林檎を並べても、

ロウバイ

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あの春の日

初対面

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「―――さ」

黒いスーツを纏いながら目を輝かせる彼に、何度も口にした自分の名前を教える。桜が舞うこの時期は人との出会いが多くなる。必然的に自己紹介をする機会が増えるから、今年もなにか一言考えておかないといけないなと、ぼんやり考えた。無難に読書だ何だと言っておけばいいだろう。そう考えながら口を閉じると、眼の前の彼は人好きのするような笑顔を浮かべてこっくりと頷いた。

「なら、トキだね。ちなみに俺は、渡山爽。ソウって呼んでよ」
「ソウか。分かった」

そう復唱した俺に、ソウは嬉しそうにはにかむ。いかにも人から好かれそうな笑顔だと思った。
入学式のガヤガヤとした空気の中で、ソウの周りはどこかしんと落ち着いているように見えた。まるで、街が銀世界に姿を変えた夜みたいに。
彼が作り出す表情と少しかけ離れてはいるが、疑問に思う必要はない。答えはなによりも、俺の目の前にいるソウ自身が握っていたから。

じっと横目でソウを見つめる。
この間高校を卒業したとは思えないほど、完成された面の良さ。その顔面で紡がれる落ち着いた表情は男の俺でもついつい見惚れてしまうし、平均は確実にあるであろう身長と控えめながらも鍛えられていることが分かる体は、周囲と一線を画しているのが明白だった。
簡単に言ってしまえば、彼はいい意味で大学一年生という集団のなかで浮いていたのだ。みんなが憧れの目で見ている。
俺も同じ様に黒を基調としたスーツを着ていたが、明らかにソウとは違って見える。
ソウのスーツが高級ブランドのオーダー品とするなら、俺のはせいぜいリクルートスーツだろう。外見だけでこれほど差が出るのかと、途方に暮れそうになる。現実はどこまでも残酷で、どこまでも正直だった。

数多の視線が刺さるように集中しているのを感じる。平凡な俺からすれば射殺されるのではと、馬鹿にも錯覚してしまいそうになる。だがその目線の先はもちろん俺ではなく、俺のとなりに座っているソウだ。流石に妬ましいという気持ちはない。でも、つい羨望の目を周囲に紛れて向けてしまっているのは確かだった。
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