私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

文字の大きさ
17 / 199

16話、食欲に直接訴えかけてくる料理

しおりを挟む
「私、メリーさん。今、旅番組を観ているの」

『へえ~、珍しいチョイスだね。どんな旅番組なの?』

「バスっていう大きい乗り物に乗って、指定された目的地を目指してるみたいよ」

『ああ、あれか。合間合間に店に寄って、美味しい物を食べてるんだよね』

 そう。ハルの言う通り、旅の過程なんてどうでもいい。昨日、ハルが帰って来るまで、テレビを観て時間を潰している最中。
 たまたま観ていた旅番組で、おいしそうな料理が出てきたから、それを狙って観ている。
 今出ている料理は、卵に包まれた『オムライス』。鮮やかな色をしたケチャップと、卵の配色がなんとも絶妙で、視覚の情報から食欲をそそってくる。見た目がおいしそうなのに、温かな湯気まで昇らせちゃって、まあ。

「おいしそう~」

「おっ、オムライスじゃん」

 作っていた料理が出来上がったのか。テレビを観ていた私の視界内に、ハルが忽然と入り込んできた。……テレビに意識が集中していたせいで、ハルの気配にまた気付かなかったわ。
 今日は、驚かなかったからいいけど。せめて、料理が出来た事ぐらいは電話で伝えてほしいわね。

「やっぱ、お店に出てくる物は違うね。焦げ目が一切無いし、綺麗に包まれてるや」

「ハルは、これに近いオムライスを作れるの?」

「ここまで綺麗に作るのは難しいけど、似たのは作れるかな?」

 人差し指を顎に添え、視線を天井へ持っていったハルが言う。へえ、オムライスまで作れるんだ。ハルって、案外すごいじゃない。
 テーブルを見た所。この前リクエストに出したチンジャオロースも、ちゃんと作れているし。どうしよう、まだ食べてみたい料理が沢山あるのよね。
 というか、テレビを観る度に増えていく。例えば旅番組だと、旅館という場所で出てくる料理は、見た目がどれも豪華な物ばかりだ。
 天ぷら、ステーキ、すき焼き、お刺身。そういえば、魚ってどんな味がするんだろう? モコモコとした衣がおいしそうな天ぷらも食べてみたいけど、魚も捨て難い。う~ん、悩むわ。

「どうする? 明日はオムライスにしてあげようか?」

「へっ? あ、いやっ。先に餃子を食べてみたいわ」

「餃子ね、オッケー。それじゃあ、その次にでも作ってあげるよ」

 ぶつくさと言い始めたハルが、対面の席に座った。明日の食べる料理が決まったけど、今日食べるのはチンジャオロースだ。
 細切りにされたピーマン、それにタケノコと牛肉。どの食材も、強い照りに包まれている。匂いは、どの食材でもない匂いがするわね。
 とても香ばしくて、食欲に直接訴えかけてくる匂いだ。初めて嗅ぐ匂いだから、何を使っているのか分からない。

「ハル。味付けに何を使ってるの?」

「味付け? 醤油とごま油。牛肉の下味に、砂糖もだったかな。今回は、超シンプルにしてみたんだ」

「へぇ、そう」

 なら、匂いの正体はごま油ね。油なのに、匂いがこんなに豊かで強いんだ。
 ごま油って言うぐらいだから、ゴマから作っているのよね? ゴマ自体も、ここまで匂いがするのかしら? ちょっと気になる。
 まあ、きっとその内分かる事だ。今は、目の前にあるチンジャオロースを堪能しよう。右手に箸を、左手に茶碗を持ち。さあ、食べるわよ!

「よし。それじゃあ、いただきまーすっと」

 ハルがいつもの言葉を言っている中。私はチンジャオロースに箸を伸ばし、ピーマン、タケノコ、牛肉をまとめて取り。それらでご飯をトントンと叩いてから、口に運んだ。

「わあっ、色んな食感がするじゃない」

 一番固く感じるのは、ピーマンかしら? 噛むと、ほのかな青臭さが中から出てくるけど、ゴマ油の濃い風味や醤油との相性は悪くない。これ、違う濃いめの味付けだったら、もっとおいしくなるかも?
 次に、柔らかいながらも、コリッとしていて程よい弾力があるタケノコ。これは、あまり味がしないわね。周りの風味に、完全に負けちゃっている。けど、食感は一番楽しい。
 牛肉は、ハンバーグの時とはまるで違う食感だ。こっちの牛肉は、キュッと締まった固さだ。
 味は、一本一本が細いけど、肉肉しさは健在。端っこにあるプリッとした甘い脂身が、なんとも嬉しいわ。

 チンジャオロースの食材全てに、トロリとした物が纏っているけど、これはあんね。
 ごま油と醤油の味をしっかり絡めとっているから、食材全体に味付けが満遍なく行き渡っている。
 なので、ご飯との相性もいい。チンジャオロース一口に対して、ご飯を二口いける。ごま油が、特にご飯の甘さを引き立ててくれるのよ。食も進むし、箸が止まらなくなっちゃう。

 テレビで観た物とは、味付けがだいぶ違かったけど。ハルが作った、このシンプルなチンジャオロース。これも悪くない。何よりも、油っぽさが少ないんだ。
 テレビでは、油をこれでもかってぐらいに使っていた。だから、かなり油っぽいと予想していたのに。
 やはり作る人が違うと、味もここまで違ってくるのね。料理って、本当に面白いなぁ。

「メリーさん、美味しい?」

「うん、そうね。テレビで観たチンジャオロースとは違うけど、これも十分おいしいわ」

「なるほど、そりゃよかった。ちなみに、テレビのチンジャオロースはどんな感じだった?」

「とにかく油をいっぱい使ってたわ。食材が全て沈んじゃうほどにね」

「沈ませたって事は、たぶん油通しかな? 食材をすぐに出してなかった?」

 油通し? そういえば、その時は食材に味付けをしていなかった気がする。それに、十秒か二十秒そこらで出していたわね。

「確か、出してたかも」

「やっぱりね。それは、食材を一回油で揚げてるんだよ」

「揚げる? なんでそんな事をするのよ?」

「まあ、一種の下準備みたいなものさ。本格的な中華料理って、ちゃんと作ろうとすると工程が結構多くなるんだよね。それに作るなら、空焼きと油ならしをした中華鍋で作ってみたいなぁ」

 まったく興味をそそらない単語を羅列していくハルが、味噌汁をすする。けど、本格的な中華料理には、かなりの興味があるのよね。
 ホイコーローや麻婆豆腐は、見た目からして絶対にご飯と合うはず。……そんな事を想像したら、夕ご飯を食べている最中なのに、またお腹がすいてきちゃった。

「ハル。本格的な中華料理を食べるには、店に行かないとダメなのかしら?」

「ん? ああ、そうだね。そっちの方が早いと思うよ」

「そう。なら適当な日にでも、私から声を掛けるわ」

「おっ、本当? いいよ! いつでも待ってるからね」

 よしよし、ハルも協力的に約束してくれた。どうせなら、チャーハンも食べてみたいわ。どうしよう。この調子だと、お店に行ったらまた目移りしちゃうかもしれない。
 しかし、今度はちゃんと私の意志で、食べたい料理を決めるわよ。強い誘惑を放つ料理に負けず、自らの意志でね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...