21 / 23
主治医
ビデオレター
しおりを挟む
私がなにか言葉を紡ぐ前に、会場が突然真っ暗になった。
少しの混沌ののち、ざわめいていた会場は静になった。みながみな、前方に吊るされたスクリーンに目を向ける。新婦が新郎の隣に並んだのを確認して、私も周囲にならって目を向ける。
私の目が、大きく見開いた。
「新郎のご友人から寄せられたビデオレターです!本日は残念ながらご事情によりご欠席なさっていますがーーー」
マイク越しのスタッフのよく通る声によって進んでいく彼の説明は、耳に引っ掛かることなくすり抜けていく。動揺が抑えられない。なんで、どうして。
大きな画面の中には、黒髪で右目の下に涙ぼくろを持つ彼がいた。
三ヶ月前、亡くなった彼が。
『こんにちは。渡山爽の親友、戸谷間都季です。』
驚く私の横で、新郎の方のワタヤマさんは同じようにして目を丸くしている。
『爽とは、大学時代からの仲でして…一時期は一緒にルームシェアしてたりもしましたね。そんな彼がまさか結婚するだなんて実感が湧かないです。訳あって、こんな形での御祝いになるんですけど…爽と花嫁の朱美さん、ご結婚おめでとうございます。』
画面の中の彼は、綺麗な笑顔で祝福の言葉を続けた。
それでも、私には分かる。少し眉の歪む笑顔。
あの笑顔は、彼が嘘をついているときの笑顔だ。
『じゃ、爽。幸せになってくれよ。』
そう締め括られ映像が消え、パッと部屋が明るくなる。最初はぱらついていた拍手も、次第に大きくなっていき、会場中に暖かい雰囲気が流れ出した。
未だに狐につままれたような顔をしながら消えてもなお画面を見続ける新郎に、そっと問いかける。
どうしても、言わなくちゃいけないと思った。
「爽さんは今、幸せですか?」
結婚式ではタブーに近い言葉だし、どんな言葉が返ってくるかもあらかた予想はついていた。それでも、本当に最後までそうなのか確かめたくて、意味もわからず緊張しながら返答を待つ。
彼が言ってた通りになって欲しくないという願望を、少しだけ滲ませて。
画面から目を離した新郎は、キョトンとしてからにっこり笑って口を開く。目尻にはくっきりとシワが刻まれる。
なんとも、人懐っこそうな笑顔だ。
ああ、そうか。
その表情で、私の願いは叶わないことを瞬時に悟る。
「もちろんです!」
一言一句間違うことなくブレることなく、それはしっかりと紡がれた。
その声に一切の迷いはない。それを聞いた私の脳内には、寂しそうながらも笑う彼の笑顔で溢れかえった。
『俺は、アイツが幸せになれてたら何でもいいです。』
去っていくなにも知らない新郎に、感情に任せて言葉をぶつけたくなる。
渡山さんを世界で一番愛していた人がいたのに。
あなたはそんな大切な人を記憶を失って手放したのに。
でも、それは私がしていいことじゃない。
分かっている。全てはどうしようもないことで、誰かが変えられるような単純なものではないということも。
言葉を飲み込む代わりに、ポツリと一粒だけ涙が溢れた。
少しの混沌ののち、ざわめいていた会場は静になった。みながみな、前方に吊るされたスクリーンに目を向ける。新婦が新郎の隣に並んだのを確認して、私も周囲にならって目を向ける。
私の目が、大きく見開いた。
「新郎のご友人から寄せられたビデオレターです!本日は残念ながらご事情によりご欠席なさっていますがーーー」
マイク越しのスタッフのよく通る声によって進んでいく彼の説明は、耳に引っ掛かることなくすり抜けていく。動揺が抑えられない。なんで、どうして。
大きな画面の中には、黒髪で右目の下に涙ぼくろを持つ彼がいた。
三ヶ月前、亡くなった彼が。
『こんにちは。渡山爽の親友、戸谷間都季です。』
驚く私の横で、新郎の方のワタヤマさんは同じようにして目を丸くしている。
『爽とは、大学時代からの仲でして…一時期は一緒にルームシェアしてたりもしましたね。そんな彼がまさか結婚するだなんて実感が湧かないです。訳あって、こんな形での御祝いになるんですけど…爽と花嫁の朱美さん、ご結婚おめでとうございます。』
画面の中の彼は、綺麗な笑顔で祝福の言葉を続けた。
それでも、私には分かる。少し眉の歪む笑顔。
あの笑顔は、彼が嘘をついているときの笑顔だ。
『じゃ、爽。幸せになってくれよ。』
そう締め括られ映像が消え、パッと部屋が明るくなる。最初はぱらついていた拍手も、次第に大きくなっていき、会場中に暖かい雰囲気が流れ出した。
未だに狐につままれたような顔をしながら消えてもなお画面を見続ける新郎に、そっと問いかける。
どうしても、言わなくちゃいけないと思った。
「爽さんは今、幸せですか?」
結婚式ではタブーに近い言葉だし、どんな言葉が返ってくるかもあらかた予想はついていた。それでも、本当に最後までそうなのか確かめたくて、意味もわからず緊張しながら返答を待つ。
彼が言ってた通りになって欲しくないという願望を、少しだけ滲ませて。
画面から目を離した新郎は、キョトンとしてからにっこり笑って口を開く。目尻にはくっきりとシワが刻まれる。
なんとも、人懐っこそうな笑顔だ。
ああ、そうか。
その表情で、私の願いは叶わないことを瞬時に悟る。
「もちろんです!」
一言一句間違うことなくブレることなく、それはしっかりと紡がれた。
その声に一切の迷いはない。それを聞いた私の脳内には、寂しそうながらも笑う彼の笑顔で溢れかえった。
『俺は、アイツが幸せになれてたら何でもいいです。』
去っていくなにも知らない新郎に、感情に任せて言葉をぶつけたくなる。
渡山さんを世界で一番愛していた人がいたのに。
あなたはそんな大切な人を記憶を失って手放したのに。
でも、それは私がしていいことじゃない。
分かっている。全てはどうしようもないことで、誰かが変えられるような単純なものではないということも。
言葉を飲み込む代わりに、ポツリと一粒だけ涙が溢れた。
99
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
僕は今日、謳う
ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。
彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。
彼との最後の思い出が欲しかったから。
彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。
本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。
終始セリフばかりです。
話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。
名前が出てこない短編part4です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が!
あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。
私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。
【BL】無償の愛と愛を知らない僕。
ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。
それが嫌で、僕は家を飛び出した。
僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。
両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。
それから十数年後、僕は彼と再会した。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
彼はオレを推しているらしい
まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。
どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...?
きっかけは突然の雨。
ほのぼのした世界観が書きたくて。
4話で完結です(執筆済み)
需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*)
もし良ければコメントお待ちしております。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる