたわね。
よしよし、いい傾向だ。こうやって、小さなお願いもコツコツと聞いて、しっかりこなしていき、ハルから信頼される存在になってやるわよ。
「とうとう来てしまったね、この季節が……」
「ええ、来てしまったわね。厄介な梅雨が……」
梅雨。朝昼晩四六時中、ジメジメとした雨が降り続ける季節。この季節だけは、どうも好きになれない。単に雨が降り止まず、鬱陶しいのもそうなのだけれども。
人間も家に籠ってしまうから、一人暮らし以外の人間を狙うのが難しくなる。なので、今はやっていない本業にも、多大な支障をきたしていた。
しかし、外へ逃げ出すという選択肢が選び辛くなるので、かなりの頻度で狩りが成功していたのも事実。夜の雨は恐怖心も煽ってくれるし、泣きじゃくる人間がいつもより多かった。
けど、それらを踏まえた上でも雨は嫌いだ。これじゃあ、買い物へ行く気が失せてしまう。ハルだって、調理学校へ通うのが大変になってしまうでしょうね。
「やっぱり、メリーさんも梅雨がお嫌いで?」
「そうね。その様子だと、ハルも嫌いみたいね」
「そうだねー。布団も干せなくなるし、洗濯物も乾きにくくなるし。食材も傷みやすくなるから、良い事はあまりないかな」
なるほど、食材も長持ちしなくなっちゃうんだ。それだと、一回の買い物で多い量を買えなくなってしまう。だから自ずと、買い物の頻度が増える事になる。
ならば、それを逆手に取ってしまえばいい。ハルから事前に、今日欲しい食材を聞いておき、私が夕方に済ませてしまえばいいのよ。
そうすれば、ハルが帰って来てもゆっくり料理を作れるし、自由時間だって増える。よし、決めた! 梅雨の時期の買い物は、全部私がやってあげよっと。
どうせ暇だし、洗濯もやってしまいたいわね。後で、洗濯の仕方や干し方を教わって、ハルを楽させて───。
「……ん?」
「誰だろう? ちょっと見てくるね」
考えが纏まろうとした矢先。部屋内に『ピンポーン』という音が鳴り響き、ハルが玄関へ向かっていった。
この音、久々に聞いたわね。最後に聞いたのは、ピザの出前を取った時だったかしら?
ピザかぁ、あれもおいしかったなぁ。特にすごかったのが、ビーフカルビとコーラの組み合わせ。肉肉しい油さえも蹂躙してしまう、強烈な炭酸の暴力や、喉を劈く刺激がたまらないのよ。
炭酸と言えば、お風呂上がりに飲むサイダーも欠かせない。この場合は、コーラじゃダメ。爽快感が抜群で、クドみが一切無く、後味がスパッと切れる爽やかな甘さのサイダーだからこそ合う。
けど、お風呂上がりのコーラって、まだ試した事が無いのよね。お金が貯まったら、いつか試してみるのもアリだわ。
「ふっふっふっふっ」
「ん?」
不意に、ねったりとしたハルの含み笑いが聞こえてきたので、後ろへ振り返ってみれば。
やたらと大きな白い箱を持っている、口元をいやらしくニヤニヤさせたハルが立っていた。あの箱、なんだか霜が張っているような?
「ハル? その箱、一体なんなの?」
「ええい、頭が高いッ!」
「は? ……ず? えっ?」
突然、意味不明な事を口走ったハルが、早足でテーブルの元まで来て、箱をゆっくりと置く。
「この箱をどなたと心得る!? こちらにおわすは───」
やけにテンションが高いハルが、箱のガムテープを綺麗に剥がし、箱の蓋を開けた。
「先の大海原で育った、海鮮祭り様であせられるぞ!」
「海鮮祭りって、まさか……!」
瞬時に期待に満ちた胸が弾み、確信を得た予想を立てつつ、勢いよく立ち上がって箱の中身を覗いてみた。
「……わっ、わぁ~っ! ついに来たのね!」
白いモヤを外へ流している箱の中には、待ち侘びていたえんがわの他にも、多種多様な海鮮類が所狭しとパンパンに詰まっていた。
まだ捌かれる前で、一枚一枚がとても長く、雪原を彷彿とさせる純白のえんがわ。袋にギッチリ入っていて、今にも飛び出してしまいそうな大量のイクラ。
それらをどかせば、下の方から木箱が現れ。蓋を取ってみると、黄金の草原と見間違えるほど綺麗に並べられた、一つがとても大きい生ウニがあり。
見た目の総量は一kg以上あろう、持てば重みを感じる、巨大で鮮やかなオレンジ色をしたサーモン。凍っていても脂が乗っていると分かる、一際大きな中トロ───。
「……は、ハル? これって、もしかして?」
「やっば! ズワイガニは頼んだけど、タラバガニのポーションもあるじゃん! 長さと太さからして、十二Lぐらいあるか? うわぁ、めっちゃ食いてえ……」
余計な殻が取っ払われた、赤と白の絶妙なコントラストが食欲を刺激する、真空パックに詰められたタラバガニとズワイガニのポーションに、目が釘付けになるハル。
信じられない物を見たって感じに、眠たそうだった目が大きく見開ていて、真空パックを持った手をわなわなと震わせている。
「おいおい、二十本ずつ入ってんじゃん。この二つだけで、四、五万円はするぞ……? 兄貴、マジか」
「ご、五万……?」
ズラリと並んだ、合計四十本あるタラバガニとズワイガニのポーションだけで、五万円? 嘘でしょ? それじゃあ、この箱の中身を全て足すと、一体いくらになってしまうというの……?
「これだけあれば、アレをやってもアレとアレが作れるな。やっべぇ、めちゃくちゃテンション上がってきた」
料理の構想が固まったのだろうか。ヒクついた口元を怪しく吊り上げたハルが、「へっ、へへへっ……」といやらしく笑う。
『アレ』を三つ言ったので、少なくとも三品作れるという事になる。それも気になるけれど、私が最も楽しみにしていたのは、別にある!
「ねぇ、ハル。今日の夕食について、リクエストがあるんだけども」
「駄目だ、それは聞けない」
「……え?」
私のお願いを即座に一蹴したハルが、鋭く凍てついた眼差しを、私に合わせてきた。……なに? この、凍った海鮮類よりも冷たそうで、何もかも否定してきそうなハルの目は?
「いいかい? メリーさん。今、何時だと思う?」
「な、何時? えっと、四時前ぐらいね」
掛け時計が示す現在時刻は、おおよそ三時五十八分。夕食まで、残り二時間といった所ね。
「そう、四時前だ。で、箱の中身を見てごらん? とんでもない量の海鮮類があるけどさ。これ、冷凍庫に全部入ると思う?」
「……たぶん、無理ね」
いや、たぶんじゃない。絶対に無理だ。元々この家の冷凍庫には、ハルが購入した物がそれなりに入っている。
そして、今日届いた海鮮類の総量は、少なく見積もっても三kg強。一つがやたらと大きい物もあるので、無理やりねじ込むのは不可能だわ。
「そう、無理だ。なので私は、これから海鮮類が解凍されてドリップが出る前に、切り分ける作業をしなければならない」
「ドリップ?」
「氷が解けると、水に戻るじゃん? でね、冷凍された物も溶け始めると、だんだん水が出てくるんだけどもね? その際に、海鮮類に含まれた水分、タンパク質、旨味成分まで一緒に外へ出ていっちゃって、味や質がグッと落ちちゃうんだ」
「……嘘? あれ? ちょっと待って」
ハルの鬼気迫る説明に、一旦は絶望してしまったものの。要は、解凍すると海鮮類の旨味まで一緒に逃げ出してしまい、おいしくなくなってしまう訳よね?
だとすれば、それはいつやっても変わらないという事になるのでは?
「だったら、今日食べる分だけ解凍すればいいじゃない」
「そうしたいのは、私も山々なんだけどもさ? 実は、旨味をあまり逃さず解凍する方法が、いくつかあるんだ」
「えっ、そうなの?」
説明を続けるハルが、箱を持って台所へ歩き出したので、私もハルの隣に付く。
「うん。氷水に浸して解凍する方法と、冷蔵庫の中でじっくりゆっくり解凍していく二つの方法があるんスよ。小さい物だったら、大体二時間ぐらいで解凍されるけど、この海鮮類ってどれも大きいじゃん? だから、解凍し切るのに半日は掛かるんだよね」
「へえ、半日。かなり時間が掛かるのね」
「そうそう。でさ、メリーさん。さっき言ってたリクエストって、たぶんえんがわ丼だよね?」
「そうね、合ってるけど……。今から解凍して作るとなると、夜の十一時過ぎぐらいになっちゃうわね」
そこから調理する時間も合わせれば、食べられるのは十一半頃になってしまう。その時間になると、私とハルはもう寝ているわね。
「正解。流石に、そんな遅い時間に食べるのは勘弁して欲しいのと。やっぱ美味しく食べるなら、夕食の時間がいいじゃん? 旨味が抜けた中途半端な料理を、メリーさんに出したくないのもあるし。だから、明日まで我慢して欲しいんだよね」
苦笑いしながら箱を台所に置き、包丁とまな板を用意するハル。ここまで言われてしまったら、仕方ない。私の事を想ってくれているし、嬉しいから折れておきましょう。
「分かったわ。でも明日は、おいしいえんがわ丼を作ってちょうだいね」
「おお、ありがとう! 任せてくんさい! で、一つだけお願いがあるんだけどさ、聞いてくんない?」
「お願い? なに?」
「明日の九時ぐらいなったら、冷凍庫に入れたえんがわを解凍させたいから、冷蔵庫に移しといて欲しいんだよね」
私にお願いをしてきたハルが、前に合わせた両手を上下にすりすりとさせた。
朝の九時に解凍を始めれば、料理を作り始める夕方頃には、まあまあ解凍されていそうね。
先の説明を踏まえた上で、えんがわの大きさを再度確認してみるも、やはりベストな解凍時間かも……。
待って? これ、かなり責任重大じゃない。忘れないよう、タブレットにアラーム付きの予定を入れておかないと。
「いいわよ。九時ピッタリになったら、やっといてあげるわ」
「ごめんね、ありがとう。うっし! それなら、最高のえんがわ丼を作らないとね。さあて、作業に入りますか」
「ハル。私に手伝える事があれば、言ってちょうだい」
「マジで? んじゃ~、どうすっかな? フリーザーパックを、十枚ぐらい持ってきてもらってもいい?」
「フリーザーパックを十枚ね、分かったわ」
ハルのお願いを遂行するべく、フリーザーパックがある棚へ向かう。いつものように、やんわり断られるかと思っていたけど、意外とすんなりお願いしてきてくれたわね。
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