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66話、ようやく追いついてきた感情
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「そっかぁ~……。メリーさんの一番好きな料理って、私が作った味噌汁だったんだ」
やたらとか細い私の声が、湯けむりを纏って浴室内に反響していく。壁に浸透して辺りが静かになるも、メリーさんが言ったあの一言が、まだ頭の中で響いている。
味噌汁は、私が一番最初に作った料理だ。家族にも好評で、飲むと良い笑顔で必ず『美味しい』と言ってくれていた。
だから、その笑顔をまた見たくて、もっと感想を聞きたくて、毎日のように作っていた。
学生時代から作っていたので、味噌汁だけには絶対の自信がある。極めたと言っても過言じゃない。でも───。
「マジで嬉しかったなぁ」
流石に、一番好きな料理は私が作った味噌汁だなんて、家族の誰からも言われた事が無い。それに、あんな改まった態度で、しかも嬉しそうな顔をしながら言ってくるんだよ?
そりゃあ、頭の中も真っ白になっちゃうよ。最初は、本当に理解が追い付かなかった。夕食を無事に済ませ、風呂に浸かってようやくって感じだ。ここまで、四時間以上は掛かったかな。
「……えっへへ、マジかぁ」
理解が追い付いてしまえば、この昂る感情は抑えられない。もう駄目だ。顔が自然とニヤけてくる。口元だって自分でも分かるぐらい、ゆるゆるだ。
メリーさんが一番好きな料理は、唐揚げだとばかり思っていたのに。まさか二番だっただなんて。良い意味で予想が外れちゃったな。
一番が味噌汁で、二番が唐揚げ。更には、共に私が作った物。めちゃくちゃ嬉しいワンツーフィニッシュじゃないの。
メリーさんは、私の命を狙っている。けれども、私の料理を一番好きになってくれた。こう思うと、かなり複雑な心境になってくるけど。今は、嬉しい感情の方が勝っている。
「ああ~、チックショウ~。今日は良い夢が見れそうだ」
風呂のお湯よりも、ポカポカに暖まった心がくすぐったい。メリーさんの言葉を思い出す度に、口元がもっと緩んでいく。身を軽くよじらせていないと、なんだか落ち着かない。
私、ああいうのに弱いんだ。自分とは二十二年間付き合ってきたけど、初めて知ったや。しかし、これでまた自信が付いた。料理に対する、自分の腕を。
一人暮らしをしていたら、絶対に付かない自信だった。料理の腕が上達しているのか分からず、不安を抱えながら試行錯誤を繰り返していただろうね。
この料理を食べた人は、美味しいと言ってくれるのか? 火加減や火の通り具合は、合っているのか? レシピと異なる味付けだけど、間違っていないか? 私の料理を食べて、笑顔になってくれるのか?
これらは全て、一人で続けていたら絶対に手に入らない情報だ。けど、少なくとも今は違う。メリーさんという存在が、私に欲しかった情報を全て与えてくれた。
手に余る想像以上の情報と、暖かくなれる気持ちもね。気の持ちようが、まるで違ってくる。モチベーションだって爆上がりだ。
「メリーさんには、感謝しておかないと」
たった一人の感想、されど一人のこの上なく名誉な感想。ただ単に、私が単純なのかもしれないけど……。一番好きな料理が、私の作った味噌汁だなんて言われたら、素直に嬉しい。
今日ぐらいは、この溢れんばかりの嬉しい感情を噛み締めてもいいよね? お湯に零すのが勿体ないから、そこだけは気を付けないと。
「……そういえば、メリーさんは何を作るんだろ?」
用意して欲しいと言われた物は、おにぎりを二つ。それと、もやし、バター、缶詰のコーン。パッと思い付いた料理は、シンプルなもやしのホイル焼き。
その中に醤油を垂らせば、おにぎりなんてペロリと完食出来る。鮭なんて加えた日には、立派な夕食の完成だ。フライパンに水を張って、湯煎で作れば焦げる心配も無い。
「やっば、食べたくなってきた」
それも鮭ではなく、刺身用のサーモンブロックでだ。骨が無いから、気にせずバクバク食べられる。大きい切り身を使用すれば、満足度が凄まじく高い料理に昇華する。
味付けはバターがメインで、あとは醤油と塩コショウのみ。他の食材は、エノキ、短冊切りしたニンジン、もやしだけで十分。別皿にポン酢を用意して、付けて食べるのもアリだ。
「よし、今度の夕食に作ろう」
ただし、この夕食には二つの難点がある。それは、刺身用のサーモンブロックがべらぼうに高い事。スーパーによっては、三百gで千五百円以上にもなる。
そして、ホイル焼きにするのではなく、普通に刺身として食べたい欲求も湧いてくる事。サーモンって、この季節でも脂が乗っているから、マジで美味い。
丼物にして食べるのも良い。切り分けた刺身をご飯に乗せ、片側に万能ネギをこれでもかってぐらいに盛り付けて、そこへ熱したごま油を掛ける。
トドメに、粗削りした岩塩を振りかければ、箸が止まらない秒殺サーモン丼の完成。この丼物、兄貴が超好きで、漁船に乗っている時によく作っていたっけ。
「うっし。サーモン丼も、その内作るか」
もう少しすれば、兄貴に頼んだ海鮮類が届く。その中にサーモンもあるけど、先にメリーさんのリクエストである、えんがわ丼を作らないと。
「う~ん、丼物の被りは避けたいな」
期間を空けて作らないと、また丼物かと魅力が半減してしまう。海鮮丼も作りたいので、サーモン丼はまたの機会にしておかなければ。
しかし、楽しみだな。来週辺りに届く予定だから、海鮮強化週間に向けて、色んなメニューを考えておこう。
やたらとか細い私の声が、湯けむりを纏って浴室内に反響していく。壁に浸透して辺りが静かになるも、メリーさんが言ったあの一言が、まだ頭の中で響いている。
味噌汁は、私が一番最初に作った料理だ。家族にも好評で、飲むと良い笑顔で必ず『美味しい』と言ってくれていた。
だから、その笑顔をまた見たくて、もっと感想を聞きたくて、毎日のように作っていた。
学生時代から作っていたので、味噌汁だけには絶対の自信がある。極めたと言っても過言じゃない。でも───。
「マジで嬉しかったなぁ」
流石に、一番好きな料理は私が作った味噌汁だなんて、家族の誰からも言われた事が無い。それに、あんな改まった態度で、しかも嬉しそうな顔をしながら言ってくるんだよ?
そりゃあ、頭の中も真っ白になっちゃうよ。最初は、本当に理解が追い付かなかった。夕食を無事に済ませ、風呂に浸かってようやくって感じだ。ここまで、四時間以上は掛かったかな。
「……えっへへ、マジかぁ」
理解が追い付いてしまえば、この昂る感情は抑えられない。もう駄目だ。顔が自然とニヤけてくる。口元だって自分でも分かるぐらい、ゆるゆるだ。
メリーさんが一番好きな料理は、唐揚げだとばかり思っていたのに。まさか二番だっただなんて。良い意味で予想が外れちゃったな。
一番が味噌汁で、二番が唐揚げ。更には、共に私が作った物。めちゃくちゃ嬉しいワンツーフィニッシュじゃないの。
メリーさんは、私の命を狙っている。けれども、私の料理を一番好きになってくれた。こう思うと、かなり複雑な心境になってくるけど。今は、嬉しい感情の方が勝っている。
「ああ~、チックショウ~。今日は良い夢が見れそうだ」
風呂のお湯よりも、ポカポカに暖まった心がくすぐったい。メリーさんの言葉を思い出す度に、口元がもっと緩んでいく。身を軽くよじらせていないと、なんだか落ち着かない。
私、ああいうのに弱いんだ。自分とは二十二年間付き合ってきたけど、初めて知ったや。しかし、これでまた自信が付いた。料理に対する、自分の腕を。
一人暮らしをしていたら、絶対に付かない自信だった。料理の腕が上達しているのか分からず、不安を抱えながら試行錯誤を繰り返していただろうね。
この料理を食べた人は、美味しいと言ってくれるのか? 火加減や火の通り具合は、合っているのか? レシピと異なる味付けだけど、間違っていないか? 私の料理を食べて、笑顔になってくれるのか?
これらは全て、一人で続けていたら絶対に手に入らない情報だ。けど、少なくとも今は違う。メリーさんという存在が、私に欲しかった情報を全て与えてくれた。
手に余る想像以上の情報と、暖かくなれる気持ちもね。気の持ちようが、まるで違ってくる。モチベーションだって爆上がりだ。
「メリーさんには、感謝しておかないと」
たった一人の感想、されど一人のこの上なく名誉な感想。ただ単に、私が単純なのかもしれないけど……。一番好きな料理が、私の作った味噌汁だなんて言われたら、素直に嬉しい。
今日ぐらいは、この溢れんばかりの嬉しい感情を噛み締めてもいいよね? お湯に零すのが勿体ないから、そこだけは気を付けないと。
「……そういえば、メリーさんは何を作るんだろ?」
用意して欲しいと言われた物は、おにぎりを二つ。それと、もやし、バター、缶詰のコーン。パッと思い付いた料理は、シンプルなもやしのホイル焼き。
その中に醤油を垂らせば、おにぎりなんてペロリと完食出来る。鮭なんて加えた日には、立派な夕食の完成だ。フライパンに水を張って、湯煎で作れば焦げる心配も無い。
「やっば、食べたくなってきた」
それも鮭ではなく、刺身用のサーモンブロックでだ。骨が無いから、気にせずバクバク食べられる。大きい切り身を使用すれば、満足度が凄まじく高い料理に昇華する。
味付けはバターがメインで、あとは醤油と塩コショウのみ。他の食材は、エノキ、短冊切りしたニンジン、もやしだけで十分。別皿にポン酢を用意して、付けて食べるのもアリだ。
「よし、今度の夕食に作ろう」
ただし、この夕食には二つの難点がある。それは、刺身用のサーモンブロックがべらぼうに高い事。スーパーによっては、三百gで千五百円以上にもなる。
そして、ホイル焼きにするのではなく、普通に刺身として食べたい欲求も湧いてくる事。サーモンって、この季節でも脂が乗っているから、マジで美味い。
丼物にして食べるのも良い。切り分けた刺身をご飯に乗せ、片側に万能ネギをこれでもかってぐらいに盛り付けて、そこへ熱したごま油を掛ける。
トドメに、粗削りした岩塩を振りかければ、箸が止まらない秒殺サーモン丼の完成。この丼物、兄貴が超好きで、漁船に乗っている時によく作っていたっけ。
「うっし。サーモン丼も、その内作るか」
もう少しすれば、兄貴に頼んだ海鮮類が届く。その中にサーモンもあるけど、先にメリーさんのリクエストである、えんがわ丼を作らないと。
「う~ん、丼物の被りは避けたいな」
期間を空けて作らないと、また丼物かと魅力が半減してしまう。海鮮丼も作りたいので、サーモン丼はまたの機会にしておかなければ。
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